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規模で言えばリックスドームに及ばないが、Uドームはなかなかよくできたドームだった。楕円形のコースを階段状になった観覧席が囲む。ゴール近くに貴賓室、そこを起点として楕円を四等分した地点に一般のカフェテリアが三つ。それぞれ観覧席の上部に張り出している。
コースがよく見える。
「どうぞ」
爺さんが盆にビールとサンドイッチを載せてきた。
「レースは個人戦と団体戦があるんだ。団体戦は三人で一チームだ」
「では、アラン、マック、ジョン?」
「そうだ」
「三人とも個人戦にもエントリーしている。まずは個人戦から始まるよ」
爺さんがレースのプログラムを渡した。
「ロリー、ロリーじゃないか」
カフェテリアに入って来た客が大きな声を上げた。相手は面白がっている声だったが、爺さんは興味なさそうだ。軽率そうな明るさの下に、陰険な計算高さを感じる男。
「レポか」
「そうだ。久しぶりに来てみたら、お前の単車が登録してあるので驚いたよ」
「ラスキングさん、登録って?」
「どなたかな?」
レポとかいう男は、今度は面白そうに私を見た。
「ちょっとした知り合いだ。潜水艇と単車レースに興味があるとわかったので、案内している」
「そうか」
それで私への興味は尽きたようだ。大いにありがたいことだ。
「で、あんた、まさかレースに出るのか?」
レポの関心事はあくまでも爺さんだった。
「出ない」
「じゃあ、どうして自分の単車を登録した?」
「面倒を見ている若い奴の単車の具合が今一つだったから、予備に登録したまでだ。お前には関係ないだろう?」
爺さんは素っ気なかった。
「そうでもないさ。お前が出るようなら、俺も出ようかと思ったところだ。いつぞやのレースの続きはしたくはないかい?」
一瞬、レポの凶悪な顔が覗いた。レポは笑っている。こいつも単車乗りだったか……たちの悪い粘着質だ。
「俺はやめたと言っただろう?」
「ふん、そうかい。つまらんな。そうだ、俺の生徒もエントリーしている。お前のところとの勝負なら、少しは楽しめるかもしれん。じゃ、また後でな」
レポは爺さんの肩に手をかけると仲間のところへ戻って行った。
「あの人とレースをしたことがあるんですね?」
「ああ、昔に。あいつは俺と同じころにプロ選手になった。今は単車の操縦を教える大きなスクールをやっているらしい」
「嫌な雰囲気でしたね、お知り合いにこう言ってよければ、の話ですが」
「もちろん構わんさ。それどころか、ずいぶん控えめな言い方だ。あいつは俺のせいで怪我をしたと思っている。誤解なのだが。それに……」
「昔のライバル意識? それも陰湿な」
「馬鹿な奴だ」
爺さんは肩をすくめた。
「一口にプロと言ったって、表舞台に出るのはその中のほんの一角だ。俺も、やつも、ごまんといるプロの中の一人に過ぎん。もっとも奴は、そんなつもりはなかったらしいが。プロのレースではメーカーからそれぞれが託された単車を使うことが多いんだが、そういうのはまだ試作品だ。でも、俺たちはトラブル承知でレースに出る。これが金になるんだ。そんなわけでレーサーには怪我が付き物で、プロとしての寿命は短い。大概は三十頃には辞めて別の仕事に就く。人生はまだ続くからな。俺のようにメカが好きでそれに関わるのもいるし、あいつみたいに単車の操縦を教えているやつもいる。企業に入るやつも、貯め込んだ金で事業を始めるやつもいる。それこそ、いろいろだ。走っていた頃は、レースを辞めてしまったらどうなるのか見当もつかなかったが、巡視の仕事は今までずっと楽しかったよ。衛生部の委託とはいえ、自分の裁量で船を操れる。ポートに戻れば、レース馬鹿がいる」
「確かにそうですね」
私はレースの準備が整ったコースを見た。レポの姿はすっかり消えていた。




