推薦状×ガザフ
城の入り口に着いた俺は、象でも入れる程の大きな門に圧倒されて見上げている。
ほぇーー……
近くで見るとめちゃくちゃデカいな……
「おい、オマエ! 何の用だ!」
見上げていた目線を声のする方へ変えると、槍を持ち軽装な防具を付けた門番らしき兵がこちらに近付きながら話しかけていた。
怪しい奴と思われたんだろうか?
入り口でこんなに見上げていたらそりゃそうか。
「あの、これを……」
俺は威圧的な態度に弱い。
恐る恐る門番にアリアから受け取った推薦状を渡した。
門番は推薦状に目を通すと、下から上へと俺を舐めるように見てきた。
「オマエみたいな奴がガザフ公爵の直属に……? まぁ推薦状も持っているしついて来い」
あぁ……
高圧的すぎる……
俺はその門番に並んで城の中に入った。
門を抜けると手入れの行き届いた広い庭があり、更に奥に城内へ続く門がある。
その門を入ると目の前には赤い絨毯の敷かれた大きな階段があり2階への続いている。
見渡す限り廊下と、それに面するように部屋がある。
めっちゃ探検したいけど、迷子になる気しかしないな。
用事のない所には行かないようにしよう。
大きな階段を上がると正面にこれまた両開きの大きなドアがある。
「ここにガザフ公爵はいらっしゃる。態度に気をつけろよ!」
失礼な態度をとりそうな奴だと思われたのか、何もしていないのに威圧的に注意された。
門番がドアをノックする。
「失礼します! ガザフ公爵宛への推薦状を持つ者をお連れ致しました!」
門番は閉まったままのドア越しに大きな声で中に話しかけていた。
「入れ!」
中からはこの門番より偉い身分であろう口調での声がした。
俺は門番に連れられるよう一緒に中に入ると、奥の玉座のような椅子に座っているおじさん。
そのおじさんの横には更に3人のおじさん。
椅子に座るおじさんの正面には、これまた更に2人のおじさんがいた。
オッサンだらけで誰が誰だかわかんない。
「この者は?」
玉座の横の3人のオッサンのうちの1人が門番に問いかける。
門番は槍を直角に立て、背筋を伸ばして斜め上を向きながら推薦状の件を説明をしてくれた。
門番が説明を終えると話していたオッサンに推薦状を手渡し、オッサンは読み終えると推薦状を握り潰し、俺の方を鋭い目付きで見てきた。
「ほう…… あのアリアが生意気にも儂に推薦状を。これはただ追い返す訳にはいかんな」
あら、どう見てもアリアさん嫌われてる様子だよ?
アタイすんごい目付きで睨まれてる……
オッサンは門番を自分の近くに呼び、何か伝えると門番は颯爽と部屋を出ていった。
「ダイキといったか。アリアが儂の元に部下の推薦とは…… こんなに嬉しい日はないな。しかし申し訳ないが儂はオマエという人間を全く知らぬ。いくらアリアからの推薦状を持ってきてるからといって、簡単に受け入れたのであれば他の部下から不服の声があがる事は目に見えておる。この場で儂の部下に見合うということを皆に納得させるにはどうしたらよいか……」
アリアさんめっちゃ嫌われてるやん。
要するに、誰かと俺を戦わせて、この場でアリアの推薦者をボコボコにして笑い者にしようっていう腹が丸見えだな。
回りくどい言い方しなくても、アリアが嫌いだからイヤって言えばいいのに……
「要するに今の門番兵が呼びにいった人と戦って勝てば、皆さん納得されるということですか?」
俺はガサフ卿が頑張って取り繕っていた言葉を一言で済ませた。
周りにいるオッサンたちが手で口を覆って笑いを堪えている。
ガザフ公爵はそれを見て怪訝そうな表情になり、また俺を鋭い目付きで睨んできた。
「ガザフ公爵! 第五級聖騎士ドレイク師団長をお連れしました!」
先程の門番が戻ってきて大きな声を上げた。
ドレイク【師団長】?
第五級聖騎士!?
は!? 師団長クラス?
コイツどんだけ俺をボコりたいんだよ!!
門番が連れてきた男は、顔以外の全身にホワイトメイルの鎧を装備する師団長クラスの男だった。
自衛団の騎士についてはアリアに説明されていた。
第一級から第三級の従士がいる。
その上に第一級から第五級の聖騎士がいて、第三級にもなると隊長クラスにもなる。
それが第五級聖騎士ならその隊長をまとめる師団長クラスだ。
ドレイクはガサフ卿の前まで進み立ち止まった。
「ガザフ公爵。どのような御用でしょうか?」
ガザフ公爵は俺がアリアの推薦状を持っていることを説明し、俺のことを無条件で自分直属の部下になろうとしている軽い精神性の男だと話していた。
推薦状持ってきたからと言っても、試験ぐらいはあるつもりでいたからブライの所で修行までしてたのに……
流石にあの言われようはショック……
「いや…… あの、それは違ぃ……」
ガザフがする俺の説明を否定しようとしたがその瞬間、ガサフの方を見ていたドレイクが俺の方を振り返り視線に圧倒された。
「なるほど。その舐め切った輩の首でも添えて推薦状の出し主に送り返すおつもりですな」
ドレイクはそう言うと、腰から下げた剣を握りこちらへジリジリと近付いてくる。
「流石は師団長ともなると皆まで言わずとも話しが早いな! ただ、これは試験の試合だからな! やりすぎて相手を殺してしまう場合もあるということだ! ダイキとやら、儂の部下に見合うという証明をしてくれ!」
はぁ??
典型的な悪代官じゃねぇか。
名目は試験で、ただ俺が殺されるだけの試合だってか。
どう足掻いても近付いてくるドレイクを言葉で止めることは不可能だと思い、俺も覚悟を決めて剣を抜く。
「ほぅ…… レアメタルの剣か。素人のくせにいい剣を持ってるな」
ドレイクは俺が抜いた剣を見ると関心するように言い、自分の剣を抜いた。
「いくぞ」
ドレイクは俺に一言告げると、音を置き去りにするような速さで目の前まで踏み込んできた。
俺は咄嗟に後方へ飛ぶと、俺がさっきまで居た場所に空間が歪む程の斬撃の痕があった。
危な……
ちょっとでも遅れてたら死んでた……
俺は自分がこの男より優れている点で勝負することにした。
せっかく習得した剣技だが、残念ながらとてもそれだけではドレイクに勝てる見込みは全くない。
俺は思いっきり上へジャンプした。
一瞬にして高い天井まで到達する。
下にいるオッサンたちは俺が消えたとでも思っているのか周りを見渡し俺を探している。
流石のドレイクもすぐには俺の速さに目が追いつかないらしく、俺の方を見上げたのは俺が次の行動の所作を済ませた頃だった。
次は天井を思いっきり蹴り、壁へと移る。
次は壁を蹴り、反対の壁へ。
俺は不規則に壁や天井を蹴りながら移動する。
この世界の常人には壁や天井を蹴った音に反応するのがやっとだろう。
ドレイクの目は俺の移動についてきているが、かなり遅れている。
俺は少しスピードを上げると同時に剣を抜きドレイクの元へ真っ直ぐに飛んだ。
もらった!
そう思ったがドレイクは目で見えた訳ではなく、これまでの経験から身体が勝手に反応したかのように俺の剣を自分の剣で防いだ。
「滅茶苦茶な動きだがやるな……」
剣と剣がぶつかり合う力比べならダントツで俺の勝ちだが、相手は師団長。
さっき殺されかけた時に、勝てそうな場面だろうと剣技のみで戦うのは絶対避けるべきだと決めていた。
俺はネックレスを握りしめ魔法を唱える。
「フェゴ」
ネックレスから手を離し、その手をドレイクの目の前にかざした。
俺の手から火の塊が放たれ、その火がドレイクの顔を包み込んだ。
驚いたドレイクが打ち合っている剣を握る力を抜いた瞬間、俺がドレイクの装備している白い鎧を思いっきりぶん殴ると鎧は割れ、ドレイクは壁までめり込むように飛んでいった。
はぁ…… なんとか力技で勝てた。
安堵して剣を鞘にしまい込むと、顔から煙を上げたドレイクが壁から凄い勢いで飛び出して俺の喉元目掛けて剣を伸ばしてきた。
やばっ…… !!
俺はさっきの攻防で終わったと思い込み完全に油断していた。
身体が全く反応できない。
殺される……!?
その思考すら追いつかないほどに死を覚悟したその時、どこからか飛んできた何かがドレイクの剣に当たり剣筋が逸れた。
俺とドレイクはほぼ同時に、その物体が飛んできた方に目を向けると、ガザフ公爵の隣に立っていた三人のオッサンのうちの一人が何かを投げたであろう体勢でこちらを見ていた。
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