幸福と花言葉
「お嬢様、公爵家の馬車がお見えになりますお支度を。」
珍しいことだった。
突然屋敷に来る事それは、ギルベルト、私の幼馴染であり優秀な公爵家の次期当主である彼、ギルベルト・アリクセリオスにとっては、いくら幼馴染であり身分が下の伯爵令嬢の私、ソフィア・ハーフェリアを訪ねる時でさえ、律儀に手紙をよこしていた。それは彼の生真面目な性格と、次期当主であるうえでのぬかりのない優秀さがそうさせていたのだ。
なのに手紙もよこさずに来訪だなんてなにかあったのかしら・・・などと思いながらもやっぱり自然と心は弾むし、ドレスも明るめのサテンで袖口をレースで飾るものに変えたし腹心の侍女に髪を結ってもらい結局彼の来訪に手放しで喜んでいた。・・言ってしまえば私は彼に恋をしている。
幼い頃年が5つ離れたギルベルトを私はお兄様と呼び慕っていたがその気持ちはやがて恋に変った。
それ以来思い続けていることになる。
「やあ、ソフィ突然の来訪ですまなかった」
応接室のギルベルトは少し堅苦しそうに笑った。この応接室が堅苦しいのか私のドレスが少し派手だったのかはわからない。今日も珍しい銀糸の髪が美しい。
「ごきげんよう、ギル。いいえかまわないわ」
しばらく沈黙が続く・・いつもとは違う雰囲気
少し緊張した様子の彼が口を開いた。
「ソフィは婚約者はいるのか?」
「いいえ、いないですわ」
ティーカップを置き、落ち着き払ったて答えたが・・・私は酷く動揺していた。ギ、ギルベ
ルトがそんな事を聞いて来るなんて・・・ まさか、婚約のお申し込み!?
いやまあないないと思いながらも大方、次のパーティの同席のお誘いだと考えていた。
「そうなのか・・それは何か理由があるのか?年頃だし求婚者も勿論いることだろうに」
「わ、私には私のタイミングがあるんですの」
「好きな奴いるとか?」
「え!?」
危うく吹き出しそうになった紅茶を淑女の渾身の技で微笑みながら飲み込むと、まさか「貴方です」なんて言えるはずもなく、沈黙する。するとティーカップをゆっくり置いたギルが
「俺はね、いるよ」
と、言った。
私はまずさっき飲み込んだ言葉を本当に言わなくてよかったと思った。
「どんな方ですの?」
落ち着いて、慎重に聞いた。
「・・かわいらしくて可憐な方だ」
ギルベルトはしばし困惑し照れている表情をする。それを見て私は確信した。ああ、とうとう来てしまった、と
やっぱりカティア様との噂は本当だったのね。
カティア・ノーブルは正式名をカティア・ミッド・ノーブル公爵令嬢といい、社交界の華であり可憐なレディノーブル
として全ての男性の憧れであり全ての淑女の羨望の対象であった。国母として皇太子から見初められる噂さえあるほど教養ある女性でその容姿は神話の女神や白百合などあらゆる美しいものに例えられる。
身分は公爵。美しの氷と評されるギルバートとは申し分なく並び立つ姿がまるで絵のようだと想像に難くない。
そしてその絵のような二人が文通をして美しい恋の糸を通わせている。と今、令嬢達のなかでは噂になっていた。文通は家族、信頼のおける友人、ガバネス、将来を誓う異性に贈るもの男女が文通となるとそれが意味するものは決まっている。
知っていたけれど、信じようとしなかった。ギルベルトが隣を開けているのは、いつか私を置いてくれるため。なんて淡い期待をどこかでしていたことは否めない。
なんだ、そうですよね、なにを期待してたんだろう、私すごく恥ずかしい。
いつも親しげに笑ってくれるのは、私がトクベツとかなわけなくて、「幼馴染み」てだけなんて、理解していたはずなのに、現実を突きつけられるととても苦しい。
穴があったら入ってもぐらになってしまいたい。
「カティア様と文通を?」
その瞬間ギルベルトは普段は見せないような動揺を見せ、紅茶を吹き出し・・いや、流石次期公爵堪えて飲み込んだ。・・かっこいい
「なぜそれを・・いやそれよりソフィに頼みがある」
「え?」
「俺と文通してほしい。」
「文通?」
なにを言ってるんだこの方は私を妾にするつもりなのですか、少し考えますけれど。
「ソフィは年頃の少女だし、詩や小説も嗜むだろう、俺はそうゆうのに少しばかりうとくてな。そういう手紙などにも詳しいと思って、よければ手紙をみてくれないか?」
ソウデスヨネ。
ギルベトの声はいつものように優しかった。
「そうゆうことでしたら、他のもっと優秀な方などもいるでしょう?私でなくとも。」
震えそうな声は精一杯堪えた。
その頼みはあまりに残酷で
「ソフィにしか頼めないんだ。」
それでも私は貴方に弱かった
「いいですわ。ギルベルト様の恋路ですもの勿論幸せになって欲しいですわお力添えいたします」
なんて、つい、引き受けてしまった。
すぐに後悔するが、「ギルベルトの安心したようで嬉しそうな顔を見ると今更断ることなど出来なかった。
ギルベルトの馬車がカラカラと音を立て屋敷から出る。今日は騎士団でもあられる公爵様が王都から戻られるらしい。私は去る馬車を目で追いかけ、一人で考える。
これは素晴らしいことだ。ギルが幸せな婚姻を結ぼうとしているのだから、間違っても彼を責めてはいけない。
あんなもの、ただの幼子のちっぽけな口約束なのだから。「おおきくなったらきっときしさまになっておよめにしてあげます」なんて、いつまでも覚えていてなんて諦めが悪い女なのかしら。
公爵家がなんのメリットもない伯爵家を選ぶことはない。
なにかトクベツな繋がりやメリットもないのにわざわざ伯爵家を選ぶ必要はないのだ。そんなことは年頃になりデヴュタントを済ませる頃には理解していた。なのにいつまでも期待して、隣にいて、彼にはいい迷惑だろう。所詮彼にとって私は妹のような幼馴染みにすぎないのだ。
これはきっといい機会なのだ。彼を諦め、自分のこの手で彼と彼女を結ぶ。
封をし続け消化されることはなく、永遠に行き場を失った恋心を捨てるために。
レディ・カティアを好きになる。そんなところも彼らしいと思った。
ずっと見てきた。ずっとそばにいた。いや、いさせて貰った。満足しなければ
ただ、少しだけ、貴方の読んでくれたあの物語みたいに・・『王子と身分の違う女の子がしあわせに結ばれる』なんて。
そしてしばらくして彼から手紙が届いたそれは季節の薬草であるアイビーがそえられていた。
花言葉はたしか・・・




