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音楽コラム 『ロックの歴史』 -時代を彩る名ミュージシャンたち-  作者: Kobito


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第24回 ギター・インストゥルメンタルの可能性 ジェフ・ベック 1966年~

ロックミュージックの起源をたどると、まず、ボーカルが花形としてステージの中央に立ち、バンドはその添え物として伴奏を提供する、というのが、定番のスタイルでした。


ボーカルがギタリストも兼ねている場合はともかく、専門のギタリストが舞台の中央で演奏するというのは、ごく少数の例外でしかなかったのです。(レス・ポールやディック・デイル、デュアン・エディ、ベンチャーズ、シャドウズといった、専門のギタリストでありながら主役を張るミュージシャンが存在するバンドも、中にはありましたが、聴衆の人気を獲得できたのは、ボーカルがいるバンドに比べて、ほんの一握りに限られました。)


この傾向は、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリクス、ジミー・ペイジといったギターヒーローが持てはやされるような時代になってからも、変わりなく続いています。


なぜ、これほどギタリストの腕前が重視されるロックというジャンルで、専門のギタリストが主役を張るバンドが主流になり得ないのか。

思うに、ギター・インストゥルメンタル(歌無しのギター中心の音楽)が好きな人には、器楽演奏自体の表現力や技巧の素晴らしさを理解し、楽しめるという、器楽に対する強い関心があるのに対して、その他の多くのロックファンには、器楽のみの演奏に対する興味・関心の薄さがあるのではないかと思います。


それに加えて、器楽演奏のみの曲が、ボーカル入りの曲と同等の充実感を獲得するには、高度な作曲と、演奏と、アレンジの能力を必要とする、というハードルの高さがあります。

これらの条件をクリアできるバンドとなると、かなりしぼられて来ますから、必然的に、器楽演奏を専門にして成功するバンドが少なくなり、従ってインストゥルメンタルというジャンルのロックシーンでのシェアも小さくなる、という状況が生まれているように思います。


ただし、上記のギター・インストゥルメンタルのミュージシャンたちは、いずれもボーカルに劣らない個性と技量を備えた演奏家であり、商業上の成功も収めているので、裏を返せば、一見インストゥルメンタルに関心が薄そうに思えるロックファンの中にも、潜在的にはインストゥルメンタルに対してかなりの需要がある、という事も言えると思います。


ここまで長々とギター・インストゥルメンタルの特徴や音楽シーンにおける状況を語ったのは、ジェフ・ベックという一人のギタリストが、ギター・インストゥルメンタル・アルバム『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975年)で、いかに大きな功績をロックの歴史に残したかを、読者の皆さんに理解してもらうためです。


では、『ブロウ・バイ・ブロウ』について語る前に、そこにいたるまでのジェフ・ベックの音楽活動から、話を始める事にしましょう。


ジェフ・ベックが最初に音楽シーンで注目を集めたのは、ヤードバーズという、ブルース主体の演奏を得意とするイギリスのロックバンドに加入して、アルバム、『ロジャー・ジ・エンジニア』(1966年)で活きのいいギタープレイを披露した時です。

このヤードバーズというバンドが、現在ロックファンの間で高く評価されている理由は、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジという、ギターの達人が相次いで在籍したことによります。

ジェフ・ベックが在籍した頃のヤードバーズは、伝統的なブルースからより軽めの、ザ・フーのようなモッズ系の音楽に軸足を移す時期で、ブルースに収まらないセンスを持ったベックのギターは、見事にバンドのサウンドや、アルバム内の多様な曲調にフィットしたと言えます。


このアルバム一枚を残して、ヤードバーズを脱退したベックは、プロデューサーの要請により、甘ったるいポップス調のインスト曲をシングルとして発表し、本人は不本意ながら、世間では好評を博したのち、自身の好む音楽を自由に演奏すべく、自身の名を冠したロックバンド、ジェフ・ベック・グループを結成します。ボーカルにロッド・スチュアート、ベースにロン・ウッド(後にギタリストとしてローリング・ストーンズに加入)、ドラムにミック・ウォーラーという強力な布陣で、1968年にはファーストアルバム、『トゥルース』を発表します。

このアルバムは、レッド・ツェッペリンに先んじて、ハードロックのサウンドに先鞭せんべんをつけたという評価を、評論家から与えられることが多いのですが、私は、ハードロックというよりは、まだ過渡期の、ブルース・ロック、サイケデリック・ロックの亜流の演奏でしかないと思います。

ただし、演奏の力強さ、重量感、構成感は、特筆すべきものがあります。


この後、ベックは交通事故の影響もあり、活動が停滞しますが、1971年に、「第2期ジェフ・ベック・グループ」と呼ばれる、ソウルとロックを融合した音楽性を追求するバンドを新たに立ち上げます。

このバンドには、後にハードロックの人気ドラマーとなる、コージー・パウエルが参加しています。


このバンドのセカンドアルバム、『ジェフ・ベック・グループ』(1972年)では、ソリッドでグル―ヴィーな、聴き応えのあるサウンドの創造に成功しています。

しかし、ボーカルの個性と魅力が今一歩といったところで、アルバム全体の訴求力の弱さの原因となっています。


ベック自身も、バンドの質に満足ができなかったようで、結局、2枚のアルバムでバンドは解散。

間もなく立ち上げたベック、ボガード&アピスというバンドも、思うような音楽的、商業的成功は得られず、この頃のベックは、ボーカルを兼ねない専門のギタリストとして、どう自己を表現して行けばいいのかという、暗中模索の時期を過ごしていたと言えます。


ギター・インストゥルメンタル・アルバム、『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975年)は、そんな状況下のベックが、自身の新しいこころみとして、大胆にも世に問うた一作なのです。そう考えると、インストのみで構成されたロック・アルバムとして、異例の大ヒットを遂げたこのアルバムが、ベックにとって、いかに起死回生の一作だったかが分かります。


この作品が、大成功を収めた理由を考えてみると、ベックがブルースから完全に距離をおいた、という点が、極めて重要なポイントとして挙げられるのではないかと思います。


ブルース演奏を得意とする偉大なロック・ギタリスト、ジミ・ヘンドリクスは、生前、ジェフに向かって、「お前のブルースは気持ち悪い。フュージョンをやった方が良い。」と言ったそうです。これは、厳しいようですが、非常に的を得た意見でした。

ジェフ・ベックの演奏スタイルの基礎には、ジミと同様ブルースがあります。これは、1960年代中期頃に活動を始めたロック・ギタリストの多くに共通する特徴です。

しかし、ベックのギターサウンドや、演奏スタイルは、本格的なブルースを演奏するには、ややテクニック偏重で、ドロドロとした深い情念には欠けるところがあります。


それを見抜いて、よりフィットするジャンルとして、フュージョンを勧めたジミの正しさは、この、ロックミュージシャンが取り組んだ最初期の本格的なフュージョンアルバムとなる『ブロウ・バイ・ブロウ』が、アメリカのビルボードチャートで4位という好成績を収めたことで証明されました。


このアルバムの登場以前にも、ロックとジャズを融合したフュージョンアルバムは、他のギタリストが少なからず製作していましたが、それらはジャズミュージシャンの側からのアプローチという面が強く、演奏も複雑で難解な分、大衆的な人気を集めるには至らない事が多かったようです。


その点、『ブロウ・バイ・ブロウ』は、プロデューサーをジョージ・マーティン(ビートルズのプロデューサーとして有名)が務めたことで、より分かりやすく大衆受けし、しかもロックの醍醐味であるスリルも失わない、絶妙のさじ加減で編曲が行われる事となり、サポートが安定したことで、ジェフも水を得た魚のように、ようやく思う存分、そのギターの腕前を披露する事ができるようになった、というわけです。

バンドメンバーは、マックス・ミドルトン(キーボード)、フィル・チェン(ベース)、リチャード・ベイリー(ドラムス)です。

いずれも、それぞれのキャリアで最高と言って過言ではない演奏を聴かせてくれていますが、中でも、特筆すべきは、ドラムスのリチャード・ベイリーの存在です。

彼の軽妙で手数の多い、複雑に変化するドラム演奏がなければ、このアルバムの魅力は半減していたかもしれない、そのくらい、彼の演奏は、全ての収録曲で重要な役目を果たしています。

「スキャッター・ブレイン」の冒頭のドラムソロを、聴いてみて下さい。高度なテクニックに裏付けされた演奏も見事ですが、これほどベックのギタープレイやサウンドにマッチするドラムというのも、珍しいのです。


ブートレッグで、この時期のベックのライブ演奏を聴いたことがありますが、ドラマーがベイリーでないため、演奏に小気味よさが無く、退屈な印象を受けてしまいます。

ベイリーは、このアルバムのみのフル参加(次作では2曲のみ参加)なので、残念ではありますが、一枚だけでも、フルにアルバムに参加してくれたことに、私たちロックファンは、感謝しないといけません。


ジョージ・マーティンのアレンジによるストリング(弦楽器)演奏も、全編で非常に効果的にバンドに絡み合い、ベックのギター演奏を盛り上げる役目を、陰に日向に巧妙に果たしています。

このアルバムでの彼のアレンジは、ビートルズでの弦楽器のアレンジに匹敵する、ジョージの代表作と言って差し支えない素晴らしい出来栄えです。


バンドの技量、音楽的方向性、プロデュース、全ての条件がかみ合ったことで生み出された、極上のインストゥルメンタル・アルバム、それが、『ブロウ・バイ・ブロウ』なのです。


このアルバムの成功以降も、ロックのインストゥルメンタルというジャンルの人気が爆発的に高まるような事は、残念ながらありませんでしたが、インストに取り組むアーティストにとって、このアルバムが一つの励みや刺激や目標となり、また、それまでインストに関心が薄かった多くの音楽ファンにも、インストの魅力に気付かせるきっかけを作ったのは確実で、後のジョー・サトリアーニやスティーヴ・ヴァイといった技巧派のギター・インストゥルメンタリストが登場、活躍するための、貴重な一里塚にもなったという点で、ロック史の中で極めて重要な意義を持つアルバムと言えるのです。



 挿絵(By みてみん)




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