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6

 御手洗陽菜は、声をだした僕の方を見たが、平然とした顔でカウンターに座った。彼女は図書委員の当番のようだ。僕が入ってくるまでに読んでいたであろう、カウンターに置いてある本を読み始めた。僕も気にならないフリをして、先ほどまでと同様に外の景色を眺めていた。

 さすがに昨日のこともあって、気にならないはずもなく、僕は窓を見ながらたまに、彼女のほうをチラッと見た。すると、三回に一回は、彼女と目が合った。お互い言葉を発しないまま、時間だけが過ぎてゆく。

 あと五分で昼休みが終わる。そろそろ教室に戻ろうと、僕は席を立った。カウンターで本を読んでいる御手洗の脇を通り過ぎようとしたとき、突然彼女の口が開いた。

「昨日はごめんなさい」

 彼女の視線は、本の活字の方へ向いていた。しかし、話しかけた対象は僕のようだ。

「右手、痛む?」

 今度は、僕の右手を見ながら言った。正直まだ手のひらがヒリヒリしているし、肘も少し動かすと痛い。でも一応僕は「別に。気にしなくてもいいよ」と答えた。すると彼女は、読んでいた本を閉じた。

「この本、よかったらだけど読んでみない?」

 そう言って彼女は僕に、本を差し出した。『カメムシは嫌われ者』というタイトルの本。さっきは、僕が座っていた席と彼女がいたカウンターが少し離れていたので、彼女が何の本を読んでいたのか知らなかった。

「どんな内容なの?」

「簡単にいえば、いじめられっこの主人公の話よ」

 彼女が何でこの本を読んでいたのか、あとなぜ僕に勧めたのかは知らないが、別に拒否する理由もないので、僕は差し出されたその本を受け取った。

「この本、図書室の本?」

「わたしの本。だから返すのはいつでもいいわ。あと私、月曜と木曜がここの当番だから…」

「あ、そうなんだ…」

 今日は木曜日。昼休み終了のチャイムが鳴った。話しかけられたついでに、昨日なぜ僕を巻き込んだのかを聞こうとしたが、彼女がせわしなさそうに図書室を去っていったので、聞けなかった。



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