表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
鈴村龍之介の思考/不幸/虚構
30/40

第29話「ずるいとこだよ」


 佐伯ルナ。チートスキル「雌豚」によって操られた何人ものクラスメイトや教師が、彼女と俺達の間に壁をつくるように立っている。

 立っている、というのがなんとか判るくらいの明るさだった。天井の照明が割れて……どころじゃなくて、天井がなくなっていた。教室なのに吹き抜けだ。その上に広がる空は黒雲を広げていて、わずかな陽光が唯一の光源だった。


「壁っつーか、盾っつーか……。おーい! ルナ!」

 返事を期待しないまま声を掛けてみると、こめかみの辺りに熱を感じて、俺は身を引いた。薄く、けれど確かに俺の身体の皮膚は裂かれ、血が滲んでいる。


「『ゴールデンウィークポイント』を使いましょうか?」

 葵が訊いてきたけれど、俺は首を横に振った。話し合いに来たんだ、距離を取る意味なんてない。

 いや、こんなのは「話し合い 」なんかじゃない。俺はただ、ケンカした友達と仲直りしに来ただけだ。


「灰崎くんも、いるみたいだね」

 震える声に眼を遣ると、それでもアリスは笑っていた。そうだよな、友達といるときは笑ってなくちゃな。


 俺達のスキルは「常時発動型」から「無意識選択式発動型」に格上げされたらしい。こっちの世界に戻る時にジャッキーが言っていた。

 字面だけで考えると、たぶん、俺達にとってはより都合よく扱えるようになった……ってことか?


「ルナルナ、話そうぜー! 恋バナとか! なぁ!」

 教室で冗談を話すように、明るい声音を心掛けた。けれど、そう、ここは。いつもの教室だ。それなのに闇のように暗く、声が届いているのかも分からない。


「…………あたしはね、」

 ひとの壁を挟んだ正面から、聞き慣れた声が聞こえた。けれど、いつもの明るい感じは欠片もない。

「あたしはね、龍之介。あんたが好きだよ」

「……知ってるよ」

「髪を明るくしたのも、冗談ばっかり言うのも、勉強頑張るのも、制服着崩すのも、そのへんの男にほいほいついていくのも、全部、ぜーんぶ……あんたの気を引くためだよ。好き、だからだよ」


「ルナルナ。お前は俺に、どうしてほしいんだ?」

 闇の中、あはっ、という笑い声が聞こえた。

「好きになってよ。あたしのこと」

「……悪ぃ。好きなやつがいるんだ」

「……そっか」


 ひとの壁が割れて、ルナルナが姿を現した。俺を見てにっこりと微笑む。可愛いなぁ、とはじめて思った。

「『雌豚』を解くことなんて簡単にできるのに。そうしないのがあんたの優しいとこで、ずるいとこだよ」


 彼女はそのまま教室の端へ向かって、ベランダに続くドアを開けた。止める間もなく、ベランダの手すりに手を掛けて、「じゃね」といつものように挨拶をして。

 空を飛ぶこともなく、ルナルナは教室三つ分の高さから落ちた。


「あ……あ……」

 言葉を失ったアリスを日々子が支えるように抱く。葵は厳しい瞳のまま、周囲に視線を遣っていた。

 死んだ、のか?

 まるで悪夢のような現実に、俺も言葉を発する事ができない。


「へへっ。『覆水盆に返らず』ってな」

 嘲るような声音に顔を上げると、

「寅宗!」

「よぉ。友達を殺すってのはどういう気分だ? 龍之介」

 

 ところでよォ、と寅宗は昨日見たテレビについて話すような口振りで喋り続ける。

「お前の好きな女って、アリスだろ?」

 音もなく風が吹いて、それから悲鳴が聞こえた。

 隣にいるアリスの頬から、鮮血が跳ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ