Data,44:その父親のこと、好きだった?
「美味しい!!」
悠貴美誠は、ラフィン=ジーン・ダルタニアスが出してきた紅茶を飲んで、感激の声を上げた。
「頭を使うと脳も疲弊しますからね。アールグレイにオレンジを絞って、ハチミツを入れたのです」
「まぁ、まぁ~! こんな美味しい紅茶、初めて飲んだよ! スゲーなラフィン!」
「いえ、父からの受け入りです」
彼女のオーバーなまでのはしゃぎように、ラフィンはクスクス笑う。
「父って……」
「私を生み出した、もう一人の“人間”の私です」
あっさりと言ってのけるラフィンの言葉には、特別な重みはなかった。
「そっか。ラフィンはその父親のこと、好きだった?」
「ええ。とても可愛がって頂きましたよ」
ラフィンは言うと、ニッコリ笑った。
「うん、良かった」
これに美誠も、笑顔を見せる。
そしてクーッとカップを仰いで中身を一気に飲み干すと、ラフィンにカップを突き出した。
「おかわり!!」
「はい」
クスクス笑いながらカップを受け取ると、ラフィンは側に置いてあるガラスのポットから、紅茶を注いで美誠のソーサーに置いた。
麻宮清神父は、畑に出ている。
二人の間にゆったりとした時間が流れる。
茶請けに、切り分けられたパウンドケーキが用意されていた。
もれなくそれへと手を伸ばす美誠。
「まぁこんなことラフィンに聞いても仕方ねぇことなのかも知んねぇけど、両親がいるってどんな感じなんだろうな」
「そうですねぇ……私も父親一人でしたし……母親がどんなものかまでは解かりかねますし……」
「しかもラフィンの場合は特殊だもんな」
「ええ。普通一般とは勝手が違うでしょうね」
「ふーむ……」
「……」
「……」
「……アレにだったら解かるかも知れませんよ」
「……ああ、アレか」
「はい、そうです」
「! そうだ! 今度アレの……魁のまんじゅう屋に行ってみねぇ!? 何せ老舗だって言うし!」
「それは面白いアイデアですね……」
美誠の発案に、ラフィンは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
仮にも自分を助けてくれた恩人相手である……。
ゾクゾクゾク!!
「あー、今悪寒が走ったわ。ヤダわ。なぜかしら」
水沢堂魁は一人、咥えタバコで両腕を何度も擦った。
古い団地の一室に、魁の住宅はあった。
綺麗に片付いた1LDKにて、魁はパソコンと向かい合っていた。
今PCでライフサイエンス研究所のサイトにアクセスしている。
そこの代表所長は、氏中洋人51歳……。
主な活動内容は遺伝子操作の研究……研究員の人数、三人……。
研究所の割には人数が少なすぎるわね。
魁は内心、ふと思った。
そう。元々は五人だったが、この二年の間に二人が辞めていることまでは、サイトから知ることは出来なかった。
「これは少し周辺を探ってみる必要があるわね」
しかし何せ失敗作のクローンを傭兵に使っている所なので、注意が必要だ。
魁はコーヒーの空き缶に、タバコの吸殻を放り込む。
「ここは遊ちゃんにも付き合ってもらうべきね」
何せ鮫島には顔が割れているので、気付かれるわけにはいかない。
問題は昼に動くか、夜に動くか……。
魁は両腕を組むと、うーむと考えながら天井を仰いだ。
しばらく悩んだ後、おもむろにスマホを手に取ると、氷室遊弥へと繋ぐ。
10秒程の呼び出しコールの後、遊弥が出る。
「遊ちゃん、もし研究所に侵入するとしたら昼と夜、どっちがいい?」
これにスマホの向こうから、ブホッ! と口から液体を吹き出す気配がした。
“もう突入する気ですか! もう少し様子を見た方が……”
「まだ突入しないわよぉ。ちょーっと、遊ちゃんの言うとおり、様子を見るだけ♪」
“そうっスか……まぁ俺的には、夜の方が無難だと思うかな”
「そ。じゃああたし外を探るから、遊ちゃんは中で状況説明の連絡係りして頂戴☆」
“えっ! 俺もっスか!?”
「当然でしょー。中に堂々と入れるのはあんただけなんだから」
これに、スマホの向こうから嘆息が漏れた……。




