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「私はセシル・フレミングであり、セシル・フレミングでないかもしれない」

 タンベレは私の取引をすぐに察し、頷いた。

「あの時のサンプルは治安部の息がかかっていないところに分析を依頼した」

「何故?」

「治安部の、上層の動きがおかしいから。まず、何故あんなにあの映像にこだわるのだろう? その上、恐らく治安部の誰かが、あの映像のことを知る俺やロリーが外部にその話をすることを止めようとした。何かあると思うのが自然だ」

「どうして治安部が絡んでいると思う?」

「ロリーが暴行を受けた時のことを聞いた。普通ならば、とっくに警察課が現場を押さえているはずだ。セシルさんが見つけてくれなかったら、もっとひどいことになっていただろうとロリーは言っていた。さあ、あんたの番だ」

「治安部の上層部が絡んでいると、私も思っている。私の父の友人もこのハルタンで治安部に監視されている身だ。その彼から、ある人物を探し、見つけたら確保してほしいと言われている。ここでの仕事が増えたわけだ」

「ここでの仕事? 治安部の電脳のメンテナンスではないな?」

「そう、そして新しいシステムの売り込みでもない。盗まれたものを探している」

「盗まれた? 何を盗まれたんだ? 盗んだのは誰だ?」

「盗まれたのはゼフィロウ外に出してはいけない特殊な電脳チップ、メヌエット。誰が盗んだのかはまだわからないが、ハルタンに持ち込まれたのは確かだ」

「メヌエット……で、あの映像とは何か関係があるのか?」

「領主も、ハルタン治安部も、あの映像の人物を探しているのだ。そして、我々は彼らがメヌエットを使ってその人物を操ることを恐れている」

「操る? ナンセンスだ。たとえ、あれが探している人物であろうと、生きているはずがないじゃないか。あの深さでは人は生きられない。その遺体に用があるにしても、もうあの辺りの生き物の胃袋に収まって吸収されているはずだ」

「だが、彼はいる」

「わからないな」

「いや、次は私の番だ。サンプルの分析を頼んだ先は?」

「それは……あんたを信じていいのだろうか」

「今更何を言う」

「わかった。分析を頼んだのはカップ氏。藻類の研究家で、当局とはあまり縁がなさそうだった」

「カップか、それはいい」

 私はひざを打った。

「どういうことだ?」

「カップは知っている。間接的にだが。信用できる人物だ」

「セシルさん、少なくとも、あなたは敵ではなさそうだ」

「恐らく」

「分析の結果が出たら知らせる。それから、アロでいいよ」

 タンベレが微笑んだ。

「セシルで」

 私は考えて答えたが、別のことが浮かんだ。

「そう言えば、今日は退院後初の出勤日だけど、ナオミがいない」

「ハルタン挙げての高度医療施設の建設計画があって、各地から客を招いているんだ。今日も関連のパーティーが行われていて、ナオミも顔を出すよう言われているらしい」

「ハルタン挙げてか……」

「高度な治療を行える豪華な施設らしくて、我々一般が恩恵にあずかれるかどうかはわからないが」

 アロ・タンベレは肩をすくめた。食事は終わっていた。店員が持ってきたメティスの大びんもすっかり空になった。

「アロ、今日はありがとう。明日、庁舎で」

 私は席を立った。

「ああ、宜しく、セシル」

 アロは言った。


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