第27話「見たくないから」
◇
「ダメでしたーっ!」
現実世界から俺達のいる「キルトハイ」に戻って来たアリスの第一声がそれだった。
「おう……」
お疲れ、なんて気安く声を掛けるのはためらわれた。アリスも日々子も葵も、体中擦り傷だらけだ。
大きな外傷はなさそうで、それはよかったけれど、彼女達の表情から心を傷つけられた悲しみが読み取れた。
「何か言われたのか?」
「鈴村くん、それは訊かない方がいいんじゃないかな……」
サギーに制されて、俺は口を噤む。けれど、三人はそれぞれに答えてくれた。ぽつりぽつりと、小さく唇を開いて。
「友達ごっこ、とか」
「優しい振りしてるだけ、とか」
「お金で解決なんてできない、とか」
たぶん、もっとキツい言われ方をしたんだろうと思う。それと葵……金で解決しようとしたのかよ!?
「佐伯さん、凄かったよ。男子も女子も足蹴にして、女王様って感じだった」
「あの力……『雌豚』、やばいね……」
「私のスキルで近付くところまでは成功したんですけど……」
「それなのに傷を負ったのはなぜだい?」
サギーの問いに葵が答える。
「灰崎くんが……いたから、です」
「寅宗!?」
「ええ。だいぶ加減してくれたようでしたけど、彼のスキルでこの通り。ふふっ、無様ですわね」
自身の腕に目を遣りながら葵は微笑した。細い傷口から、赤色が滲んでいる。
「佐伯さんに近付いた刹那に切られました。死角にいらっしゃったので気付かなくて……」
二度と会えないと思ってた寅宗はあっさりと現れて、どうやら俺達を友達だとは思ってくれていないらしい。
「あるいは、『雌豚』に侵されて佐伯さんの奴隷になってる可能性もあるね」
サギーが嫌な仮説を唱えて、俺達は振り出しに戻った。
◇
「でもね、あたし、諦めないから」
傷の処置をされながら、アリスははっきりとそう言った。
「別に、元々そんなに仲良くなかったけどねー。影島さん、佐伯さんって呼び合う程度だしね」
「キャラ的にも相性悪そうだもんなー、お前ら」
俺が茶化すと、アリスは快活に笑った。
「そうそう! 成績優秀で可愛い陽キャとかさー、あたしは妬むしかないからねー」
それでもね、友達だと思ってるから。
「友達」という言葉に力を込めるように、アリスはそう言った。
「佐伯さんが何をどう思ってるかなんて、あたしは知らないし、わからないよ。でも、あたしは友達の寂しそうな顔とか、見たくないから」
「うん……アリスはやっぱり、いい子だよ……」
日々子が強く頷いて、椅子に腰掛けたアリスの頭を撫でた。
葵が椅子から立ち上がり、
「それで、これからどうします? 今度は全員で突撃しますか?」
「いや、一度移動しよう。二人の力はやっぱり、不可欠なんだと思うよ。二人は嫌かもしれないけどね」
サギーは俺とアリスを指差して、
「移動先は異世界『バーガーランド』。君達は弱虫の抜け殻のひとつ、ジャッキーに会うべきだ」
「会って、どうするんだよ?」
「もちろん、チートスレイヤーズの再結成さ!」




