第1章 : 導入
アルドヘイムルでは、刻印は刻まれるものではない。
顕現するものだ。
それは皮膚には宿らない。
もっと深い場所――魂の髄に埋め込まれた鼓動として存在している。
トリケトラは通常の状態では見えない。
まだ思い描かれてすらいない想念のように。
いまだ肉を味わったことのない刃のように。
静かに潜んでいる。
姿を現すのは、限られた状況だけだ。
登録のプリズムを前にした時。
圧力に晒された時。
あるいは、力が目覚めた時。
その瞬間――現実が張り詰める。
左手の甲に、不可能な図形が浮かび上がる。
存在するか、それとも再び流れへ還るかを迷うかのように、宙に留まっている。
それは耳には届かない周波数で震える。
だが、その振動は骨の奥で感じられる。
飾りではない。
それは錨だ。
肉体はそれを吐き出そうとする……。
それでも魂は、本能だけでそれを留める。
誰もがそれを持つわけではない。
刻印が顕現しないまま、生きて死ぬ者もいる。
そのような者に、プリズムが返すのは沈黙だけだ。
形はない――あるのは、不在だけ。
爪の間に土を詰まらせた農夫。
糸の摩擦で指先を焼きながら、まるで結び目ひとつひとつに命が懸かっているかのように、それを数える機織り。
彼は知っている。
布を支えるのは魔法ではない。
自らの努力によって生まれる、正確な張力なのだと。
煙とジョッキに囲まれ、息を吐くように音を奏でる楽師。
神々のためではない。
誰かがほんのひとときでも痛みを忘れられるように。
燃え上がることはない……。
それでも、支える手はある。
そして、目覚める者たちがいる。
彼らにトリケトラが顕現した時、その光は微かなものではない。
静かなものでもない。
燃える。
赤く。
肺の鼓動に合わせて脈打つ熾火。
英雄と冒険者。
同じ炎に刻まれながら、ひとつの儀式によって分かたれた者たち。
ギルド。
登録のプリズム。
血を分類する、無機質な存在。
それらは価値を裁かない。
ただ、その偏りの有用性を測る。
年齢。
資源。
PG――栄光ポイント。
数字が決める。
誰が称号を与えられるのか……。
そして、誰が最初に死地へ送られるのかを。
ギルドは紙の上でランクを決める。
だが、戦場は……。
戦場こそが、唯一、ひとつの道を目覚めさせる。
なぜなら、パスとは安易な選択ではなく、ひとつの亀裂なのだから。
同じ深淵を前にした、二つの道。
統御――己の意志を世界へ押し付ける道。
自在――流れに身を委ね、その中を進む道。
それぞれの道は、二つのアーツを与える。
攻めるため、壊すため、あるいは生き延びるための、唯一無二の術。
そこではマナは、もはやエネルギーではない。
身振りとなる。
赤い刻印は、それぞれ異なる飢えを宿している。
あるものは、空気を光の鞭へと変える。
あるものは、筋肉を張り詰めさせ、反射を研ぎ澄まし、人間の理を打ち砕く。
だが、すべては同じ泉から飲んでいる。
マナは蓄えておくための灯火ではない。
共鳴だ。
意志と象徴の間で震える橋。
そして、その奥底にあるもの――核。
見えざる炎。
息吹を動かす原動力。
その鼓動が止まれば、光は消え、人は倒れる。
グローンヴィンドルの谷は、まるで約束のように広がっていた。
世界を見守るかのような青い山々の下に広がる、翡翠のキャンバス。
古い物語を囁く松林。
東には、アルヴストラウム川。
光の下で囁く、深い流れ。
谷が残したものを運び去りながら、エイダルルへと向かっている。
そこでは川幅が広がり、道と道が交わる。
何も持たない者たちが、すべてになろうとして集まる場所だった。
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本作『銀の糸』は、本格的なダークファンタジーとして展開していきます。
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