都炎上
嘉吉2年3月下旬。
都はまだまだ寒い明け方のこと。
寒さから、外に出るものもなく、都は静かであった。
細川屋敷を皮切りに守護大名の屋敷に一斉に火矢が放たれ、折からの比叡降ろしの風に煽られ、火の手はアッと言う間に広まった。
管領 細川持之は、突然の出来事に唖然としていたが、我に返った。
「何事が起こったのだ!」
持之は叫んだが、家臣は右往左往して誰一人、状況把握出来ていなかったようであった。
持之は仕方なく、太刀を持ち、外に出る事にした。
「吾についてくるものは、勝手についてこい!」
持之は吐き捨て、屋敷の外を目指した。
既に家臣の何人かは、炎に包まれて焼け死んでいた。
炎を避けながら、屋敷の外に出る門までたどり着いた持之。
門は開け放たれていたが、その向こうに軍勢の姿があった。
「都を騒がす兵ども、どこのものだ!」
持之は、管領の威厳を持って叫んだ。
一人の武者が進み出てきた。
「持之、さすがに管領だな。」
「そ、その声は、御所様。」
「持之、証文を返し、お主の命をいただきにきた。」
「御所様、お戯れを…」
言い終わる前に、持之の身体に無数の矢が突き刺さった。
一本の矢に、細川持之への借用証文がしっかりとついていた。
「さらばだ、持之。」
同じ光景があちこちの守護大名屋敷で見られた。
守護大名の屋敷が火に包まれ、その火は都中に広まり、帝の住む御所以外は灰燼と帰してしまった。
義教の描いた絵図の第一歩であった。