どこからともなく
「戸村はバカなのか…?」
亜美の両足がありえない方向に折れ曲がっている。口に戸村を抱え、腕の力だけで歩き、魔王へと近付いていた。
ペッ、っと戸村を吐き捨てる。地面に仰向けに倒れ、首からボタボタと血液が流れ出ている。うん、確実に死んでいるね。
モチモチと頬を膨らませ、喉の肉を食べている亜美。お気に召さなかったのか、咀嚼した筋張ったものを吐き捨てた。
「…うえ…美味しくないね」
「もー、自分で死にに行くような真似…ホント戸村は何がしたかったのだぁ?」
あと数分押し潰していれば確実に死んでいた。わざわざ近付き、わざわざ魔法を解除して、何を考えていたのか分からないが、彼とは今後関わらないでおこうと誓った魔王。
「…魔王……助けてー」
「助けるわけがないのだ…とりあえず倒すぞ」
ずりずり這い寄ってきている亜美、距離は5mほど、負傷具合から見るに、魔王のところまでは辿り着けないだろう。
「あーあー、よし。地に伏せよー」
何も起きない。
「…?」
「あれ…んぅ?なんでだ?もいっかい、地に伏せよー」
また何も起きない。
その間にも亜美は距離を詰めている。残り3mほど、魔王は飛べば逃げられるがまぁ今はいいだろう。
「…多分…魔力不足なんじゃないかな…分からないけど」
「ん?魔力不足?あ、ホントだ。すっからかんになっているぞ」
「…ふふ……もう…魔法使えないんだねぇ…」
「バンバン!!」
魔王は手に持っていた拳銃で、亜美の額に穴を開けた。力無く倒れ、亜美は死んだ。
「ふうー、よしよし。とりあえず戸村を起こさないとな。でも魔力無いし…んーーー」
死体3つ、魔力無しのガキンチョ1人、何をすることもできない。
その時、屋上入口の扉から、一人の女が入ってきた。
「おー、すっごく終わってる空間だね〜笑!」
腰まで伸びる黄緑の髪、人体さえ切断可能な鋭い目つき。日本慣れしているカジュアルな服装、あれは過去に魔王が欲しかった服だが、魔王は覚えていない。
「んぅ…あれは……エルフか?」
その女は柔らかに伸びる長い耳を持っていた。手に杖のような物も持っているし、体は魔力を帯びている。多分、いや確実にエルフだろう、多分。
「お!魔王っちいるじゃんかよー!サイコーっすねー!って、追いかけてきたんだから当たり前じゃーん笑笑笑!!」
ゲラゲラと腹を抱えて笑うエルフ。どこで笑っているのか一切理解出来ない、エルフのツボはヨワヨワなのだろう。まぁ無視でいい。
「あー、ちょっと…まずは自己紹介とかするかー?」
「ぃっひ笑あっはははっ笑笑!まじサイコー笑!いやっ…笑笑!サイコー笑笑笑」
エルフは笑いすぎて白目を向いていた。クラっと力を失って前のめりに倒れ、鋭い音と共に地に伏せた。
「ぅはっ笑!あんっ笑まじサイコーすぎるって笑笑笑いっひひっ笑笑!」
蹲りながら永遠と泣き笑いしているエルフ。胃の内容物がちょくちょく口から溢れ出ているが、そこまで気にしていないらしい。
「我はどうしたらいいのだ…これ……」
「ぎっ…ごっっっ…笑ぎっいうっずっつ…ゃつ…ごれにゅっ…笑笑」
「………待つかぁ…」
馬鹿な戸村の上に座り、スマホを触って時間を潰した。永遠笑い転げているエルフには目もくれず、魔王は世界の音楽について調べている。
「とぅ〜、どぅ〜う〜、とっとっぅとぅ〜」
「っ…ぉじぅ…がっ…笑笑ぎっ…ぁんっ…めべっげぃつ…笑」
スマホから流れる軽やかな音の羅列。魔王はリズムに合わせて体を揺らし、無意識に口ずさんでいた。背後のゲロ笑いエルフは完全に別世界、魔王の耳に、エルフの声が入ることはない。
(というか、バリア張ってたのに何故エルフはここにいるのだ?まぁいいか、魔法の使い手であるエルフならば、勝手に入ってくることも可能なのだろうな)
思い出したかのようにバリアに気を向けた。完全な密閉空間、夜空など見えやしない。魔王は手前に出し、力強く握る。バリアは粒子状に変化し、星空へと消えていった。
(ん、それよりも…やっぱりあのエルフには見覚えがあるような気がするぞ。それも1度や2度ではない。んー…誰だったか、記憶にこびり付いた不快なものがあるはずなのだが……あぁ…分かったぞ。あのエルフ、元の世界では超有名だったド変態だ。魔王城にも沢山来ていたな…いつもベタベタ触れてくるし、凄く卑猥な言葉を連呼するゆえ、部下が出禁にしてくれたのだが、また会うことになろうとは)
「蘇生魔法が使えるようになるまで…最短でも3時間か、三人分となると、9時間か…長いのだ…」




