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 庁舎を出たタンベレと私は、庁舎ビルにほど近い店に入った。行政やビジネス関係のビルが多いエリアではあるが、そればかりではない。商業ビルもあれば、小さな店が並ぶ通りもある。小さな入口から穴倉のような地下に入って行く。柔らかい光の灯る素朴な感じのする家庭料理の店だった。

 今日のメニューからお勧めのものに決めると、タンベレが聞いた。

「セシルさん、アルコールは? アルコールの濃度は高いのですが、薬草を漬け込んだハルタンらしい酒がここではお勧めですよ」

 タンベレは私を窺った。

「では、少し」

 店員がハルタンの薬草酒をグラスに半分ほど注ぐ。グラスを持ち上げると香りが立った。ふと、懐かしいような気持になった。

「メティス?」

「ご存知ですか?」

 店員が微笑んだ。

「ええ」

 神殿の、標本室かどこかで嗅いだのだったか……

「メティスは胃腸の働きを助けます。香りも爽やかでしょう? もっとも、よその核の人はこれを嫌う人もいますが」

「私は気に入りました」

 少し飲んで答えた私に頷くと、店員は料理を取りに戻った。

「そう言えば、タンベレさん、ネッド・カプリマルグス秘書官からラスキングさんが見た天使のことを聞かれていましたね。ラスキングさんと確認に行った時に回収した砂の中に手がかりとなる成分はあったのですか?」

「あれは、特に何もなかった、と報告しました」

「報告した? それは……本当に何も見つからなかったのですか?」

 この時、セシルとして使っている端末が鳴った。

「セシル、ラスキングだ」

「ああ、ロリー、どうかしましたか?」

「ジョンのことだ。どういうことだ? あんた、ジョンの単車の思念の装置をブロックさせたな?」

「ええ」

「思念を使わないなど、なんていうことをジョンに教えたんだ? 確かにジョンの思念は弱い。そのおかげでだいぶレースには不利だ。だが、思念を使うからこそ、単車に組み込まれた電脳の安全装置がスムーズに働くのだ」

「でも、最終的な安全装置はブロックしていません。ほとんどの操作が手動になっただけで」

「だが、レースの時に沈着さを保つことなど、片手間で教えられるようなことではない」

「ロリー、プロの中には手動でレースをする者がいる。誰かが教えなければ、ジョンはいずれ自己流で挑むことになる。それはわかるでしょう?」

「ああ。だが……参ったな」

「私の家を訪ねてきた時、ジョンはプロになりたいと言った。プロの道を選ぶのも、プロの道を諦め、新たな道を行くのも、選ぶのはジョンです。やってみなければ、ジョンも選べない」

「そう言われてしまえば……セシル、俺も、迷っていたのは事実だ。わかったよ。俺が少しばかりジョンに教えてやろう。プロの厳しさをな。あんたも、もう少し見てやってくれ。セシル、あいつは夢中だよ。あの目の輝きは別人のようだ。実際、俺は驚いてもいるんだ」

「時間が取れるかどうか……」

「人を探していると言ったな? 何か厄介なことでも?」

「そんなところです」

「助けはいるか?」

「いいえ」

「そうか、ところで」

「どうしました?」

「アランとマックが怪我をした」

「単車で?」

「いいや。いつか俺を叩きのめした奴ら、アランはあいつらのことを警備員のリーから聞き出したらしいんだ。それでマックと後をつけまわしていて、逆にやられた」

「ジョンは?」

「あいつは非番で知らなかった。二人のことを聞いて、ずいぶん悔しがっている」

「二人の状態は?」

「アランもマックも一日入院したが、心配ない、仕事に戻っているよ」

「あの鞭」

「ああ、酷いもんだ。セシル、あいつらは何者なんだ? あんた、何か知っているんじゃないか?」

「ロリー、急に、何を」

「話してくれ」

「……」

「だめか。いや、いいんだ。だが、どうか、何かあったら俺に話してくれ。俺だって役に立つこともあるだろう」

「ロリー、ありがとう」 

 私は端末を置いた。グラスを空けながら、タンベレが私を眺めている。

「ごめんなさい、タンベレさん」

「ロリーからですね。聞いていますよ、あなたが素晴らしい乗り手だと」

「それは、いつのこと?」

「昨日、いや、一昨日か。ロリーが見舞いに来てくれて、その時に。ナオミも話を聞いて目を丸くしていました。あなたはとてもそんな風には見えないと。セシルさん、あなたの腕は趣味を超えている。あなたは、さっき俺にあの時回収した砂のサンプルのことを聞いた。それに、ロリーにはあの時の映像を見せてほしいと言ったそうじゃないですか。何故です? ただの好奇心とは思えない」

 アロ・タンベレか。情報には情報を、だ。私は取引に出ることにした。


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