第13話「『クラスメイトも実は超能力者でしたー』とか、」
◇
「『 混沌の綻び! 喪失の輝き! 悪食の神よ、穿て空を!』……で、いいの?」
いいの? の返事を求めたけど、問い掛けた相手--チートな魔術を遣う少女は、空から降ってきた巨大な槍に貫かれて絶命していた。
「……合ってたみたいだね。なんかもう、長い詠唱って照れくさいなー」
「てへっ、って顔すんなよ。余計に怖いぞ」
槍とあたしを交互に眺めて、クズ村が呆れた声を出した。
ここは異世界……「ブラックリッパー」だったっけ? 砂漠がメインの世界のようだった。
冒険とか探索とかすることもなく、いつも通りにチートの近くに転送されてあっさりと討伐を終えたあたし達。
倒したチートは盗賊のような衣装をまとった少女だった。周りを囲む仲間達も同じ年頃の男の子ばっかりで、少し胸が傷んだ。
「エリーザ……」「まさか、そんな……」男の子達の悲痛な声が鼓膜を揺らす。
その中に、少女ではなくあたし達をじっと見つめている男の子が一人だけいた。深くフードを被っているけれど、その奥の瞳は確かにあたし達に向けられている。
まだらの渦に包まれて、いつもの待機用異世界に転送されるあたしは「え、」
びっくりして、思わず呼び掛けた。
「灰崎くん……?」
渦はあたしをぐるぐると包んで、すぐに視界は遮られた。
あたし達を見つめていた男の子は……似ているように見えた。そっくりだった。あたし達のクラスメイト、尾井萩高校のタイガーアンドドラゴンの片割れ、灰崎寅宗くんに。
◇
「何だよそのラノベ的展開? そういうの好きだっけ?」
待機用異世界「バーガーランド」でポテトをつまみながら、クズ村はつまらなそうに言った。
「いや、そんなことないけど」
冷静なツッコミを受けて、あたしはしゅんとする。そうだよね、フード被ってたから顔はよく見えなかったし、背格好が似てただけだよね。
「『クラスメイトも実は超能力者でしたー』とか、食傷気味っつーか、腹壊すぞ」
「あーうん、もういいや。ポテト食べようポテト」
意識をかちっと切り替えてポテトを頬張りながら、あたしはジャッキー(げんぶつしきゅう~!)が来るのを待った。
◇
現実世界に戻って灰崎くんの姿を探すと、いつものようにスマホの画面を覗きながらクズ村と笑い合っていた。
いやそりゃ、そのタイミングで呼び出されたんなら灰崎くんのことを疑うとかしないよねー。
ははは、と乾いた笑い声を口の端から漏らすあたしを、
「大丈夫? あたしのアリス……」
ヒビィが心配そうに見つめていた。
◇
気付かれてはいないみたいだな。
灰崎寅宗はスマホに視線を遣ったまま、心の中で呟いた。
危なかった、チートスキルを持っているのはエリーザと俺、二人いたけれど……どうやらエリーザ一人を倒した所でこいつらの任務は完了したらしい。
しかし、貴重な仲間を失ってしまった。仲間という言葉では足りないくらい、俺にとっては掛け替えのない存在だった。
「『覆水盆に返らず』か……」
「ことわざ好きだなぁ、お前!」
龍之介が笑いながら肩を叩いてくる。寅宗はいつものように「おーよ!」と快活に応えた。
教室の中、瞳に宿った怨嗟の炎に気付くものは一人としていなかった。




