異界
岩月神社の鳥居でまさきさんとさくらさんは私とたかおを見送ってくれた。
葉隠山バス停に行く途中たかおは横を歩きながら言う。
「なあ、加奈今度の日曜日葉隠神社へいかないか。」
「うん。葉隠神社の如月の巫女の呪いを解放しにいこう。」迷いもしないで私は言った。
「何があっても呪い殺したあげく悪霊になって魂を閉じ込めるなんて身勝手もいいところだよ。」とたかおは言った。
「そうだよね。生きているのも怖いけど呪い殺しても魂を閉じ込めるなんてね。」怒りを込めて私は言った。
「怖いと言うよりは腹立たしい.」と歩きながらたかおも言う。
「怖いと思わないの。たかお?」私はたかおを見ながら歩く。たかおは私を見た。
「怖いだって。加奈を苦しめた悪霊がか。怖いものか。」私は微笑む。私とたかおはバス停でバスを待った。
「愛が本物なら死なないんだよな。さくらさんがいっただろう。」たかおは真剣に私を見る。
「うん。そうだけど。」戸惑って私は言う。
「元カノみたいに裏切らないよな!加奈」
「当たり前だよ。たかお。」私は少し顔を赤く染めた。たかおと結婚したい私は思う。
私はたかおを見た。
「加奈、大好きだよ。」たかおはバス停で私を抱きしめる。
「たかお、私は裏切らない。」私は目を閉じる。たかおの息使いを感じて心臓が高鳴った。たかおは軽くくちづけした。私は嫌ではない。この愛は本物だ。きっと呪う者に勝てる。私は確信した。
「ごめん。加奈。」たかおは離れた。
「私はたかおが好きよ。初めての恋人!」
「僕は臆病だ。でも元カノのことは加奈のおかげで忘れたよ。」たかおは微笑む。
私とたかおは微笑みあった。
しばらくは普通に仕事をした。私とたかおは呪う者にどうやって対抗するか話し合いさくらさんとも連絡を取っていた。
とにかく今度の休みの日、葉隠村の神社に行くしかない。行ってみなければわからないのだ。私とたかおはさくらさんみたいにチカラもないし神さまでもない。
あるのは正義感とお互いを愛する気持ちだ。
たかおを信じよう。
まさきさんとさくらさんは神楽を毎日行い祈っている。
私とたかおは賢明に仕事をこなす。私とたかおは覚悟を決める。私は食事を作り会社に持って行ってたかおに渡す。
たかおはありがとうと受け取り会社でお昼ご飯を奢ってくれた。
マンションのキッチンで包丁を握った。
リビングへ行くと心配そうなか弱い人影がいた。
貴方を助けるのよ。心の中で私は言った。
休みの日、人々は行楽で賑わう。
人々にはこれからおこることも葉隠神社の呪われた如月の巫女のこともわからない。ただ賑わいがあるだけだ。人々は平和だ。
私のマンションの近くの駅前でたかおがレンタカーを止める。
「おはよう。いよいよだな。」たかおに不安はない。たかおは車の窓を開ける。
「おはよう。覚悟はあるわ。」と私も不安はない。私はたかおといっしょに悪霊に殺されてもいいと思う。
私は助手席に乗った。たかおは車を走らせる。
「加奈、本当にいいんだな。」運転しながらたかおは言った。
「うん。いいよ。」私は言った。
車は市街地へ入った。そしてハイウェイに入る。豊かな緑が続く。たかおは横道を思い出しながら車を進める。
「確かこの横道だ。」たかおは見覚えのある横道へ車を入れた。
確かに見覚えがあった。鳥たちがさえずり風が吹き抜け木立が揺れる。日はサンサンと照りつける。
私とたかおは車を降り葉隠村へと歩きだした。私の前をたかおは行った。たかおはしっかりと私の手を握る。たかおは私の手を引きながら歩き始める。私の心は震える。呪う者は何を仕掛けてくるのかわからない。私とたかおは廃村を抜けてあの廃れた神社の階段を登る。
辺りが静かになった。木々のざわめきや鳥たちの声がやんだ。まるで世界に音が無くなったようだ。辺りは静寂に包まれる。
やがてあの廃神社を見た。
私とたかおは藁人形の前に立った。澱んだ空気が辺りに立ち込める。藁人形は銀のくさびが刺さったままだ。私とたかおは黙った。私は息を飲んだ。
「2人でくさびを引き抜こう。」
私はうなずく。私とたかおは片手を伸ばす。
突然私とたかおははじけ飛んだ。私とたかおは尻もちをつき転んだ。
私は藁人形を見た。たかおは起き上がり私の体を起こした。
「本当の愛情は死んでも縛ることじゃない。」
怒りを込めて藁人形にたかおは叫ぶ。
周りの空間が歪み始めた。たかおは私の手を取った。目の前が霞始めた。私は気を喪った。
ふと気がつくと暗黒の中にいた。
私は手探りでたかおを探す。手が柔らかいものに当たりたかおだと思って触った。
「加奈。加奈か」たかおの声がして私の手をつかむ。
「たかお大丈夫。」たかおは起き上がる。
「大丈夫だ。ここはどこだ。」周りもたかおも見ることが出来ない。
ふと遠くを見ると灯りが近づいて来る。
「たかお。わかる。」私は言った。
「ああ。わかるよ。さくらさんかも知れないな。」暗黒の中でたかおの声が言った。
灯りはだんだん近づく。灯りはだんだんと大きくなった。まばゆい光りが近く。私は目を細める。
暗黒の中でひときわ大きな光りが私とたかおを包み込む。光りの中に女がいた。
私は目をこらした。光りの中にいる女はさくらさんではなかった。
長い髪のスカートの女がまばゆい光りの中にいる。歳はまだ若くみずみずしい。二十歳位だろうか。何故か弱々しい。
「ごめんね。ありがとう。」弱々しく女は言う。私は声に聞き覚えがある。
「貴方は私たちの前に出て来ていた人影よね。」女は頷いた。
暗黒の中で光りを放ちながら女はさまよい助けを待っていた。顔は疲れ切り青い。
女は体のない魂だ。




