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チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
鈴村龍之介の思考/不幸/虚構
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第25話「やっと二人きりになれたね」


「ルナさんのスキル『雌豚』は、近くにいるすべての人間をランダムに選別して影響を与えます。近付いてしまえば、その時点で終わりですね」


 ルナルナが持つ能力について、葵はいつもと変わらないゆったりとした口調で話す。


「それでも、私のスキルを使えば安全な距離を保つことは出来ます。向こうからは近付けず、こちらからは近付ける。それが私のスキルですから」

「『ゴールデンウィークポイント』だね。それで、近付いてどうしようか? 殴って佐伯さんの意識を奪う、とかかな?」

「おいおい……」


 サギーが物騒なことを言いやがった。ルナルナを殴るって、お前……。


「うん? どうしたんだい鈴村くん? 君だってたくさん生物を傷付けてきたじゃないか」

 異世界でのことを言ってるんだろう。まるで俺達の行いを見てきたかのようにサギーは続ける。

「関係ない奴らは殺してもよくて、友達は傷付けちゃダメ? 何だいその道理は? 君は神様なのかい?」


 華奢なティーカップから立つ湯気からは甘い匂いがする。

 テーブルを囲んで座る俺達は葵を除いていつもの制服姿で、豪奢な部屋からは完全に浮いていた。


「それでも、友達だから……」

 異世界でチート達を傷付けてきた罪は負うし、罰も受ける。でも、自分の世界の、自分の友達は守りたい。

 願いが、叶わなくなってもいいから……。


「友達を傷付けたくない、ということについては同感です」

 葵が柔らかく微笑んで、言葉を紡ぐ。

「私は『平穏』を守りたい。ただそれだけです」

「『平穏』?」

「そうです。私は産まれは鈴村くんと同じ世界で、育ったのはこっちの世界です。私にとってこっちの世界は『仕事用』、あっちの世界は『休息用』ですから」

「教室での友達ごっこも『休息』ってことだね、赤瀬川さん」

「否定はしません」


 葵はカップに口を付けて、小さく喉を鳴らした。

「それでも、『雌豚』はなんとかして止めないと仕方がないんじゃないかな?」

 いつの間にかサギーが議長のような立場になっていて、俺は苦笑した。まるでいつかの倫理の授業みたいだ。


「あたしも、佐伯さんを傷付けたくはない……です。でも、佐伯さんがクラスメイトを傷付けるのも嫌だよ……」

 そうアリスは泣きそうな声で意見を述べて、

「アリス……説得、しに行こうよ……。わたしと一緒に……」

 日々子がそれを支えるように提案した。


「葵のスキル……ルナのスキルを遠ざけたまま、ルナに近付くこと……出来る……?」

「うーん、長時間は無理かも知れませんけど、やってみましょうか」

「それなら、ね……アリス……」

「……うん。ありがとう。ヒビィ、むぅちゃん」

 

 あたし、佐伯さんと話してみる。

 そう言って顔を上げたアリスの目は真っ赤で、けれどそこには意思の光が宿っているように見えた。


「それじゃあ、早い方がいいですね。私とアリスと日々子さんと……」

「僕はパス」

 サギーが片手をひらひらさせて断った。

 俺は数秒悩んでから、

「俺も、やめとく。女子だけの方がいい気がするし」


 ルナルナが呟いた「いらない」という言葉が頭を過ぎって、そう決めた。

 女子だけの方が、とか体のいいことを言って、結局俺は逃げたのだった。



 闇色の渦に包まれて、女子達は現実世界へ向かう。

 煌びやかな部屋には、俺とサギーの二人だけが残された。


「やっと二人きりになれたね」

「……そういう台詞は女子に言われたいな」

「ははっ。鈴村くんは冗談がうまいなぁ」

「お前は存在自体が冗談みたいだよな、サギー」

 

 そして、俺は友達、鷺沼正義に問い掛ける。

「いや、サギーじゃない。お前は……ジャッキーだな?」

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