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チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
鈴村龍之介の思考/不幸/虚構
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第18話「平穏……」


 日々子がジャクバでバイトしてる理由を、俺はなんとなく察している。

 高校生がバイトする理由。家庭の事情っていうのも耳にするけど、大抵は自分達の小遣い稼ぎだ。服を買うにも食事をするにも金は必要で、あればあるだけ困りはしない。


 ただ、日々子はどうやら稼いだ金を他人のために遣うつもりらしかった。

 大好きな友達、影島アリスの誕生日が近いのだ。


 その日、ジャクバに行く話をしていたアリスと葵に、からかうつもりなら行くのはよしてやれ、と釘を刺して俺は家路に就いた。

 決して接客に向いていないであろう日々子のことだ、他人に笑顔を向けるのは苦痛でしかないだろうし、それをアリスに笑われるのは更に辛いだろう。


「むぅー」と膨れる葵とは対照的に、アリスは俺の台詞の意味に気付いたようだった。

 自分のために働いていること、では勿論なく、無自覚に日々子を傷付けていたことに。

 

 あー、言い過ぎたか……?

 あいつの母親のこともあったし、明日にでもフォロー入れとくか。


 本人の口からはっきりと聞いたわけじゃないけど、チートスレイヤーズを始める以前のあいつの家は酷く貧しかったらしい。

 だから、アリスはジャッキーに「お金」を願った。先払いでいくらか貰って、それで生活を立て直した、とか。


 あいつは自分の生活のために、チート達を殺めている。

 それを俺は誤っているとは言えないし、責める気もない。


 学校帰りに一人で歩きながら女子のことを考えるのは健全な男子高校生の日常だが、内容が暗すぎるな……。


「すずむら、くんっ」

 息を切らした声で葵が駆け寄ってきた。だいぶ走ったのか、顔が赤い。それに、

「家は逆方向だろ?」

「違うんですっ」

 喘ぐように呼吸しながら、真剣な瞳で俺を覗き込む葵。

「……何が違うんだ?」


 葵はすうっ、と息を吸い込み、

「私はっ、……平穏を守りたいだけなんです!」


 返す言葉を俺が探している間に、葵は来た道を引き返して行った。


 平穏……平穏、ねぇ。まるで日常が平和じゃないみたいな言い方だな。

 守る、だなんてまるで俺達チートスレイヤーズみたいな物言いだ。まぁ、俺達は人を殺して世界を守ってるんだけどな。物騒過ぎる。


 しかし、潤んだ瞳で見つめられたのに一切ドキドキしなかったのは俺が鈍いからなのか、台詞の内容のせいか。

「『殺し屋』みたいな感じだったな……」

 いつだったか、どこかの異世界で俺達が倒した「殺し屋」を名乗る人間の眼と、葵の眼差しは少し似ている気がした。



「平穏を守りたい」という彼女の言葉に偽りはない。

 王家直下暗殺部隊「揺籃」隊長。それが赤瀬川葵の異世界での立場だ。

 

 人を殺めることに長け、それに生き甲斐を感じていた彼女はしかし、この世界で「平穏 」を知ってしまった。


 今日も家に帰ってから異世界へ向かう予定だ。人を殺め、その報酬で暮らす。

 報酬とは言うけれど、私が行っているのは仕事ではなく殺人だ。

 お金はいくらあっても困らないけれど、「働く」なんて馬鹿らしいじゃないか。


「平穏……」

 足を止め、小さく呟いて、葵は信号が青に変わるのを待つ。

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