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08 はじめまして

「そういえばルナレイア、食べたい物ってある?」


 部屋へ向かいながら話すユスティ。


「そうですね、お野菜が食べたいです」


 旅の間、野菜はあまり食べれていなかった。狩った魔物の肉ばかりだったのだ。


「そっかあ、じゃあ食堂、行ってみる? がやがやしてるけど、大衆的だし、女の子は多くないけど、君が混ざるのは問題ないと思う。部屋で静かに食事をするのも好きだけど、そういうのも好きなんだ。どう?」

「食堂ですか、行ったことがないので行ってみたいです。あ、でも、宿屋さんの酒場みたいなところですか?」

「うーん、まあ、そんな感じかな。お肉も野菜も、いろんなのがあるよ。これから向かっても大丈夫?」


 聞かれて考えるが、だめな理由はなかった。ルナレイアは頷いた。


「よかった。じゃあ行こう」


 ルナレイアたちは、食堂に向かうことにした。


***


 食堂に着いたルナレイアは、驚きで目を見開いた。騎士と思われる人たちがたくさん、食事をとっていた。屈強な男たちが多かったが、可憐な女性たちもいた。制服などではなく、私服で、これならルナレイアが紛れても問題なさそうだ。


「わあ、やっぱり今日もすごいねえ。とりあえず席を取ろうか」

「ユスティ様、こちらです」


 リサが目ざとく空席を確保し、席につけた。すぐさま給仕のものが、注文を取りに来た。


「いらっしゃいませ。何になされますか?」


 ユスティは少し悩み、自分が注文を済ませてしまうことにした。ルナレイアは、こういうところに慣れていないだろう。


「じゃあ、今日の日替わり2つと、野菜の盛り合わせを1つ」

「かしこまりました。しばらくお待ち下さいませ」


 この食堂は体臭的ではあるが、城の食堂だ。基本的に騎士や侍女たちが使用する場所だが、物好きな貴族たちもごくまれに使用する。そのため、給仕の質が良いのだ。


「僕が勝手に決めちゃったけど、大丈夫だった?」

「ええ、よくわかりませんから、問題はありません。リサは?」

「大丈夫です。私、ここではいつも日替わりを頼むんです」


 もちろんリサもこの食堂を頻繁に使っていた。侍女の給料はいいとは言え、安いし、城下に降りるのも面倒なのだ。


「そっか。よかった」


 ユスティはほっと息をついた。


「こんばんは、お隣、いいですか?」


 食事が運ばれてくるのを待っていると、隣から声がかかった。そちらを見ると、桃色の髪をツインテールにした、ルナレイアが知るその人より、少し幼いラナリーがいた。


「ああ、構わないよ」


 ラナリーはユスティの隣に座った。ユスティの向かい側にルナレイア、その隣にリサが座っている。


「ありがとうございます。近衛騎士の新米、ラナリー・シルヴァーンです」

「僕はユスティ。ユスティ・アリスロード。こっちはルナレイア。それにしても、君がラナリー、ね」


 首をかしげるラナリー。なぜ自分のことを知っているのか、わからないのだろう。


「私、なにか噂になるようなこと、しましたっけ?」

「ああ、まだ聞いてないのか。上から知らされるからそれは置いといて、君、フォルカの妃になりたがってるらしいじゃないか」

「そのことでしたか。それなら、女性は誰しも憧れるものではないですか?」


 ねえ、とルナレイアに話を振る。


「ふふ、そうですね。でも、あんまり強引すぎると、嫌われてしまいますよ。ああ、わたくしは野心などありませんので、お構いなく」

「そうなの? ライバルと勘違いして損したわ。大丈夫、拒絶されるようなことはまだしていないもの」

「そうですか。それはよかったです。応援していますよ、ラナリーさま」

「様付けなんて、寒気がするわ。ラナリーでいいわよ。ルナレイア。聖女サマみたいだけど、様つけないといけないかしら」

「いいえ、ルナレイアで構いません。ラナリー」


 笑いあう、ルナレイアとラナリー。あちらの世界の影響か、それとも元来の性格ゆえか、息が合ってしまったようだ。長い付き合いの友人のように感じた。


 そうこうしていたら、料理が運ばれてきた。ルナレイアが食べたいと言った野菜もある。思っていたよりも大きな器で、ルナレイアは驚いた。


「まあ、こんなにたくさん。わたくし、こんなに食べきれる気がしないわ」

「食べきれなかったら私がもらうわ。いいでしょ?」

「本当? ありがとう、ラナリー」


 わいわいと話しながら食事をするふたり。ユスティは蚊帳の外だ。


「ラナリーは食事、頼まなくていいの?」

「もう頼んであるから大丈夫。騎士は体が基本だから、本当にたくさん食べるわよ。驚かないでね?」


 そんなことを話していると、ラナリーの食事が運ばれる。机に並ぶ、肉、肉、肉……。野菜の姿はどこにもなかった。


「まあ、こんなにたくさん。食べきれるの?」

「もっちろん! あんまり鍛えたら王妃までの道が遠のくかもしれないけど、王妃って大変そうだし、今は体を鍛える方が一番楽しいからね。王妃になりたいっていうのはついでよ、ついで。近衛だから、陛下にはすぐに会えるしね。もちろん格好いいから好きだけど」

「あら、そうなの? てっきり王妃になりたくて仕方のない人なのかと思っていたわ。噂になるくらいだし、可愛いし」

「ありがと。でも旦那様より強い妻なんて嫌でしょ? だから悩み中なのよね」


 やっと口を挟めるとでも言うように、ユスティが口を開いた。


「でもフォルカ、すごく強いよ。それこそ近衛隊長とちゃんと戦えるくらいに」

「えっ、そうなんですか? あんなに強い隊長に守られてるくらいだから、そんなに強くないんだと思ってました」


 まあ、むこうでは勇者をやっているくらいに強かったから、と、ルナレイアは納得した。王であるこちらでは、幼い頃から自衛のために剣術を習っていたに違いない。


「そっかあ、陛下、強いんだ……。なんて、まだ時間はたっぷりあるし、そのうち悩めばいいや」

「ふふ、まだ若いんだから、たくさん時間はあるわ」

「そうそう……、って、ルナレイア、あなたも若いじゃない。ルナレイアは好きな人とかいるの?」


 なにやら、恋愛話になりそうだ。こうなった女の子たちは話が長い。ユスティは、逃げ出そうかと思った。リサに阻まれたが。


「わたくしは……、今はそういうのは、遠慮したいな、と。お慕いしていた方と、会えなくなってしまったの」

「えっ、詳しく聞いてもいい話?」

「今はちょっと。あと3日もしたら話せるようになるのだけれど」

「なにそれ? ま、いいや。じゃあ気長に待ってるね」


 少しだけ場が暗くなってしまったが、ラナリーが明るさで吹き飛ばした。


「さて、と。ルナレイア、手が止まってるけど、もう食べないの?」

「そうね。もうお腹いっぱいだわ。あら、ラナリーったら、もう食べたの?」


 ふと机の上を見回したら、あれだけたくさんあったお肉たちは、なくなっていた。ラナリーの胃袋にすべて入ったらしい。


「じゃあ、その野菜、私がもらうね」

「ええ、ありがとう」


 ラナリーに野菜を渡すと、さっさと食べてしまった。早食いである。


「あんまり早く食べると体に良くないわよ」

「そうなの? 食べれるときはとっとと食え、って、隊長に言われるもんだから、いつも早く食べてたわ。今度からゆっくり食べれるときは気をつける」

「そうした方がいいわ。……お腹いっぱいになったら、眠くなってきちゃった」


 あくびを噛み殺しながら、ルナレイアは言った。あくびなんてはしたないこと、人前ではできない。


「じゃあそろそろ、部屋に戻ろうか。いろいろありがとう。ラナリーさん」

「えっと、どういたしまして? またね、ルナレイア」

「ええ、また」


 ルナレイアたちはラナリーと別れて、部屋に戻ることにした。


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