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緋碧ノ娘  作者: 桐夜 白
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緋碧ノ娘 4




普段はほとんど音のしない緋碧宮に、大きく、そして壮大で明るい音が響き渡る。

普段は歌声しか響かない祭壇の前で、見たこともない多くの楽器が音を彩る。

ソレが娘には輝かしく美しい世界に見えた。


しかし民は娘を忌み嫌う。

華々しい緋碧ノ国の王子の成人ノ儀なれど、民の心には不安と怯え、そして警戒心が娘にへと向けられていた。

けれどもそんな悲しい想いが見えていようとも、娘の視線はただ一筋に、祭壇の前で祀られた剣に向かって手を重ねて祈る王子にへと向けられている。



王子の成人ノ儀が行われると耳にした頃から心は鬱蒼とした悩ましい想いが胸を締めていたが、王子が緋碧宮に足を踏み入れたソノ瞬間から、娘の視界には言い表せえぬような不思議な感覚が脳にまで襲った。

そして王子の顔を拝顔すれば、ソノ不思議な感覚はますます酷くなってしまい、娘は呼吸をすることすら忘れたように、心がざわめき、王子にへと意識が向いてしまう。

普段から見える悲しい民の恐れの心など、今は全く気にはならなかった。



それからは覚えていなかった。

祭壇の前で自分がどのようにして歌ったのかも。

王子とどのような言葉を交わしたのかも。

女神──アカーナ神にどのような想いを祈ったのかも…。


ただ覚えているのは、王子の心から驚いたという目を見開いた表情と、とても綺麗な、初めて読む心の声だった。

畏怖も嫌悪も無い、ただただ澄んだ迷いの無い声。

初めて目にする、綺麗な声。



そんな王子の成人ノ儀が終わった後も、娘の心には不思議な感覚が溢れ、公務もあるであろうに王子はコノ緋碧宮に通い続けた。


不思議なことだった。

誰も好んで訪れない娘の許に、初めて嬉々とした心で訪れ、笑顔で見つめ、柔らかく微笑み、語り、贈り物を贈り、共に笑おうとしてくれる人が現れたのだから…。

共に悩み、共に笑い、手を取り合い、歌い、心から語り合える存在。

恐れも疑問も不安も、娘の心にはなかった。

今までとは違う、優しい目に温かい心。



人を信じることを、人を疑わないことを、そして愛することを教えてくれた人…。

心を締め付ける程、愛おしさを教えてくれた人。

愛おしそうに触れ、何よりも大切そうに想ってくれた、ただ一人の人…。




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