第5話 希望
2026年5月13日
それはGW明けの仕事もようやく慣れてきた頃、帰りの電車だった。
(あーつかれたー、仕事めんどくせえな。)
「すー?あ、やば。ごめんなさい、人違いです」
そう話しかけてきた男は去ろうとしたが、俺はそいつを引き止めた。
(俺のことをすーって呼ぶのは大学の時の野球部の連中しかいねえ。だとしたら)
「え?トッキー?」
「すー、いまトッキーっつった?てか俺わかんのか?」
「わかるってか、おれら友達だし、、」
「まさかここと違う世界の今井進か!?」
「じゃあトッキーも!?」
「そう!ちょ、ちょっと、色々話聞きたいし、飲みは、、酒入るとまともに話せなくなるし、ちょっと降りてファミレスでも!」
「おう!」
彼の名前は時田麻弥。大学の時に出会って、同じ野球部で仲良くなった奴だ。平行世界の進は俺とは違う大学に行っているので、もちろん時田とは知り合うはずがない。
「じゃあ改めて確認するために、元いた世界の情報を確認しよう」
「おう」
「俺とすーが会ったのは西暦2021年令和3年の4月で誠桜大学の硬式野球部の新歓で会った。ここまでおっけー?」
「同じだ!」
「そんで留年もなく、2025年の3月に卒業して、いまが社会人2年目の5月。2026年令和8年の5月」
「じゃあほんとに」
「同じ世界からやって来てるってことだな!」
「え、え、じゃあ卒業旅行行ったのも?」
「大学4年の11月、山梨に行ったよな」
「じゃあ先々月の2月は?」
「スノボ旅行しに行ったな」
「じゃあ」
「まじで同じ世界にいた時田麻弥と今井進ってことだな」
「まじか!まじか!まじか!」
「あ、しー」
「トッキーはいつから来た?」
「1ヶ月前ぐらいだと思う」
「同じぐらいだ」
「その日何してた?」
「飲んで家帰った記憶はあるんだけど家に着いてからの記憶はなくて」
「そっか、起きたのはどこだった?」
「病院」
「それは同じか、ちなみにこの世界でなんで病院にいたん?」
「なんか、家の階段から落ちたらしい」
「ちょっと似てるの怪しいな」
「なんか元の世界に帰る手立てがあるといいんだけどな」
「うーん、一応そのへん色々試したりしてるんだけどさ、なかなか難しくて」
俺と時田で困りながら沈黙が続いていると、未来から電話がかかってきた。
(あ、やば、未来になんにも言ってなかった)
「出ていい?」
「おう」
俺はファミレスを出て、電話をとった。
「もしもし、何してるの?」
「ごめんごめん、もうすぐ帰るから飯頼んでいい?」
「それはいいけど、何してるの?」
「あ、えっと、長くなるから帰ってから話す。絶対に」
「わかった。でも絶対って言葉嫌いだからやめて」
「うん。ごめん。ソッコーで帰るから待ってて」
「よろしい、待ってる」
(絶対が嫌いか、、もう身近な人を失うのが怖いんだろうな)
俺はファミレスへ戻り、時田に説明した。
「ごめん、この世界の俺さ、彼女と同棲してて、早く帰んないと」
「え!?同棲!?早く帰んないとじゃん!悪いことしたなー、ごめん」
「いや、大丈夫大丈夫。この世界のこととかは言ってあるし、帰ったらトッキーのことも伝えてみる」
「言ったの!?」
「彼女にもこの世界の俺にも申し訳なくて、どうしたら戻れるかとかを一緒に探してもらってる」
「やっぱ、すーだな。そういうとこが」
時田は呆れつつも笑いながら言った。
「んだよそれ」
「じゃあ、連絡先、ここだとLOINか、交換しとこうぜ」
「おう」
こうして、時田とは連絡先を交換して別れた。
(よし!これで仲間も増えて、しかも同じ境遇のやつができたなら何か進みそうな気がする!)
「ただいまー」
そう言って玄関に入ると未来が仁王立ちしていた。
「おかえり。で、何してたの?」
「こえーよ、こえーって、待て待て、手ぐらい洗わせろって」
「早くして」
部屋に上がって洗面所で手を洗ってる時も後ろについてきて、RPGみたくなっていた。そして、鞄を置いてからテーブルに着いた。
「じゃあ話すね」
「どうぞ」
(怒ってるな〜)
未来は怒りつつも不安そうな顔をしていた。
「えっと、仕事の帰りに向こうの友達に会った」
「え?向こうって君の世界の?」
「そう」
「えー!大発見じゃん!」
数秒前、未来は泣きそうな顔をしていたのに今は喜びに満ち溢れていた。
「大発見て、物じゃねえんだから。で、少し話して遅くなったってこと」
「なんだ〜そんなことなら言ってくれればよかったのに〜」
「いや言わせる間もなかっただろうが」
「えー?そうかなー?それでそれで何話したの?なんで向こうの友達って分かったの?」
「まず、向こうから話しかけてきて、俺のこと、すーって呼んだんだよ」
「君、すーって呼ばれてたの?うける」
「うけねえよ、そんで、そう呼ぶの大学の時の友達しかいないし、平行世界の、この世界の進と俺とは大学が違うからその友達と会っていないだろうし、それで俺も返事したらやっぱ向こうの世界の友達だった」
「へ〜その子もよく話しかけたね」
「なんだかんだでまだこの世界に来て1ヶ月ぐらいだしな、知ってるやついたら俺でも話しかけるかもしれんし」
「たしかに、、あれその言い方だとその子も同じぐらいの時にこっちに来たの?」
「ああそうそう。電車の中で会ったからさ、話したいしそれからファミレス行ったんだよ。こっちに来る前は何してたかとか聞いたわ。それとちゃんと向こうの世界での友達なのかっていう確認ね」
「なるほどねー。たしかに、いくつも平行世界があったら君が元いた世界の友達とは限らないかもしれないしね」
「うん、そんで部活のこととか大学の名前、卒業旅行どこ行ったとか全部当てはまったから99パー向こうの世界の友達だってなったわけよ」
「そんで?その子はなんでこっちに来たの?」
「酒飲んで家帰って気づいたらこっちにいたらしい。家に着いた後の記憶はないんだってさ。で、起きたのはこっちの世界の病院」
「どこか君と似てるね」
「そーなんだよなー。だからたぶん何かが起きてこっちに来た。それはほぼ確定してるんだけど、じゃあどうやって帰るかってとこなんだよなー。こっちに来る方法があるなら向こうに行く手立てもあるはず、一方通行ではないと思うんだよな〜」
「うーん、、うん!そうかも!」
未来は少し考えて俺の考えを肯定した。
「連絡先も交換したし、時間空いた時にまた詳しく聞いてみるよ」
「そうだね!私も一緒に考えるよ!」
「ありがとう!」
最近の未来は戻る方法を探すのに関してわりと積極的だ。前までも積極的ではあったが、どこか嫌々やっている感じで、俺といるのも嫌って感じではあったが、今は一緒に考えてくれて同じ熱量で探してくれている気がする。
「じゃあすっきりしたしご飯食べよ!あ、食べてきちゃった?」
「ううん、食べてないよ。飯頼むっていったじゃん」
「だよね!よかった!冷めちゃったから温めて食べよー」
「手伝うよ」
「うん!ありがと!」
その次の日の朝だった。
何気なくLOINを開くと、時田のLOINのアカウントが消えていた。
昨日スタンプだけ送り、たしかにトークの1番上にあった。
これだと連絡がとれない。
動揺を隠しきれないでいると、未来がどうしたの?と、聞いてきた。
「未来、昨日話した友達の連絡先が消えてる」
「え、、ほんとに?」
「うん」
「消しちゃったとかじゃなくて?」
「そんなことしてない」
「でもそれって、、」
「ごめん、早めに行って駅とかにいないか確かめてくる!」
「ちょっと、朝ごはんは?」
「あ、えっと、今日はほんとにごめん!帰ったら絶対、、じゃないや、帰ったら食べる!」
俺はそう言い放って家を飛び出した。が、時田と一緒に降りた駅に行っても、その周辺の駅に降りても時田の姿はなかった。
仕事の帰りに試しに初めて会った日と同じ時間帯に行くと、トッキーがいた。
「トッキー?」
俺は大きな不安を抱えながら話しかけた。
「どなたですか?」
「嘘、だろ、、なあ、変な冗談はやめてくれよ」
俺は時田の両肩を掴んで必死に訴えた。
「ちょっとやめてください。どうしたんですか?」
「そんな変な敬語はやめてくれよ!」
「ほんとやめてください!」
時田はそう言うと俺の手を剥がし、違う車両へ歩いていった。
(まじかよ、、また俺ひとりなのか)
俺は絶望を抱え、頭が真っ白になり、降りたこともない駅で降りた。
ブーブー
何も考えられず駅のホームの椅子に座っているとスマホが鳴った。誰からかは見ず、適当に電話をとった。
「もしもし!またなにかやってるの?」
電話をかけてきたのは未来だった。いつもみたいに荒々しい口調で俺に聞いてきた。
「ごめん」
「どうしたの?」
俺の変化に気づいたのか、未来は優しい口調で俺に聞いてきた。
「今日トッキー、向こうの友達に会ったんだ偶然」
「そうなの!?連絡先消えたって言ってたけどよかった、、じゃなかったんだ」
未来は察したかのように言葉を改めた。
「うん、たぶんもう向こうの世界に帰ったのかも、俺のことを知らなかった」
「そっか」
「おれ、戻れんのかな」
「大丈夫だから、何も考えなくていいからとりあえず帰っておいで」
「うん」
「ただいま」
俺はそう言って家に上がると、すぐに未来が来て、俺の手を取って、鞄を持ってスーツの上着を脱がせてテーブルにつかせた。
「一旦これ飲んで落ち着きな」
「うん」
未来が用意してくれたのは温かいコーヒーだった。
「未来、悪いな、朝も出て行っちゃったし、こんなこともしてくれて」
「ほんともう落ち込む時はとことん落ち込むんだから」
「そんなところはこっちの進と同じなのか」
「そうだけど、今は君と話をしているの。進は今は関係ない」
未来は優しく、それでいて少し怒ったように答えた。
「あーはは、すげえな未来は。ほんとに」
「そんな腐ったような苦笑いしないでいいよ、君は絶対帰れる。大丈夫」
「うん、ありがとう。未来」
数分経って俺が落ち着いたのを察したのか、未来が口を開いた。
「それにさ、分かったことがひとつあるじゃん」
「え、なに?」
「連絡先が消えたってこと」
「それのなにが?」
「だーかーら、もしね、その時田君?が君のこと知らないって思ってLOINの友達削除しても君のアカウントの中じゃ時田君のアカウントは普通消えないの!」
「そうだ、そうだわ!なんでこんなことに気づかなかったんだろう。じゃ、じゃあ誰かが俺のスマホの中からトッキーの存在を消したってこと?だよな」
希望が見え始め、俺は少しずつ調子を取り戻していった。
「そうそうそういうこと、一応言っとくけど私じゃないからね」
「わかってるって、そっか、そうだ!」
「今日の私冴えてるでしょ」
未来は自慢げにそう言った。
「冴えすぎだ!」
俺はそう言って未来とハイタッチをした。
「ま、誰が何のためにこんなことしたかはわかんないんだけどね」
「だけど、誰かがそんなことをしてるってことは、こっちの世界に来る方法と向こうに戻る方法、、あ!」
「なに!?なんか閃いた?」
「いや、こっちの世界のトッキーに戻ったなら、俺が知ってるトッキーは元いた世界に戻った可能性が高いなって」
「え?うん、そうだけど?」
未来はきょとんとした顔をして、なんでそんなことも気づいてないの?みたいな顔をしていた。
「あ、いや、取り乱しすぎて全然気づかなかった。またひとりになったってことしか頭になくて」
「ほんと君ってテンパるとポンコツになるよね」
「うっせー」
「てかさ、ひとりじゃないし!」
「え?」
「私がいるじゃん!友達が!だからひとりじゃないよ」
少し怒った感じではあったが、ひとりじゃないよという言葉がとても温かかった。
「うん、ありがとう。そうだったわ」
「ほんっとばか」
前まではこういう時、未来は呆れていたが、微笑みながら温かく、ばかと言った。
「と、とにかく、今回確定で分かったことは、俺の他にもこの世界に来ることができる。向こうの世界に戻る方法がある。そして、誰かがそのことを知っている可能性がある」
「大収穫じゃん!」
その日の夜、気持ち的には落ち着いたが、頭の中で考えをまとめていた。トッキーの連絡先を消した人間について。
俺のスマホをいじれる人なんてそうそういない。それにトッキーの連絡先を消す意味もない。未来、のはずないし、じゃあ誰が?なんのために?
そもそもトッキーは偶然向こうに戻る方法を発見して戻ったのか、その何者かによって強制的に戻されたのか、、分からない。。
何か開けてはいけないものを開けようとしてるような気がする。




