恋愛ゲームの主人公、恋と花とイベントと。
温泉街で紋様を書きまくった私。
別荘地の豪華な温泉に入り、紋様士の先輩方に色々教わり、かなり充実した1週間を過ごした。そうしてそれぞれ自分達の家に戻ることになると、貴族ながらも紋様士になったミッツさんや、温泉地で出会ったフィン君が涙ながらに別れを惜しんでくれた。
そんなミッツを横目に笑う渋い紋様士のおじさん、そして紋様士の先輩方とお別れをして、ようやく家に戻るとホッと安心した。
「はー、家に帰ってくるとやっぱりホッとしますね」
「そうだな。いつ何に巻き込まれるのかとヒヤヒヤした」
「そんな毎回ありませんって!!」
そりゃね、魔物に追われたりとか、粉塵爆発とか、崖から落っこちるとか色々ありましたよ?でも毎回そんな生きるか死ぬかみたいな展開、誰も望んでないからね?!‥まぁ、今回はルルクさんと一緒に噴きあげる温泉に巻き込まれたりしたけど。
それに温泉地での観光客は元に戻ってきたし、大成功ってことでいいんじゃないかな〜。そそっと目を横に逸らすと、ルルクさんがお土産にもらったお菓子やら鉱石をテーブルに置き、
「おら、ともかく仕事道具を片付けてこい。夕飯の材料も買ってこないとだろ」
「はーい!」
まるでお母さんのようなルルクさんだが、まさか恋愛ゲームの暗殺者だとは誰も思うまい‥。前世でプレイしていた時には私の首を容赦無くスパスパ切ってくれてたのに、今では恋人になっている。人生って本当にわからないもんだ。しみじみとそんなことを考えていると、ジッと私を見つめるルルクさん。
「‥‥またどうしようもないこと考えてるだろ」
「そんなことありませんよ?!人生って不思議だな〜〜って思ってただけです!」
「そうかそうか。ほら、こっちはお前の仕事に使うもんだろ」
「言っておいてそれですか?!もう失礼な」
口を尖らせる私にルルクさんは可笑しそうにふっと笑うと、私の口にそのままチュッとキスをした。
「なっ!?」
「‥家に帰ると、気軽にキスができるのはいいな」
「なななな、だからってそんないきなり‥」
一気に真っ赤な顔になると、ルルクさんが私をまじまじと見て、
「よく誰にも手を出されなかったな‥」
「そりゃまぁ、そういうのは避けてましたし」
「‥まぁ、あとは気が付かなかったってのも大きいだろうな」
「そんなことないですよ!?流石に少しくらいの好意には気付いていた‥はず?」
とはいえちゃんと自覚したのは、私をストーカーしてたトニーさんくらい‥?ううっ、思い出すとゾワッとするわ〜〜。ともかく生きる為に恋愛ごとは全て避けていたのだ。そのせいで急なルルクさんからのキスとか、その他諸々にびっくりしてそわそわしてしまうのはご愛嬌ってもんだ!
開き直った私を見たルルクさんは、私の頭をわしわしと撫でると、
「‥‥先は長いな」
と、呟いて自分の部屋に仕事道具を持っていったが、先が長いってなにが?首を傾げつつ私も自分の部屋に仕事道具を置き、お土産に頂いた鉱石を仕分けた。
「うん、これでいいかな」
きちっと分けておけば明日から始まるギルドでの紋様にも使えるだろう。
パタンと蓋を閉めてから、ふと先日の温泉での出来事を思い出した。ルルクさんとその、い、イチャイチャしてたら頭の奥でポーンと音がして、
『『新イベント、『温泉でドキドキ!恋の進展編』終了です』
って、あの声!!
終わってなかったの?私の物語、まだ続いているの?!‥と、気になったけど、私の神経は相当太かったらしい。食欲は落ちないし、しっかり睡眠も取って、温泉にも入ったのでツヤツヤである。
とはいえイベントのお知らせが来るということは、これからも何か起きるってこと‥?そして私の命が危機に晒されるってこと!?
「ううっ!なにもわからない!あの話って続きあったっけ?私が死んだ後に何かサブストーリー付け足されたとか、続きが出たとかなのかなぁ‥」
けれどもう私は前世では死を迎え、新しい生を受けている。
転生ものをよく見たけれど、自分の身に起こってみるとこりゃあ大変だ!恋愛ごとさえ避けていけばなんとかなるかも!?なんて思ったけど甘い考えだったのかもしれない。
「ともかく、命大事にしていくしかないよね」
普段から命は大事にするものなんだけど、私の場合はどこでなにが起こるからわからない。‥いや、そりゃ皆同じか。窓の外の空を見上げ、天国のお父さんとお母さん、ユキは今日もどうなるかわからない毎日を懸命に生きております。そう心の中で語りかけると、キッチンからいい匂いがしてきて、
「ユキ、お茶と貰ったお菓子を温めてみたけど食べるか?」
「食べまーーーーす!!!」
‥はい、お腹も元気いっぱいでーす。
めっちゃ見切り発車!!
でも始めます!!!




