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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
魔女の追憶 番外編
61/120

09

 約一日。

 エリーが動くのに要した時間だ。

「大丈夫かい、エリー」

 気持ち程度の清潔感のあるベッドに寝ているエリーを覗き込むようにユーリスが声をかける。

「なにがあったんだい?」

 ユーリスの眉が心配そうに下がる。

 隣で立つコンラッドも分かりにくいが心配していることが分かる。

 エリーは体を起こし、紫色の唇を開いた。

「お母さんが、私のお母さんじゃないって……カナロフって人と一緒に、どっか行っちゃった……」

 ユーリスとコンラッドはお互いを見合った。

 そして、エリーの母親であるマリアが娘を捨て、客であるカナロフと駆け落ちしたことを理解したが、しかし、とユーリスは項垂れる。

 マリアはエリーを大事にしていた。

 街にいる親子とは確かに愛し方は違うが、彼女は娘を愛していたはずだ。

 それなのに、彼女を捨て、違う男と旅立っていった。

「そんなこと、できるのか……?」

「できるよ」

 入り口から入ってきたのは、焼き菓子の娼婦だった。

「ヴィエラ」

 ヴィエラと呼ばれた娼婦はエリーに「食べなよ」と砂糖菓子を渡す。

「愛に飢えている女ほど狂った行動をとる」

 エリーは「ありがとう」と受け取るも食べることはせず、その菓子を持ったままうつむいていた。

「あいつらは囁くんだ、愛の言葉を。飢えで空っぽな心にどろどろと愛を囁く。そしてそれが溢れると、狂ったようにそいつしか見られなくなる。娘がいようと親がいようと、愛を囁いたそいつが世界のすべてとなる」

 ヴィエラの言葉に首を傾げる男二人を見て、ヴィエラは「あんたらは愛を注がれたことが無いから分からないんだろ」と笑った。

 ちょっと不服そうな二人を置いておいて、ヴィエラは近くにある椅子に腰かけエリーを見た。

「そういう女は、目が変わる」

 エリーの肩が小さく跳ねた。

「うっとりとした恍惚とした目になるんだ」

 あの日見た、目がそうだ、と思った。

「そういう目をした女には気をつけろ」

 エリーはヴィエラの目を見た。

「そういう目をした女は、好きな相手の為なら何でもやる」

 ヴィエラの目に映る自分がよく見えなかった。


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