Data,45:バイキング料理
翌日の午前中。
悠貴美誠が教会の掃除に出てくると、礼拝堂の一番後ろの長椅子に、一人の少女がポツンと座っていた。
「あれ……? エレインじゃないか。どうしたんだ? 今日は午後からだぞ?」
美誠は、祭壇にある神々しい十字架を、ただただジィッと見つめていたエレイン・ローレンスに声をかけた。
「うん。先に来てお祈りをしたかったから。それに……ミコトとも何か話してみたくて」
「俺と?」
「あたし、友達と呼べるの、一人もいないから……」
「成る程な。そっか! 俺は別にいいぞ」
美誠は承諾すると、ニカッと笑って見せた。
すると二人が会話する声に誘われて、髪を後ろ一つに束ねた、ラフィン=ジーン・ダルタニアスが姿を現した。
「どうしましたか? どなたかがいらっしゃるのですか?」
ラフィンのその声を聞いた瞬間、突然エレインはヒッと短く悲鳴を上げて美誠の袖にしがみついた。
「何だよ。どうしたんだ?」
「あ、あ、あたし……っ、男性恐怖症なの……!!」
「おやそれはまたウブな……OK、仕方ない。と言う訳だから聞こえたか?」
美誠は祭壇の裾にいるラフィンに声をかける。
「ええ、聞こえましたよ。では私がここの掃除をしておくので、二人は外へ行ってらっしゃい」
「了解~! じゃ、外行こうか」
「え、ええ……」
「んじゃま、ちょっくら行ってくらぁ~!」
「気をつけて行ってくるのですよ」
こうしてラフィンに見送られて、美誠はまだ腕にしがみついているエレインを連れて、教会の外へと出た。
「エレインはどうして男性恐怖症なんだ?」
近くの公園で、二人はブランコに身を任せていた。
「あたし……13歳の頃、知人の男の人にHを強要されたの……」
「え……!?」
「知人は知人でも、あたし達の身元引受人になってくれた日本人の男の人で……だからあたしも、懐いていたんだけど……そのショックで、全ての男の人が信用出来なくなっちゃって……」
落ち込んだ様子で語るエレインに、美誠は険しい表情を浮かべて隣のブランコにいる、彼女へと顔を向ける。
「それで、その最低野郎はどうしたんだ……!?」
「お姉ちゃんがあたしを守ってくれて……もう、今はいない」
「いないって……お姉ちゃんが今、一緒にいるのか?」
「うん。お姉ちゃんは22歳だから」
「そっか。それは良かった。でも、大変だったな。そのせいで未だに悪影響をエレインに及ぼしていると思うと……どこかで見かけたら、俺がブッ飛ばしてやりてぇ!」
美誠は言うと、拳を片手に叩き込んだ。
「ミコト……」
思いがけない彼女の言葉に、エレインは少し意外そうに思う。
「ああ、でも、お姉ちゃんが守ってくれたなら、その逞しいお姉ちゃん一人で大丈夫かな?」
「ううん。お姉ちゃんは確かにその時は守ってくれたけど……決して逞しいわけじゃないんだ」
「え?」
「お姉ちゃん、すごく体が弱くてね……そのせいで昼夜逆転の生活を送ってるの」
「……? そう、なのか……」
エレインの言葉の意味が、よく理解出来ないまま相槌を打つ美誠。
「だから最近は、あまりお姉ちゃんと顔を合わせていないの。それが寂しくて……」
「食事とかはどうしてるんだ?」
「自炊だよ?」
「……」
「ミコト?」
「外食で良ければ、昼飯一緒にどこかで食おうぜ!」
「……! ――うん!」
美誠の言葉が嬉しくてつい、エレインは満面の笑顔で大きく頷いた。
エレインの屈託のない笑顔に、美誠はふと微笑み返した。
――正午。
「いや~、女ばかりの店を考えてたら、ここしか思いつかなくてさ!」
そこはバイキング方式で女性に大人気の店で、男が入る余地はなかった。
それでも一人、二人は夫婦やカップルでの男性客はいたのだが。
「あたしは大丈夫だよ! ぅわぁ~、スゴイご馳走がいっぱい! こんなの初めて!」
「好きなのを好きなだけ食ってもいいんだぜ」
「え! ホントに!? スゴイ、信じらんない!」
「じゃあ、一緒に選ぼうぜ」
「うん!」
こうして二人はあれやこれやと食べ物を選び取ってから、席に着いた。
「日本に来て二年目だけど、日本ってスゴイね。あたし達がいたイギリスにはこんなの、なかったよ」
エレインの出身国を聞いて、内心美誠は驚愕を覚えるのだった。




