ふぅ危なかった
【死を超えて】
「…?」
突如として屋上に響いた声、この2日で数回聞いたことのある声。魔王の魔法だ。
ぐちゅぐちゅと時間が戻り、飛散した血液や肉片が、綺麗な形を成していく。10秒ほどで、魔王の美しいご尊顔が復活した。
「復活っ!!」
「…同じ人を…2回も殺したことは無かったね」
回収した金槌を再び握る。魔王と同時に、戸村も立ち上がっていた。
「死ぬのも悪くないな…」
(…ん…死んでも復活する…1度だけかな…いや…無限に出来る可能性の方が高いよね……でも…魔王は死んだ後に魔法を発動させていた…自動発動か……何かをトリガーに…勝手に発動する魔法……ん…条件は…死ぬことだろうね)
「…面白いね…自動発動の魔法か」
「え!分かるのか?!亜美はやっぱり凄いなぁ!」
(…でも…魔法を発動する時…魔王いつも声を発していた……それを必要としない魔法も見た事はある…屋上を囲むように作られた壁も…無詠唱……でも復活の魔法には詠唱があった……推測するに…詠唱の有無は…ただの種類だろうね……魔法の難度に関わらず…簡単な魔法でも詠唱を必要とすることも…多分ある)
「ふふん、何やら深く考えているようだな!亜美!少しなら質問に答えてやっても良いぞっ!!」
「はぁ…少しは危機感持ってくれよ」
「…別に良い…何度も復活するなら…その度に殺すだけ」
「なら、もう仕方ないぞ」
【地に伏せよ】
「…っ」
突然に体が重くなった。すぐに感覚で理解した、自分にかかっている重力が5倍になったと。血液が脳に届きにくくなっている、肺が潰れそうだ、内蔵が自分の居場所を見失っている。戸村や魔王は依然変わらない。涼しい顔で亜美を見つめていた。
地面に膝をつき、心臓を無理やり鼓動させる。通常よりも早く、強く、1秒間に5回10回と、5倍の重力を体を適応させていった。
戸村は銃を構えた。亜美に銃口を向け、2回発砲する。確実に当たるように、両手で銃を持ち、亜美の胴体を狙った。
「……当たらないってば」
5倍の重力の中、軽々と金槌を振り、2発の弾丸を弾き落とした。
「チッ…魔王!もう1段階上げろ!」
「了解だっ!」
ベキッ、っと亜美の足が折れた。
「…んっ」
15倍。普通の人間なら数秒もせずに意識を手放すところだ。
「…おも」
亜美はうつ伏せに倒れた。戸村は1歩1歩、確かな足取りで亜美に近付いて行く。至近距離まで近付き、銃口を倒れている亜美の頭に当てた。
「立本、今からお前を殺す。覚悟はできているだろうな」
「…ふふ……君達は僕を…捕まえるんじゃなかったのかい」
「魔王はそれを望んでいたがな。幾度か話し合い、生死問わずという結論になった」
「…あぁそう…でも…僕はまだ死にたくないかな…人生…まだこれからなんだもん」
「ふ…600程も人を殺した殺人鬼が22才になれただけ感謝して欲しいな」
「…」
「おい、お前ならもう少しは会話出来るだろ?」
「…僕に何か…聞きたいこと…があるのかな?」
「そういう訳じゃない。ただ、今まで殺してきた人間に謝罪をしろ。分かるだろ?謝罪だ謝罪。謝るんだ、皆に」
「……なんで?…その人たちは…もう死んでいるんだから……謝罪する…意味無いよ?」
「は?嘘だろ?全く反省無しか?この状況で?」
「…ん…分からないけど……謝る…ごめんね……みんな」
「チッ…ああ、しっかり謝罪は受け取った。天国にいる皆も喜んでるだろうよ」
「…そう……それは良かった」
「はぁ、軽率に殺人鬼と話すもんじゃないな。吐き気が止まらないよ」
「…」
「………?」
亜美は沈黙した。心臓の鼓動が止まっているように見えた。呼吸により上下していた背中が、今は完全に止まっている。立本は死んだ、戸村はそう推測した。
「……は?」
うつ伏せになった亜美の口辺りから、血液が地面に広がった。
「おいおい…急に死ぬなよ…」
銃を捨て、亜美をひっくり返そうとする。が、亜美だけが15倍の重力環境。体重60kg程の亜美は、今900kgの重りになっている。到底動くはずがない。
「魔王ー、解除だー!」
「ぅえ?!もういいのかっ?!わ、わかったぞ!」
魔王は魔法を解除し、翼を広げて降りてきた。亜美から少し離れた場所に着地し、戸村の投げ捨てた拳銃を回収する。
一方、死体を裏返した戸村。口から溢れ出る血液を確認し、亜美の心臓の鼓動を確認する。手首に指を添えた。何も無い、一切の鼓動を感じなかった、が、数秒、1つの鼓動を検知する。
「なっ…!?」
戸村は咄嗟に身を跳ねさせ、亜美から離れようとした。だが一足、いや全てが遅かった。
「…おはよう」
戸村の首が食い千切られた。




