第二十四章
「おろしてもらうことになったのよ」
コンビニから深夜に帰宅したわたしこと高藤由美に、お母さんの恵美が顔を輝かせて報告してきた。
「おろす? お金を?」
言っていることがよくわからなくて、わたしが首をかしげると、お母さんは少女のように首をぶんぶんと横に振ると、勢いよく私の両手を取った。
「そうじゃないの! あの女とお父さんが別れることになってね、中絶することになったのよお!!」
びっくりしているわたしの肩をゆさゆさ揺すってお母さんが続ける。
「退院するまでは責任を持って向こうにいるんだけど、終わったらうちに帰ってくるわ!
ああ、耐えた甲斐があったわねえ!」
お父さんの隆治が家に戻って、借金の整理をきちんと進めてくれたら、わたしも春から安心して就職できる。
ほっとして、「よかったね」と言おうとしたところで、お母さんが突如わたしに命令をしてきた。
「それでね、手切れ金が100万円になったの。お前、貯金があるでしょ? お父さんに渡してあげて!」
「へ?」
予想外の言葉に驚きを通り越して呆然としたわたしに、お母さんが当然でしょ、といわんばかりの顔で説明を続けた。
「お父さんは借金の返済と中絶費用の負担で、手切れ金が出せないの!
さっきお前の部屋で通帳を見たら、もう100万円以上貯まってるじゃない。あと3か月したら就職できるんだし、なんてことないでしょ?」
「わたしの通帳を勝手に見たの!?」
思わず声を荒げたわたしに、お母さんがむっとする。
「なによ、親子なんだから当然でしょ? 生活費や借金の支払いを手伝ってくれていたけど、まだまだ余裕があったんだって、私びっくりしたの。さすが由美はしっかり者よ! 本当に助かるわ!!」
心臓が痛いほどドキドキと高鳴る。頭がくらくらしてきたが、必死にこらえてわたしは言った。
「それは、社会人になるにも色々準備が必要だからよ! お母さん知ってる? 就職しても最初の1か月は働いてないから給料が出ないの! スーツや鞄や靴も買わないといけないし、お昼ご飯や通勤の電車代だってある。それにサークルで卒業旅行に行くことになっているのに……」
言いながら泣きたくなってくる。でも、お母さんはそんなこと聞いちゃいなかった。
「細かいこと言わないで! 家族なんだから困ったときは助け合うのが当たり前でしょ?
それに全部使おうってわけじゃないわ。余ったお金でぎりぎりやっていけるわよ!」
そのとき、リビングのテーブルに置かれた包みが目に入った。この前通販で買ったコルセットが届いたらしい。わたしは怒りで震える指で、それを指した。
「じゃあ、お母さんも買い物をもっと我慢してよ!」
途端にお母さんの目がつり上がった。
「我慢してるわよ! 毎日毎日借金の返済をし続けて、食べるものも着るものもディスカウント商品ばっかり! この前だって、お前に言われてリンゴダイエットに切り替えたじゃない! 1か月に一度くらい、自分のためのものを買って、何が悪いっていうのよ!
お前だって自分のものを買ってるわよねえ! 私にばっかり負担を押し付けないで!」
「押し付けるって、そんなつもりは……」
お母さんのあまりの剣幕に言いよどんだわたしに、お母さんがさらに畳みかけた。
「大体、ここでお前がお金を出さなかったら、お父さんは家に帰ってこられなくなるのよ! お前はそんなに冷たい人間なわけ!?」




