表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
【幕間】
PR
17/40

第16話「あはっ。」


 佐伯ルナは鈴村龍之介に恋をしている。級友達はそう勘違いしている。


 ルナが龍之介に執着する理由--それは恋では、決してない。

 チートスレイヤーズが「ジャッキー」と呼ぶ存在、彼に命じられて日々二人の観察を続ける中で、ルナが龍之介に対して抱いた感情はたった一つ。


「憎悪」とこの世界の住人は呼ぶ。


 誰からも愛されず、誰からも嫌われない。故に、敵も味方も作らない。

 それが佐伯ルナの持つスキル「雌豚」だった。


 こことは異なる世界「コンプリートレックス」で、ルナは娼婦の娘として生まれた。

 何不自由ない暮らしだった。腐りかけの食物で腹を下し、周囲からは嘲笑される。彼女はそれを当たり前のように「恵まれた暮らし」だと信じていた。


 齢十四を迎えたある夜、痩せた身体を冷たい床に横たえて、ルナは死を迎えようとしていた。誰からも愛されることのなかった人生の終わりを迎えて、その時初めて彼女は己の生涯に疑いを持った。


 そして、彼女は思念体と出逢う。神の導きでも運命の悪戯でもなくそれは、雪が解けて水になるくらいのつまらない必然だった。後悔という感情を、彼は特に好むからだ。

 今際の際の走馬灯。そう思ったが、それは言葉を発した。


 復讐したくないの~? 手伝ってあげるからさ。


 もう身体は動かない。今にも消えそうな意識の中で、彼女は肯定の意思を示した。


 目が覚めた時、彼女はベッドに寝かされていた。赤子の姿の自分を、知らない男と女が自分のことを愛おしそうに眺めていた。


 やり直せばいいんだよ~。その代わり、手伝ってね~。


 転生、というらしい。全く新しい生命として異なる世界に誕生した彼女は、今世でこそ誰かに愛されよう。そう誓った。


「雌豚」の能力は思念体によって上書きされていた。

 曰く、全ての人間に愛される、けれど自らは誰を愛することも出来ない。


 地獄のような日々だった。誰も彼もが彼女に愛を求め、救いを乞うてくる。けれど、彼女はそれが気持ち悪くて仕方ないのだ。


 それでも、前世での暮らしよりはずっといいとルナは思った。そう思わないと生きてはいけなかった。生きていたかった。

 虫に触るように人を抱き、汚物を褒めるように人を褒める。他人を愛せず、己のことも愛せない。それでも生への執着だけが、呼吸を続けさせた。

 

 思念体は言う。

 いいぞ、いいぞ、もっと愛されちゃえ~。


 十七歳を迎える頃、ルナはすっかり壊れてしまった。

 壊れたまま死んでしまえばよかった。

 生き続けて、鈴村龍之介と出逢ったことで彼女は新たな地獄を見つける。


 鈴村龍之介、「静」の力。あらゆるチートスキルの無効化。常時発動型。


 ルナの「雌豚」は一切の効果を失う。全ての人間に愛されることなどなく、自らが誰かを愛さないこともない。

 つまり、彼女は十七歳にして初めて「愛さなければ愛されない」という価値観を知った。


 もちろん、それは一部の人間だけが持つ思考ではあったのだが……ルナはそれに囚われてしまった。


「愛さなければ」「愛さなければ」「愛さなければ」……「愛してほしい」。


 身体を与えれば刹那的な「愛」は得られる。若い女だと喜ばれ、しかしそれはすぐに失われる。


「やめろよ。つまんねーよ、そういうの」

 愛ではなく優しさで、龍之介はルナにそう言った。けれど、愛を求めるばかりのルナはそれに憤る。

 愛しても愛してくれない。お前は要らない。

 

 二度の地獄と歪んだ思想によって、佐伯ルナは鈴村龍之介を憎んでいる。

 誰にでも優しく平等に接する龍之介。彼はわたしを愛してはくれないから、と愛を求めるだけの佐伯ルナ。


 湧き上がる感情をしなやかに首に回して、それでも「雌豚」は愛を求める。



「ルナルナ、やめろっつーの」

「あはっ。いーでしょー、龍之介ー」

前話から続けてモノローグ風にお届けしました。少し、日常に戻ります。

評価、ご意見、ご感想などなどお待ちしておりますー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ