Data,40:大人のキスです
「な……っ、何、だよ……?」
悠貴美誠はドギマギしながら口にする。
膝の上でマグカップをギュッと両手で握り締める。
「こうして髪を下ろしている美誠を見るのは、稀ですので。とても……可愛らしいですよ」
「そ、そう、か?」
するとふとラフィン=ジーン・ダルタニアスは手を伸ばして、美誠の手から空になったマグカップをそっと取り上げると、サイドテーブルの上に置いた。
美誠から一切、目を逸らさぬまま。
そしてラフィンは自分の上唇を、指し示して見せた。
「付いてますよ。ミルク」
これに美誠は急いで拭こうとしたが、ラフィンがグッと両手を掴んで押さえ込んだ。
「何を――」
「私がきれいにして差し上げましょう」
ラフィンは囁きかけるように言うと、少しだけ舌先を出してゆっくりと優しく、美誠の上唇に付いたミルクを舐め取った。
これにそれまで力が入っていた美誠は、ふいに脱力してしまった。
「貴女の味は甘い味がしますね。美誠」
「それは……ミルクのせいだよ……」
「では改めて、確認してみましょう……」
言うやラフィンはゆっくりと、口唇を近づけてきた。
これに美誠も目を瞑って受け入れ態勢に入る。
が、少しして下唇に人差し指が当てられた。
「ん?」
美誠はパチリと目を開くと、すぐ目の前にラフィンの碧眼があった。
「口を開いてください」
「え?」
「じゃあないと、美誠を味わえません」
「へ?」
「ディープキスですよ」
「ディ?」
「……大人のキスです。もうそろそろ、キスもステップアップしていきましょうね」
ラフィンは困ったような微笑を浮かべてから、言った。
「おっ、大人の……っ、キス……!」
動揺する美誠だったが、ラフィンは冷静だった。
「美誠が舌を持ち上げた状態で待っていてくだされば、後は私が貴女を迎えに行きます」
「お、おう……」
美誠は戸惑いながら、ラフィンの言葉の意味を半分も理解できないまま、口を半開きにして目を閉じた。
すると美誠には思いがけず、自分の口内にラフィンの舌が侵入してきた。
「んぅ……!」
美誠は驚いて全身に力が入ったが、ラフィンはやや強引に美誠の両手の動きを封じていた。
だがしかし、ラフィンの舌の動きはとても優しく、労わるようだった。
これに次第に美誠も全身の力が抜けていき、後半ではリラックスできていた。
下から上へ、そして右、左と舌を動かしてきて、美誠の口の中でクルリと彼の舌が回転し、波打った。
「ん……」
その度に、美誠の心臓は大きく高鳴り、ドキドキさせられる。
そしてふとゆっくり、ラフィンの口唇が離れた。
しかしまだ、鼻の頭がぶつかり合う程度の距離だ。
「いかがでしたか? 美誠……」
「うん……温かくて……ウットリした……」
「そうですか……私はやはり、美誠は甘い味がしましたよ」
ラフィンは囁くと、片手で彼女の黒髪を耳にかける仕草をしつつ、髪を撫でる。
「さっきミルク飲んだからな」
「いいえ。ミルクとは別の味でした」
言い合いながら二人はクスクスと笑うと、軽くおでこをぶつけ合った。
「こういうのも悪くはないでしょう?」
「うん」
「本当なら、私はもっと美誠を味わいたいのですがね」
「え?」
「さっき、下着を見せてくれたではありませんか。あれは私へのサービスだったのでしょう?」
言うとラフィンは、素肌がむき出しになっている膝から、ネグリジェの下へスッと手を差し入れて、美誠の太腿を触った。
「あっ! ヤン!! バカッ!!」
美誠は慌てて彼のその手を掴むと、顔を真っ赤にさせた。
「やはりいざとなったら女の子らしい声を上げるのですね。これはその時が愉しみになってきました」
ラフィンは言うと、クスクスと笑った。
「だから女なんだから当たり前だと言ってんだろ! って、その時って?」
「……知りたいですか……」
急に大人びた表情になったラフィンに、美誠はドキリとする。
「い、いや……今はまだ、いいや……」
「それは残念です。今夜はこの部屋で一緒に眠りましょう。寝付けないのでしょう? 眠くなるまで是非私のワインの相手を……って、何ですその目は。大丈夫ですよ。本当に何もしませんから」
ベッドから立ち上がり振り向いた時、見せた美誠の目つきにラフィンは内心、舌打ちするのだった。




