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鉄拳の騎士  作者: sui
第二十五話 意志と硬さが桁違い
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第二十五話 3

「しっかり整えるのだッ!!名誉ある決闘の場としてッ!!」


「――――」 「――――――」


 決闘の場として指定された大講堂。

オズヴァルドと、彼の指揮に従う鉄の灰色(スチールグレイ)の晶獣達が、戦いに備えた片付けを行なっていた。


 しかし、オズヴァルド達の清掃は粗雑そのもの。

据付の固定椅子を全て破壊して取り外し、床に散乱した天井材や砂埃と共に部屋の隅にまとめただけに過ぎない。


「……よぉぉッし!!こんなところでいいだろうッ!!」


 とりあえず平らな床面を作れば、それが彼らにとっての「名誉ある決闘の場」となる。

ロミルダが見たら頭を抱えそうな仕事ぶりだが、オズヴァルドは誇らしげな笑顔で完了宣言を叫んだ。


「うっ……うっ……うわぁぁぁん……!」


 大講堂の最奥に設置されたステージから、千智の啜り哭く声が聞こえる。

立てて設置した古びたベッドに、抑制帯で全身を拘束された彼女の姿は処刑前に磔にされた罪人のようだった。


「うるさいッ!!メソメソするんじゃあないッ!!死ぬ前くらい粛々としろッ!!」


 千智の泣き声が耳に入った瞬間、オズヴァルドの機嫌が一瞬で悪くなる。

拘束されたベッドに近づき、死罪人のあるべき姿を死罪人ではない千智に説く。


「ころされる……ころされるんだ……わたし……」


「アキラが来なければ、そうなるだろうなッ!いや、しかし奴が来たとてオレが殺すわけなので……どのみち死ぬな、貴様は」


 怒りの声が冷酷なものへと変わり、恐怖と絶望で震える千智に追い打ちをかける。


「わるいことしたから……うそついたから……おにいさんをだまして……まきこんだから……!」


 オズヴァルドの一方的な物言いが、千智の罪悪感を増幅させる。

同級生の愚行を止めたいが、“チクリ”の罵りは受けたくない――優等生ぶりたい子供の弱さ。

 

 弱さが生んだ嘘が転がり、膨らみ、罪になって自らを殺す。

幼い心が、絶望の果てにその理不尽を受け入れようとしていた。


「フゥム、幼体にしては理解が早いじゃあないか。先日処刑した不成者共と比べれば幾らか利口だ」


 オズヴァルドは〝先日処刑した不成者〟達――心霊スポットの無断撮影に訪れた動画配信グループの事を思い出す。

突然襲われた理由すらわからず、助けを求める声すら届かず、愚行の代償を命で支払う羽目になった者達。

彼らの断末魔は、オズヴァルドの脳裏に不快な記憶として残っている。


「貴様も所詮、立ち入り不可の掟を破る愚劣……だが、罪を認める心だけは立派だッ!貴様の死を語り継いでやろうッ!潔く死を受け入れるその姿を――


「そのカスの言う事、間に受けんじゃねえ!!!」


 オズヴァルドの長台詞を割って止める、大音量の怒声。

大講堂の扉を蹴破る轟音と共に声の主――芽吹晃が堂々と入場する。


「お……おにいさん……!!!」


「フッ……ようやく来たか!!待ちくたびれて掃除が捗ったぞ!!アキラッ!!!」


 部屋中に響き渡る乱暴な大声が、千智の心を蝕む絶望を吹き飛ばした。

そんな千智への関心を失ったオズヴァルドはステージから飛び降り、大仰な身振りと共に歓喜の声で出迎える。


「なぁぁにが罪人だ、ボケ!!!なんで他所から来て暴れ散らかしてるだけのクズがデケェ面して、そいつイジメてんだよ!!!」


 晃の怒りを最大限まで膨れ上がらせたのは、千智が虐げられる姿だった。

原因が千智の愚かさであったとしても、ここで殺される理由になるはずがない。

同級生の危険を止めたいという、善意から始まった行いが無関係な侵略者に踏み躙られていいはずがない。


――ぶっつけ本番だ!クソピンクが言ってた“防攻一体〟とかいうのは、今ここで完成させる!!


 訓練の不調も、それに伴う焦りと倦怠感も、既に晃の頭にはない。

目の前に宿敵がいて、為さねばならぬという決意が満ちていれば、晃の身体を動かす怒りは無限に溢れ出す。


「征服とはつまり、そうするものだッ!!!我々神聖騎士団は此方を彼方の植民地とし、全体を善導する者ッ!でかい面をするのは至極当然であるッ!!!」


「中身が無くて臭ぇ台詞も聞き飽きたぜ!!今度こそテメェのそのツラ、ぶん殴って黙らせる!!!」


 オズヴァルドから返ってくるのは、視点のズレた壮語のみ。

晃は苛立ちを宣戦布告に変えて、元々続ける気もない会話を早々に切り上げた。


「よかろう……やってみせろ!やらせんがなッ!!」


 オズヴァルドは胸のネクタイを解いて投げ捨て、胸元を開く。

露出した胸部に埋まる、オズヴァルドの本体――漆黒の剣晶が怪しく煌めいた。


「ETERNALBLACK」


 力強く胸の剣晶を叩いて起動すると、暗黒の光がオズヴァルドの身体を包み込む。

人型の光が変形して四散すると、オズヴァルドの身体が全身甲冑型の戦闘形態へと変貌した。


「二度とあの屈辱を忘れぬよう……刻んだのだッ!!」


 禍々しい姿はそのままだが、前回の戦いで晃の一撃を喰らった腹部には傷痕がそのまま残されていた。

叫び声と連動し、オズヴァルドの怒りと恨みを表現するようにひび割れた隙間から黒い光が漏れ出す。


「ヒッ……!?」

 

 人の姿から怪物へと変貌するオズヴァルド、大講堂全体に漂う闘争の空気。

それは常識と平和に守られた世界にいた千智が受け止め切れるものではなく、胸に抱く恐怖心は気絶する一歩手前まで膨れ上がる。


「おい、千智」


「な、なに……?」


 その様子を見た晃は、戦闘準備を始める前にまず千智に話しかけた。

その言葉はぶっきらぼうでガラが悪く、怯える子供に向けるには適切では無い。

それでも、千智はそんな言葉の中に晃の芯にある優しさを感じ取っていた。


「……今から見るモンは、誰にも喋んなよ?」


「ON-SLOT」 「EVERGREEN」


「セットアップ!!」


「IGNITION」


 不敵な笑みを浮かべると、剣晶を左腕のアーマライザーに装着する。

天に向けて手を伸ばし、掛け声と共に拳を握る。

アーマライザーから成形された鎧が、左腕から順に装着される――本来一般人に見せることのない装着プロセスが、千智の目の前で繰り広げられた。


「ONSLAUGHT!!」


「す……すごい……!」


 装着完了を知らせるシステムボイスが鳴り、晃の全身が常緑色(エヴァーグリーン)の鎧に包まれる。


 オズヴァルドの変貌と晃の鎧装着を間近で見た千智は、その力の源がほぼ同一のもの(剣晶)である事に気がついた。

オズヴァルドと同じ力を用い、野蛮な戦いに身を投じようとしているはずなのに。

無骨な鎧姿の晃が千智にはとても輝かしく、救いをもたらす英雄のように見えた。


「覚悟しろや……!!」


「クッ、クックククク……」


 晃は入り口からゆっくりと歩み寄るが、オズヴァルドはその場から動かず不気味な笑みを浮かべる。

先程までの勇猛果敢な闘士としての感情が、一転して卑劣な悪漢のものへと変わった。


「フハハハハハッ!!皆の者、やれッ!」


 晃が大講堂の中央部に立った瞬間、手を挙げたオズヴァルドが号令をかけた。


「――――」「――――」「――――――」

 

 号令を受けるのはオズヴァルドと共に清掃を行い、晃の到着と共に待機していた晶獣達。

ノイズのように不気味な音を発しながら、一斉に動き出して襲いかかる。


「我々は個ではないッ!騎士団であり、故郷たる彼方の総意だッ!!それに挑むならば、こうなるのは至極当然ッ!!!」


「心底クズだな、テメェッ!!」


 オズヴァルドが掲げる、晃達にまったく関わりのない彼方の大義。

晃の大きな怒りに対抗すべく、大義が物量を伴って襲いかかる。


「畜生ッ!!どけ!ザコ共!!」


 一体目の剣戟を受け止めるが、反撃に移る前には二体目の剣戟が襲いかかる。

三体目、四体目、五体目――オズヴァルドに比べて精度と威力に劣るそれらの攻撃を、防ぐ事は出来ても反撃に転じる事が出来ない。


――特訓を思い出せ!全力で受け止めろ!!そんで、全部返すんだ!やられた分を!!やられた以上に!!!


 麗華と特訓し、防御姿勢の精度を鍛え続けた。

受けた相手が疲弊し、まるで武器や身体にダメージを反射するような守りの型。

篝火によって〝防攻一体〟と名付けられたそれを、実戦において実践してみせる。


「おにいさん!!負けないでーーー!!!」


――千智……!!


 防戦一方の戦況にあっても、晃の耳には千智の声援がしっかりと届いた。

決め手に欠ける不利な戦況でも、言葉が晃に力を与える。

小さな友を護らんとする意志が全身に滾り、力強く床を踏み締めた時。


「負けるわけねえだろ、ゴラァァァァァァァッ!!!」


 その現象は起きた。


――な、なんだ!!??


 左腕のアーマライザーに装着した剣晶が、明確な力を発した。

それは晃の全身に巡る怒りに上乗せされ、踏み締めた足からボロボロの床へと伝わる。

剣晶の力は廃病院を支える鉄筋コンクリート基礎を流れ、地中梁が埋まる地盤――即ち、大地へと届いた。


――支えられてる……でかいもんが、俺を支えてる!!


 大地に流れた力が巡り、同じ道を辿って晃の身体へと還る。

剣晶がまるで心臓のように脈動し、大地と晃の間で力を循環させる。

まるで地球と一体化したような感覚が身体の芯を支え、どんな攻撃も通さない守りを生んだ。


――俺の剣晶が……なんかやってんのか!?


 それはエヴァーグリーンの剣晶が持つ大地の力が覚醒した証。

しかし、その現象を引き起こした本人に自覚がなく、何故それを引き起こせたかが理解できない。


 力が目覚めるのは、いつも戦いの真っ最中。

ゆっくりと考えを巡らせることなど、出来るはずもない。


 だから自分の持つ剣晶が〝何であるか〟。その答えにはまだ辿り着けない。


「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」


 剣晶の覚醒によって完成した〝防攻一体〟は、晶獣達の攻撃を反射する。

跳ね返った威力によって晶獣の剣が崩れ、体勢が崩れ、連携が崩れる。


――なんでもいい。こいつらブチのめして千智を取り戻せるんなら、それでいい!!!


 足を根にして地球から吸い、拳を枝にして地球に還す。

循環構造が生まれた晃の拳は、一撃で晶獣を破壊する威力を得た。


「な、なんだ!?今、何が起きたのだッ!!??だっ、第二陣!!第二陣構えぃ!!!」


「何が起きたかは知らねえ。わかってんのは……」


 一瞬で覆った戦況にオズヴァルドは仰天し、大袈裟な身振りで驚きを表現する。

大声で喚き散らす疑問は答える価値のない言葉だが、晃はあえて答えてみせた。


「今からお前がくたばるって事だけだ!!!」


 晃を取り囲む増援、間抜けではあるが未だ本気を出していないオズヴァルド。

湧き上がる力を声に乗せ、重ねて襲いかかる悪意へ更なる抗戦を宣言する。

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