deta,60:一撃KO
その夜、エレイン・ローレンスはセレア・メイランドの部屋のベッドの上に身を任せていた。
胸に両手を当てながら、ぼんやりと天井を見つめているエレインに、セレアが不思議そうに声を掛ける。
「どうしたのエレイン……? 今日は随分おとなしいじゃない……」
これにエレインは頬を紅潮させた様子で、呟くように答える。
「研究所に帰ってから今までずっとね、胸のドキドキが止まらないの……」
「胸のドキドキ……? 熱は?」
セレアが椅子から立ち上がり、エレインの額に手を当てるが。
「熱はないみたいだけど……顔が赤いわ。どうしてかしら」
セレアも小首を傾げる。
「気付けばあたし、あの人のことばかり考えてるの……」
「あの人のことばかり……?」
これにセレアはピンと来て、クスクスと笑い始めた。
「え? 何? どうかしたの?」
普段あまり笑うことのないセレアの様子に、エレインは不思議そうに彼女を見る。
「エレイン。それはきっと、恋よ」
「恋……?」
「ええ。私は“その人”に会ったことないから分からないけど、エレインのその様子から察するに、恋に間違いないわ。いいじゃない。エレインも14歳なんだから恋愛感情が芽生えてもおかしくないわ。いつか私にも、そのイケメン君を紹介してね」
セレアの優しい微笑みに、更に頬を紅潮させながらもコクリと頷くエレイン。
相手は“女”であることを、心で思いながら。
「ねぇセレア。今日はここで眠ってもいい?」
「クス……ええ、いいわよ。夜は私の時間だし、エレインはゆっくりここで眠るといいわ」
「セレアもいつものお散歩?」
「ええ。今日は一人だけどピクニックでも楽しんでみようかと思って。少しは何か変化ある方が楽しいでしょう? だから今からお弁当を作るわ」
「そっか……ごめんねセレア。最近付き合ってやれなくて……」
エレインは言いながら、大きな欠伸をする。
「気にしないで。じゃあゆっくりおやすみエレイン。良い夢を……」
言うとセレアは、エレインの額に口づけをしてから、自分の部屋を出た。
セレアが一階へ下りると、氷室遊弥が一人、リビングのソファーに座っていた。
「あら遊弥君。今日は鮫島さんと一緒じゃないの?」
「鮫島さんは昨夜のダルタニアス争奪戦で一撃KOされたショックから、自宅にこもってます。しかもJKから!」
言ってからケラケラ笑う氷室に、キョトンとするセレア。
「ダルタニアスさんの情報を握っているとか言う、女子高生の子?」
「そうそう! 前にセレアとエレインの二人にも説明した、悠貴美誠って子っスよ」
「まぁ。それは鮫島さんも災難だったわね。その子がそんなに強かっただなんて」
セレアもクスクスと笑う。
セレア自身、クローン成功化を望んでいないのもあって、正直そういう展開の方が都合が良かった。
キッチンへ向かうセレアに、氷室が声を掛ける。
「あれ? 姫、今から料理でも?」
「ええ。昼間は私、寝てるから、今から朝ご飯を兼ねて」
適当に、氷室へ誤魔化すセレア。
「そうっスか。じゃあ、別にここも何も問題ないみたいだし、俺も帰って寝ますわ」
「ええ。お疲れ様」
リビングを後にする氷室に声を掛けてから、セレアは冷蔵庫を覗き込んだ……。
バスケットに手作り弁当を入れて、いつもの場所へとやって来たセレア。
今夜は少し雲が出ていたが、決して星が見えないわけではなかった。
月も少し欠けてはいるが、その輝きは失われてはいない。
太陽には嫌われている彼女ではあったが、夜の輝きはいつもセレアを優しく包み込んでくれる。
セレアもそんな夜を素直に愛した。
だから決して、寂しいという気持ちはない。
森の中ではフクロウが鳴いているが、それも彼女の中では心地良い。
ふと、エレインとの会話を思い出す。
「恋、かぁ……。まぁ、私には縁のない世界ね」
一人ごちるとクスッと笑う。
しかし。
「そうとは限らないわよ」
突然の別の声に、ビクリと肩を弾ませるセレア。
「おこんばんは。セレア。あたしよ、カイよ☆」
「あ、カイ……こ、こんばんは……びっくりしたわ」
「あら、それはごめんなさいね。今日は真昼間中ずっとうちのソファーでだらけていたから、体動かそうとここまで来てみたの。またセレアにも会いたかったし」
「私に……? どうして?」
「どうして? それはあなたが一人だからよ。それに以前“また今度”って約束したでしょ」
水沢堂魁は言いながらセレアの側まで歩み寄ると、遠慮なく隣へ座り込む。
「でもこうしてシートまで広げてどうしたの?」
「あ、それは、その……」
「バスケットもあるってことは、ピクニック? 他に誰かいるの?」
「……」
「いないのね。じゃあ、あたしが付き合ってもいいかしら?」
魁は言うと、ニッコリとセレアへと笑顔を見せた。




