パラメーター容姿全振り聖女
その日、俺はモーラの家でアンナとエリスと共にいた。
「おー、いいじゃん、いいじゃん」
目の前には目が覚めるような超絶美少女がいる。キラキラと輝く銀の髪に、深く美しい虹彩を放つ紫水晶のような瞳。そして神が自ら手を加えたのかと思うほどに整っていながらも、微塵も冷たさを感じさせずに柔和さをも漂わせる目鼻立ちは、常に慈悲深い印象を見る者に与えるだろう。
「でしょ。アンタの注文に応えるのは苦労したけど、これなら文句ないわよね。うん、確かに自然に見える。まさにナチュラルメイクってやつね」
俺の隣でアンナがどや顔をしている。そして俺の眼前にはエリスが掲げてくれている鏡があった。そう、何を隠そう、俺が全力で見惚れていた超絶美少女はまさしく今世での俺であった。ナチュラルに美少女な俺が、その自然さを失わないように繊細に施された化粧で何倍にもその美貌を際立たせてしまっている。前世でナチュラルメイクを簡単メイクと言って妹にブチギレられたが、確かにこれは簡単メイクなどではない。
「流石です、お姉様。その愛らしさは老若男女問わずに虜にしてしまうでしょうね。……身内の子たちならともかく下卑た男の人にもお姉様のお姿を見せなければならないというのは、とても心苦しいですけど」
幼い頃とは違い、名家のお嬢様のような口調となってしまったエリスが、俺の美貌をそう賞賛する。
「ん、ありがとねエリス」
俺がそう答えると、エリスはパッと頬を染めて嬉しそうに目を伏せる。俺も美少女ランクはSランクだが、エリスもまたSランクの美少女であり、そのような仕草をされると、俺の中のおっさんの魂が歓喜の叫び声をあげそうになってくる。
エリスが昔の天真爛漫な少女から、このように変貌を遂げたのは、祈りを捧げ瞑想をしている最中に神様の使徒より教えを授かっているからだと、以前本人から聞いたことがある。実際、エリスは瞬く間に高位の奇跡を行使できるようになったので、その話には信憑性はあるだろう。だが、俺としては以前のエリスも可愛く思っていたので、この変化には嬉しさ半分、寂しさ半分といったところだろう。
あと、気にかかるのはその神様の使徒とやらの教えを受けてなのか、エリスの恋愛観が若干なんというか、百合の匂いがしてきてしまったことだろうか。スキンシップをしていても、以前は全身でぶつかってきていたのが、なんとなく煽情的なタッチになってきているように思え、一緒にお風呂に入っているときなど変な気分になってしまい困っているのが現状だ。
神の使徒とどんなことをしているのか尋ねたこともあるが、企業秘密だそうで話せないそうだ。企業秘密って言葉が出る時点で、なんとなく察し案件ではあるが、エリスの成長の著しさは本物なのであまりつっこまないことにしている。願わくばその使徒が転生者であってもよいが、中身が俺のようなTSおっさんでないことを祈る。
「でも、アンナにはファッションの才能があるね」
「ふふ、天眼のお眼鏡に叶うなんて光栄ね」
俺の誉め言葉にアンナが満更でもないように笑う。実際、アンナは料理はダメダメだが、裁縫やこういったメイクなどのファッション系の才能はかなりのものだ。天眼の能力はゲーム脳な俺のせいなのか、戦闘系のステータスしか見ることが出来ないのが惜しいところである。料理とか鍛冶とかのタレントスキルも見ることができたらいいなと、うんうん力んで頑張ったこともあったが無駄であった。どうやらそれが仕様らしい。
「あんたの聖女服ももっとバージョンアップさせとくから期待しててよね」
さらにアンナはどや顔となる。聖女服とは、俺が常日頃纏っている服のことだ。最初はとにかく清楚さを出そうと純白一辺倒であったそれは、アンナのリクエストによって集められた一流の素材によって白や銀の糸などで刺繍が施され、美しくも華美過ぎない逸品に仕上がっている。アンナの腕がいいのか、着心地もよく、体にフィットした作りとなっており、シンボルとして振る舞うために寝るとき以外はいつもこれを着ることにしている。いわば前世の俺の休日でのジャージのような存在だ。
実際、新しく入ってきた子たちなどは俺の姿を見ると硬直してしまっている。最初は少し照れているのかなと思うことにしていたそういった反応も、今では純粋に見惚れているのだと客観視できるくらいには、俺は今の自分の姿を受け入れることが出来ている。前世が男だったということで、あまり自分の容姿の優秀さに傾倒せず、持ち味を生かす形で理想の聖女さんとやらに近づけていけていると実感するほどに。
「うん、ありがとねアンナ。次の集会では前回より上手くいくよう頑張るよ」
人は見た目が9割っていうのはメラビアンの法則だったけ。魔法も使えなくなった今、俺が伸ばして一番捗る能力はコレなんだよなあ。まあ、やると決めたからには徹底的にやるつもりではいる。ポリコレなんて知ったことじゃねえ、見せてやるよルッキズムの力をな。今の俺はパラメーター容姿全振り聖女だぜ。
「……なんてね」
内心で自嘲しながら、エリスが掲げてくれている鏡を見る。そこに映ったリコは、清楚でいて、それでいて愛さずにはいられない親しみのある微笑みを俺に向けてくれていた。




