第三十六章
門の向こうに声をかけると、まず坊主頭の男が姿を現した。その後にスーツ姿の小柄な男が続き、最後にスポーツ刈りの大男が現れた。それぞれがこちらをじっと見つめてくるたび、高藤隆治の心臓はどんどん高鳴っていった。
「あの人たちは……?」
怪訝そうに母のいちに尋ねる隆治のもとに、一番背が高い、坊主頭にサングラス姿の浅黒い肌の男が近づいてきた。がっしりした上半身にカーキ色のフライトジャケットを羽織り、ダボっとしたカーゴパンツを履いていて迫力がある。
そんな男が隆治の目の前まで来ると、おもむろにサングラスを外して深々と頭を下げた。
「高藤さん、久しぶりです」
坊主頭の男が低い声で挨拶する。
「川上太一と申します」
その言葉で、隆治の頭の中で、あの事故の日がフラッシュバックのように蘇った。
「お、お前は哲治の……!!」
川上太一は隆治の息子である哲治の悪友で、中2の哲治をバイクではねて片足を切断する大事故を引き起こした張本人だった。
その後、哲治は家を飛び出して行方不明になったが、それもこの男が絡んでいるのではないか、と隆治はずっと疑っていたのである。
隆治は険しい顔で、思わず太一につかみかかった。
「おい! お前が今さら何の用だ!?
由美とは何の関係もないだろう! 帰れ!!」
太一の襟をつかんで離さない隆治の手を、後ろにいた他の二人の男が丁寧に引きはがす。その二人の顔を見て、隆治ははっとした。
「まさか、お前たちも……」
流行りのピンストライプのダブルスーツにペイズリー柄のネクタイをした、今時の若者らしい無造作ヘアで決めたやや小柄な男が、隆治にビジネスマンらしいお辞儀をした。
「長らくご無沙汰しております。太一の弟の直樹です。突然の訪問、恐れ入ります」
隆治は驚きのあまり、口をパクパクさせた。
「な、なんなんだ! しかも、お前を最近見かけたことがあるぞ。たしか駅前の不動産屋で働いているだろう!?」
にこっと微笑んだ直樹はジャケットの内ポケットから銀色の名刺ケースを取り出し、自分の名刺をケースの上に乗せて両手で差し出し、再びお辞儀をした。
「覚えていただけていたとは光栄です! 私、丸亀不動産で営業をしております。土地の売買などのご相談がございましたら、弊社にぜひ! 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます」
名刺を裏表とひっくり返して見ながら隆治がぶつぶつと言った。
「あんた、毎朝店の前を掃除しているだろう? 会社が始まる前の時間から熱心な若者がいると思って感心していたんだ」
ぱあっと直樹の顔が明るくなる。
「ありがとうございます! お客様のために何をすればいいか考えて、来店くださる皆さんに気分よくなっていただけたらと思いまして」
「ふん、立派な心掛けだな」
言いながら隆治は胸ポケットに名刺をしまった。
「だが、それとこれとは話が別だ。お前たちを由美に会わせる理由なんてないぞ」
そこへラガーマンかと思わせるがっちりとした体格に、半そでとチノパンという、冬に似つかわしくない軽装をしたスポーツ刈りの男が間に割って入った。
ゴホンと大きな咳ばらいをし、隆治に二カッといい笑顔を向け、大きくて太い声で元気に話し始めた。
「哲治のお父さん、お久しぶりでございます! 哲治の友人の唐沢隆です。高校生だったとき以来ですねえ。由美ちゃん、お元気ですかあ?」
マイペースに話し続ける唐沢を見て、隆治がまたイライラし始めた。
「うるさい! 由美が今どうなってようと、お前には関係ないだろっ!」
うろたえた隆治はいちを見た。
「おふくろ、僕には何が何だかさっぱりだ。彼らは由美になんの用があってやってきたんだ?」
いちは微笑んだまま、隆治の肩にそっと手を置いた。その目には、どこか遠くを見るような、深い思索の影が浮かんでいる。
ふいに、いちは後ろを振り返り、門の外に立っている背の高い女性にも声をかけた。
「ほら、あなたもいらっしゃいなあ。隆治が理解できなくて困っているわよお」
コツコツコツ……。
クラブの派手なネオンサインが縦に入った真っ黒な杖をつき、真っ赤なワンピースを身にまとった、外人モデルのように背の高い女が玄関にやって来る。
ワンピースの裾が風に揺れ、その下から覗く脚は恐ろしく長い。杖をつくたびに響くコツコツという音が、静まり返った空気を切り裂くようだった。
その黒髪の艶と冷ややかな表情に、隆治は不気味なほどの既視感を覚えた。
どこかで見たことがある――いや、記憶の奥底に眠っていた顔が、不意に引っ張り出されたような。目元や口元……そうだ、若いころの恵美に似ている。似ているどころではない、これはまるで――。
「あんたは……一体誰なんだ?」
隆治が困って尋ねると、しばらく間があった。女はちらちらと太一や直樹、唐沢の方に目をやって、下を向いた。口の端が歪んでいる。そして突然、大きな口を開けてゲラゲラと笑い始めた。
「あらー、忘れちゃったの? あたしはあなたのこと、よーく覚えているんだけどお」
ぽかんとしている隆治を見て、隣にいるいちまで肩を震わせて笑いだし、やれやれといった様子で隆治を諭した。
「ちょっと隆治、12年ぶりだとしても、まさか自分の息子の顔を忘れたりしてないわよねえ?」




