第三十九章
トントントン。
ゴホンと咳払いをして、あたしこと高藤哲治は妹の由美の部屋の扉をノックした。そして緊張しながら扉の向こうの由美に声をかけた。
「こんにちは!
……お久しぶりです。
兄の哲治なんだけど……。
ええと、由美?
……今何してる?
うーんと……
ちょっと話せたりしないかな?」
少し間があって、扉の向こうからややハスキーがかった声で返事が聞こえてきた。
12年ぶりに聞く、大人になった妹の声だ。
「うん、大丈夫……久しぶりだね、お兄ちゃん」
由美の声が聞こえたので、あたしはほっとして廊下に座り込んだ。ドアに頭をもたれかける。
「ずっと連絡しないでごめん」
「ううん、いいの。来てくれて嬉しい」
「そう……」
何から話したらいいのか。
あたしは言葉に詰まりながら、糸口を探して話しだす。
「この家から出たあと、宮城に行ったのよ」
「宮城? なんで?」
「太一に誘われてね。あいつ、バイクであたしをはねてから、お坊さんになろうと決めたの。
そのとき、家に居場所がなくて苦しんでいるあたしに、『一緒に行かないか?』って声をかけてくれたのよ」
あの頃のあたしは、お父さんとお母さんに無視されるか邪魔者扱いされるだけだった。
思い出すと、今でも胸が切り裂かれるように痛くなる。
あたしは深呼吸をして話を続けた。
「仙台にアパートを借りたんだけど、太一は修行でずっとお寺にいたの。貯金も減る一方でさ……それに、太一がいない時間は本当に手持ち無沙汰で、何をしていいかわからなかったの。
それで前から興味があったIT関連の請負会社で、アルバイトとして働くようになったのね」
「おばあちゃんから、ゲームを作っているって聞いたよ」
とドアの向こうから由美の声がした。あたしは笑って答えた。
「ははっ! おばあちゃんには敵わないな。
そうよ、プログラミングができるようになったから、今は『デイジーゲームズ』っていうシリーズで、パソコン用のネットゲームを作って販売してるの。海外で人気になって、これでもちょっとは儲かってるんだぞ!」
「そっかあ。大好きなゲームを仕事にできたんだね。お兄ちゃんはすごいや……」
「ふふふ。ありがと。
そうそう、今日は太一だけじゃなくて、直樹と唐沢も来てるのよ!」
「えっ、4人揃うの、超久しぶりじゃない?」
「うーん、そうでもないのよ。ゲームの打ち合わせで東京に来るたび、二人とは飲みに行ってるからさ」
ガタッと扉の向こうで音がする。
「えっ! お兄ちゃん、ひょっとしてこの辺によく来てたの?」
「あー、家の前を、ちょっと歩いたこともあったかな……」
「ウソでしょお!? 帰ってこようと思わなかったの??」
頭をぽりぽりかいて、あたしは白状する。
「実は……こっそり帰ってきたことがあるんだ。2、3回ね……」
その瞬間、ドアの向こうで由美が扉にバンッと両手をついた音がした。
「なによそれ~! わたし、お兄ちゃんにずっと会いたいと思ってたのに!!」
今にも怒り出しそうな由美の声を聞いて慌ててあたしは弁解する。
「ああ、違う! 誰もいないは嘘だった。シュヴァルツⅡ世が大歓迎してくれたわよ。飛びついてきたと思ったら、興奮のあまり顔中べろべろなめまくってさ。そのせいでつけまつげが片方はがされて、困ったのなんのって!」
「んもー!」
吹き出しながら由美が叫ぶ。
「シュヴァルツだって、お兄ちゃんに会えて嬉しかったんだよ!」
妹の機嫌が直ったのに安心して、あたしは話し続けた。
「それでさ、この前直樹と唐沢に会ったときにね、すごい話が出たのよ! 聞きたい?」
あたしが尋ねると、ドアの向こうで由美がすぐに答えてきた。
「うん! 何があったの? 教えて!」
あたしはごほんと咳ばらいをして、話し始めた。
「えーと6月だったかな? 秋田に太一を残して、あたしは一人で東京に戻ってきたのよ。
それで直樹と唐沢に会ったの……」




