表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/54

第三十章

 ガチャガチャ。ガチャガチャ。

 夫の隆治にお金を渡して、意気揚々と戻ってきた高藤恵美は、ドアノブを何度かひねって首をかしげた。


 「開かないわねえ……」


 娘の由美の部屋に鍵はついていない。普通はノブを回して押せば開くドアだ。それに、玄関には由美の靴がある。部屋にいるはずなのに。


 ―ドアが故障したのかしら?―


 恵美はコンコンとノックしながら声をかけた。


 「由美、ただいま。今帰ったわよ。お父さんのことを話したいから、ドアを開けてちょうだい。立て付けが悪くなったみたいで、こっちから開かないの」


 コンコン! コンコン!


 何度叩いても返事はない。


 「他の部屋にいるのかしら?」


 そう思い、リビング、キッチン、寝室、客間、風呂場、トイレ、庭、ガレージを探し回る。しかし、じゃれついてくる飼い犬のシュヴァルツ2世以外、誰もいない。


 「おかしいわねえ……」


 ふと見ると、シュヴァルツ2世の餌袋が開けっぱなしになっている。


 「由美ったら……やっぱりいるんじゃない」


 恵美は袋をきちんと締め直し、再び2階へ上がって由美の部屋のドアを試みた。しかしやはり開かない。


 「由美! 中にいるんでしょ? 話があるからここを開けてちょうだい!」


 ドアをせわしなく叩き、大声を出しても、部屋の中から物音ひとつしない。


 「寝てるのかしら?」


 深夜までコンビニでバイトをしている娘のことだ。疲れて寝ているのだろうと考え、恵美はキッチンで夕飯の支度をすることにした。


 1時間後。


 夕飯をテーブルに並べ終えたが、娘は降りてこない。


 「そろそろ目を覚ましたかしら?」


 コンコン!


 「由美、ご飯ができたわよ。下に降りてらっしゃい!」


 静まり返る部屋に、人の気配はない。不安が募る。


 ドンドンドン!


 「由美? ねえ、大丈夫なの? 返事をして!!」


 ドアノブをひねり、力いっぱい押してもびくともしない。


 ―まさか、死んでたりしないわよね!?―


 焦った恵美は体当たりを試みた。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 しかし扉はびくりともしない。パニックに陥りかけた恵美は叫んだ。


 「由美! ねえ、大丈夫? 動けないの? 今警察を呼ぶから、待ってて!」


 階段を駆け下りようとしたそのとき、ようやく声が聞こえた。


 「警察になんて連絡しないで! 私は大丈夫だから!」


 「由美!!」


 恵美はほっとしてドアにすがりついた。


 「ああよかった。死んでしまったのかと思ったわ! もうご飯の時間よ。ドアを開けなさい」


 「嫌!」


 予想外の返答に、恵美はうろたえた。


 「嫌って何? おなか空かないの?」


 再び訪れる沈黙。さっきとは違う不安が恵美を襲った。


 「由美、ここを開けて! 一体何があったの? 私に教えてちょうだい!」


 しかし由美はもう返事をしなかった。


 訳がわからず混乱した恵美は、隣の部屋へ向かった。ここは14年前に家出した息子、哲治の部屋だ。最近では荷物置き場と化していたが、由美の部屋とベランダで繋がっているため、窓から様子をうかがえるはずだった。


 「え? 何これ……」


 由美の部屋の窓を見た恵美は硬直した。


 掃き出し窓の内側が、上から下まで木材でびっしりと埋め尽くされていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ