『第八話 冒険者ギルド』じゃ
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オレとコン様は街に降りた。
ハイド共和国西部。小さな街。
四方が山に囲まれ、魔物を防ぐため外壁に囲まれている。
雰囲気は貧しそうだ。
オレは王国を追放され、この小国に来てからというもの金はほぼ酒代とギャンブルに使い果たしていた。
金に関してはコン様も、
「神様なんだから金くらい生み出せないの?」
「ばかもの。金くらいとはなんじゃ。
すぐわしを頼ろうとするでない!」
ペチンと頭をひっぱたかれた。
ですよね……。
路銀を稼ぐためまず冒険者ギルドへ向かうぞ!
というのがコン様の提示した方針だった。
「ときにクスロウや、ヌシ冒険者登録はしておるのか?」
「いやー……してないなぁ。王女に頼めば金はいくらでも貰えてたし……」
「本当にヒモクズじゃのう~」
「わっ、わかってるよぉ。自分で稼ぐよこれからは」
思えばオレは、前世からバイトもしてなかったな。
冒険者ギルドの建物は街のはずれにあった。さびれて汚い。
中に入ろうとするとコン様は「念の為」とオレに封印剣を渡した。
「身を守るため以外には使うなよ」
「一緒に来ないの?」
「わしは可憐な幼女じゃからな。追い返されてしまうわ。よいかトラブルは起こすでないぞ」
「登録するだけだろ~。ほんじゃ、さっさと終わらせてくるぜ」
オレは一人で冒険者ギルドに足を踏み入れた。
「…………」
入った瞬間、中にいた者の視線が一斉にこっちを向くのを感じた。
内装はフランクで広めの酒場みたいな雰囲気だ。
ただ、その席に座っている奴らは種族もバラバラで、人外も結構いた。
そして一様に目付きが鋭かった。
「あの~冒険者登録をしていんですけどぉ」
オレは受付カウンターのお姉さんに声をかけた。
一つ目の魔族の女性だ。
「プッフー」
背後で吹き出す音が聞こえた。
「なんだ? あいつの剣、クソ錆びてるぜ」
「この前、半泣きで盗賊に奪われた剣を探してるとか言ってたやつじゃねーか?」
「おーい、そのガラクタが捜し物だったのかー?」
背中に浴びせかれられる笑い声。
無視だ。ムシムシ。
虫の声だと思え。
「はい。そうしましたらこちらにご記入お願いします」
簡単な書類に名前などを書き込むと、お姉さんはそれを持って奥に引っ込んだ。
その去り際のヒップラインが凄まじくオレの目は釘付けになった。
この世界の魔族のカラダガチエロいんだよな……。
と思っていると、小さなカードを持って戻ってきた。
「初めてのご登録ということですので、規約等の説明をさせていただきますね」
「――ということで、クスロウ様は一番下のDランクで登録させていただきました。依頼を受ける場合はあちらか外にある掲示板から選んでください」
「ハイ。あ、ハイ。わかりましたー」
長い説明を聞いてようやくカードを受け取らせてもらえた。
Dランク。一番下だ。
勇者のオレがDランクか……。
いやいや。これでいい。いまのオレに相応しいランクだ。
「では、頑張ってくださいね」
「ありがとうございまーす」
よーし任務完了。
くるりと背を向け、ギルドから出ようとした時。
「おっと」
オレはなにかにつまづいて転んだ。
椅子に座っていた男が通り道に足を出していた。
「すまねー。俺足が長くてよ」
数人が笑った。
まったく。どの世界でもイジメっ子の笑いセンスは皆無だな。
「……」
オレは反射的にそいつを睨んでしまった。
「なんだよ」と冒険者。
「文句あんのか? 足元見てなかったお前が悪いよな?」
グッとこらえる。
トラブルは起こすな。さっき言われたばかりだろ。
前世で学んだろ。こういう奴にいちいちタテ突いて良いことなんてない。
「いやぁ~すみませーん。足にお怪我なかったですか? じゃあオレはこれで――」
オレはペコペコして立ち上がり、
「――――っていくかボケ骨折しろァ!!!」
冒険者の突き出した足首を思い切り踏んづけた。
ペキッ。
「なっ、痛ってえええっ!」
……やっちゃった。
「なにしてんだテメエ!!」
周りにいた数人が一斉に立ち上がった。
「ゴメンなさい……つい……悪気はあったんですけど」
「あったんじゃねーかふざけんなテメェ!」
「ぶっ殺してやる!」
あっという間に囲まれた。
どうしよう。
こうなったら、やるしかないのか。いやでも、コン様にはトラブルは起こすなって……もう起きてる。
ていうか、まずオレこいつらに勝てるか?
いまレベル6だぞ。
「クソぉ……」
オレはやむを得ず剣を握った。
落ち着け。今回武器はある。
さっきコン様から受け取ったとき、この剣に封じられていたスキルがひとつだけ解放されていた。
《帯電》
物に電気を流す低級スキル。
まだ覚えたてだけど、これでなんとかするしかない。
「しゃーねえ! まとめてかかってこ……」
「やめろお前たち!」
と、そこで女の声が割って入ってきた。
「……い?」
見ると、薄汚い冒険者ギルドに似つかわしくない騎士鎧に身を包んだ女がいた。
背が高い。金髪に正義感の強そうなキリッとした目付き。
あれ?
こいつどっかで……。
「なんだこのアマぁ! 文句あんのか」
「冒険者同士のケンカに口出しする気は無い。だが多勢に無勢は見過ごせん。やるなら一体一にしろ」
その金髪美女は冒険者たちに毅然と言葉を返した。
「はァ??」
「それが嫌だと言うなら……私が加勢する」
そう言って腰の剣に手をかけた。
その瞬間周囲の空気がピリつく。
「ッ……」
この女、強い。
おそらく全員が理解したのだ。
この場の誰よりも強いと。
「…………ちっ」
冒険者たちは興ざめしたように、椅子を蹴って出ていった。
「ふん」
女は剣から手を離した。
「あ、ありがとう。どなたかわからないけど」
「勘違いするな。私は奴らが気に入らなかっただけだ。そうでなければキサマなど助けたりはしない」
と、振り向いた顔にはやはり見覚えがあった。
ただ思い出せない。
「えっと……どっかで会ったことあるっけ」
そう言うと、彼女は心底低俗なモノを見るかのように目を細めた。
「覚えてないのか」
「ええ? やっぱり? ごめん!」
「フン……まあそうだろうな。キサマはあのとき、私たちのことなど少しも気にもとめていなかった」
憎々しげな口ぶり。
私たち……?
「私はソフブィ゛……」
「……え?」
続けて何か言いかけた金髪美女はいきなり言葉を途切れさせた。
舌を噛んだらしい。
一瞬静寂が降り、女の頬が赤くなる。
「……ウホンっ。私の名はソフィア。オガネス王国の宮廷騎士だ」
「王国……っ――」
そうだ!
思い出した。
魔王を倒し、王城に帰還した日。
参列の中で、なぜかひとりオレを睨んでいた騎士の女。
「王国の……追っ手か……?」
ジリ、とオレは一歩後ずさった。
だとすればマズイぞ。
これはケンカなんかよりずっとまずい。
「それがわかっているということは、私が次にすることもわかるな」
金髪美女……ソフィアはすらりと剣を抜き、オレの鼻先に突きつけた。
「抵抗するなクスロウ。国王の命により、キサマを拘束する」




