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46/94

Data,45:バイキング料理



 翌日の午前中。

 悠貴美誠(ゆうきみこと)が教会の掃除に出てくると、礼拝堂の一番後ろの長椅子に、一人の少女がポツンと座っていた。


「あれ……? エレインじゃないか。どうしたんだ? 今日は午後からだぞ?」


 美誠は、祭壇にある神々しい十字架を、ただただジィッと見つめていたエレイン・ローレンスに声をかけた。


「うん。先に来てお祈りをしたかったから。それに……ミコトとも何か話してみたくて」


「俺と?」


「あたし、友達と呼べるの、一人もいないから……」


「成る程な。そっか! 俺は別にいいぞ」

 

 美誠は承諾すると、ニカッと笑って見せた。

 すると二人が会話する声に誘われて、髪を後ろ一つに束ねた、ラフィン=ジーン・ダルタニアスが姿を現した。


「どうしましたか? どなたかがいらっしゃるのですか?」


 ラフィンのその声を聞いた瞬間、突然エレインはヒッと短く悲鳴を上げて美誠の袖にしがみついた。


「何だよ。どうしたんだ?」


「あ、あ、あたし……っ、男性恐怖症なの……!!」


「おやそれはまたウブな……OK、仕方ない。と言う訳だから聞こえたか?」


 美誠は祭壇の裾にいるラフィンに声をかける。


「ええ、聞こえましたよ。では私がここの掃除をしておくので、二人は外へ行ってらっしゃい」


「了解~! じゃ、外行こうか」


「え、ええ……」


「んじゃま、ちょっくら行ってくらぁ~!」


「気をつけて行ってくるのですよ」


 こうしてラフィンに見送られて、美誠はまだ腕にしがみついているエレインを連れて、教会の外へと出た。




「エレインはどうして男性恐怖症なんだ?」


 近くの公園で、二人はブランコに身を任せていた。


「あたし……13歳の頃、知人の男の人にHを強要されたの……」


「え……!?」


「知人は知人でも、あたし達の身元引受人になってくれた日本人の男の人で……だからあたしも、懐いていたんだけど……そのショックで、全ての男の人が信用出来なくなっちゃって……」


 落ち込んだ様子で語るエレインに、美誠は険しい表情を浮かべて隣のブランコにいる、彼女へと顔を向ける。


「それで、その最低野郎はどうしたんだ……!?」


「お姉ちゃんがあたしを守ってくれて……もう、今はいない」


「いないって……お姉ちゃんが今、一緒にいるのか?」


「うん。お姉ちゃんは22歳だから」


「そっか。それは良かった。でも、大変だったな。そのせいで未だに悪影響をエレインに及ぼしていると思うと……どこかで見かけたら、俺がブッ飛ばしてやりてぇ!」


 美誠は言うと、拳を片手に叩き込んだ。


「ミコト……」


 思いがけない彼女の言葉に、エレインは少し意外そうに思う。


「ああ、でも、お姉ちゃんが守ってくれたなら、その逞しいお姉ちゃん一人で大丈夫かな?」


「ううん。お姉ちゃんは確かにその時は守ってくれたけど……決して逞しいわけじゃないんだ」


「え?」


「お姉ちゃん、すごく体が弱くてね……そのせいで昼夜逆転の生活を送ってるの」


「……? そう、なのか……」


 エレインの言葉の意味が、よく理解出来ないまま相槌を打つ美誠。


「だから最近は、あまりお姉ちゃんと顔を合わせていないの。それが寂しくて……」


「食事とかはどうしてるんだ?」


「自炊だよ?」


「……」


「ミコト?」


「外食で良ければ、昼飯一緒にどこかで食おうぜ!」


「……! ――うん!」


 美誠の言葉が嬉しくてつい、エレインは満面の笑顔で大きく頷いた。

 エレインの屈託のない笑顔に、美誠はふと微笑み返した。




 ――正午。


「いや~、女ばかりの店を考えてたら、ここしか思いつかなくてさ!」


 そこはバイキング方式で女性に大人気の店で、男が入る余地はなかった。

 それでも一人、二人は夫婦やカップルでの男性客はいたのだが。


「あたしは大丈夫だよ! ぅわぁ~、スゴイご馳走がいっぱい! こんなの初めて!」


挿絵(By みてみん)


「好きなのを好きなだけ食ってもいいんだぜ」


「え! ホントに!? スゴイ、信じらんない!」


「じゃあ、一緒に選ぼうぜ」


「うん!」


 こうして二人はあれやこれやと食べ物を選び取ってから、席に着いた。


「日本に来て二年目だけど、日本ってスゴイね。あたし達がいたイギリスにはこんなの、なかったよ」


 エレインの出身国を聞いて、内心美誠は驚愕を覚えるのだった。




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