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4前-05 拷問?

ロウソクの灯だけが頼りの暗い牢獄。

辺りには腐臭や汚臭が立ち込め、決して衛生的とはいえない環境だ。

神聖な教会の地下にこんな場所があると、誰が想像できよう。


さて、ワルツパーティーでは、魔女狩りを終わらせるためにどうすればいいかを考える対策会議が開かれていた。

どこで?

誰もない牢獄の中で、だ。

ワルツ達は牢屋から脱走した後に、再び牢屋の中に戻ったのだ。


「そうだな。とりあえず、皆殺しでいいんじゃないか?」


と、頭に青筋を立てながら提案しているのは狩人だ。

どうやら、狩人自身、魔女狩りの存在を知らなかったらしい。

確かに、温厚なアレクサンドロス夫妻なら、自領での魔女狩りなど認めなさそうだ。

それとも、狩人自身に知られないように行われていたのだろうか。


「ですが、皆が悪いわけではありません。それに、ごく一部ですが、捕まった女性の方にも危険な方はいます」


カタリナの発言を、彼女と相部屋だった女性たちが聞いていたら、真っ先に指されるに違いない。


「それは否定できん。だが、殆どの女性は無実のはずだ」


ふと、狩人は自分と同じ部屋の中にいた老婆を思い出す。

黒いローブと黒い帽子を被った老婆。

どう見ても魔女だ。

それも悪役の。


「・・・たぶん」


急に自信が無くなる狩人。


「まぁ、色々と考え方があるし、その考え方自体も時代ごとに遷移していくものだから、一概に何が正しくて何が悪いって言えないのよね・・・それに、エンターテイメントやガス抜きとしての側面もあったわけだし・・・」


「えんたーたいめんと?」


「要は、()()()ってことよ」


?、と疑問を浮かべるルシア。

どうやら、理解できなかったようだ。


「でも、魔女狩り自体を消すなんて思わないわ。それに、王様じゃあるまいし、この世界に干渉しようとも思わないから」


魔女狩りは倫理的に問題があり、その上、非生産的だ。

ワルツはそのことを十分に理解していたが、直接手を下して世界から魔女狩りを駆逐するということはしない。

何故なら、魔女狩りに関与している人々全員に報復措置をとると、相当数の人間を対象しなくてはならなくなるからだ。

ヘタをすると、国家や世界を滅ぼしかねない。


故に、ワルツが取れる行動は1つだった。

可能な限り関与しない。

つまり、この世界の人々が自ら、魔女狩りが無駄な行為ということに気づいて、立ち上がることに期待する、ということだ。

少なくとも、地球では出来たのだから。


「だけど・・・」


魔女狩りに不干渉を宣言したワルツが言葉を続ける。


「私達が安心して村に帰れるようにするためにも、やることはやっておかなきゃって思うの」


「ふむ。つまり、売られた喧嘩は買う、というわけか?」


「ま、そういうことね」


楽しく旅をしていたのに、邪魔された。

その報復は受けてもらう、ということだ。

MMORPGなどで出てくるパッシブなフィールドボスも、同じような気分なのだろうか。


「そうですか・・・では、幾つかプランが有りますが、拷問を受けても死なないという展開がおすすめかと」


とテンポが口を開く。


地球の魔女狩りにおける処刑は「魔女じゃなかったら神様が救ってくれる」という考えを元に行われたものが多い。

水の中に沈めても、魔女じゃなかったら神が救ってくれる。

火にくべられても、同上。

その他、同上。

逆に、死ななかった場合、呪われていると言って結局殺されるのだが。


つまり、テンポの言ったプランは、どうやっても死なないから神さまに愛されている、という展開を期待したものだ。

例え、死刑判決を受けて処刑されても、ワルツならこのプランを実現できるだろう。


「でも、ありきたりよね?」


(そんなことしたら、また神さま扱いされるじゃない)


と内心で憂鬱になるワルツ。


「・・・お姉さまは()()()()()でプランを選ぶのですか?」


「あたりまえじゃん?」


「・・・」


姉の発言に閉口するテンポ。

どうやら、姉は普通に事を終わらせるつもりはないらしい、と諦めたようだ。

既に、テンポの提案自体、普通では無いのだが。


「そうねぇ・・・」


少し悩んだ後、ワルツの中でプランAが決定したようだ。




しばらくして、看守交代の時間になった頃、辺りが騒がしくなる。

どうやら、ワルツ達が脱走したことに気づかれたらしい。


ワルツ達が入っている牢屋に見知らぬ看守が顔を出す。


「ん、ここは異常ないみたいだ」


何も気づかずに通過していく。

セキュリティとして大丈夫なのだろうか。


「えーと、牢から脱獄したのは私達ですよ?」


そう言って、牢屋の中から鍵を渡すワルツ。


「は?」


そして、しばらく意味が理解できず、固まる看守。

たっぷり30秒ほど経ってから、他の看守や衛兵を呼び、一大騒動となった。


その際、牢からの移動を指示されたが、指示の度にワルツのロックオン(プレッシャー)を浴びせかけ、看守や衛兵には、腹痛や吐き気、それに頭痛と倦怠感を伴う、まるでインフルエンザに掛かったような()()()()の嵐を体験してもらうことになった。


結局、夜が明ける頃にはワルツ達の移動を諦めた衛兵達だったが、その代わり裁判のスケジュールの最初にワルツ達の番が回された。


ここまで、ワルツの計画通り。

つまり、ワルツが最初に裁判を無茶苦茶にしてしまえば、これより後の裁判は不可能になる、というわけだ。

魔女狩りに不干渉とは言いながらも、見える範囲での蛮行を無視できないワルツだった。




そして、その時はやってきた。


ところで、最後の晩餐(朝食)は・・・無かった。

と言うより、ワルツのプレッシャーに恐れおののいた看守が、食事を持ってこなかったのだ。

しかたがないので、アイテムボックスの中に仕舞っておいた魔物肉を調理したり、山菜サラダを作って食べたのだった。

もちろん、牢屋の中で。

だが、牢屋の中で調理をするワルツ達に注意や警告をする看守や衛兵は居なかった。


話を元に戻す。

どうやら、この裁判では、ワルツ達一行全員を一度に裁くらしい。

一人ひとりやっていたのでは、看守と衛兵が保たないからなのか。

それとも、異端審問官が耐えられないからなのか。


ともかく、この流れは、少なくともワルツにとっては好都合なものだった。

何故なら、ワルツの見ていないところで、仲間に危害が加わることが無いのだから。


「被告人入廷」


被告人、即ちワルツたちのことだ。

呼ばれたので、階段を登っていくと、椅子が並んだ広い空間に出た。

大聖堂だろうか。


石造りの壁。

大きな石を削りだしたかのような太い柱。

大きな窓にはステンドガラスがはめ込まれており、剣を持った女神(?)が輝いていた。


ワルツ達が教会の内部に入ってきた時、辺りは騒然としていた。

一部には、元勇者の仲間だったカタリナのことを知っている者も居るようだが、騒いでいる全員が知っているというわけではないようだ。

どうやら原因は、被告人達が一度に入ってきたこと、だろうか。


(それとも、私の美貌に・・・無いか)


一人、消沈するワルツ。

傍から見ると、これまでの行動を悔いているかのようにも見えた。

仲間たちは、そんなワルツを見て「役者ですね」などと思っていたのだが、果たして・・・。


「静粛に!」


裁判官が傍聴席の民衆に促す。


「では開廷する。被告人は名前を」


そう告げたのは、昨日、騎士と共にワルツ達を捕まえに来ていた僧侶(?)の男性だ。

今日は昨日の格好とは違い、真っ黒な服を着ていた。

やはり、異端審問官らしい。


「ワルツ」


「ルシアです」


順に名前を言っていくメンバー。

途中、狩人が、


「リーゼ=ア・・・いや、リーゼだ」


と言い直していたが、大きな問題にはならなかった。

もし、ここでフルネームを喋るとそれはそれで大問題になるだろう。


そして、カタリナの時にも、傍聴者達からざわめきが上がった。

どうやら、勇者の仲間だと知っている者が居たらしい。

既に、元仲間なわけだが。


「では、罪状を言い渡す」


と裁判長(?)が告げる。


「被告人は、勇者の行動を妨害した挙句、その調査団に魔物を消しかけ殺害しようとした疑いがある。更には・・・」


と延々、罪状を語っていくが、鉄インゴットやオリハルコンの精錬に関する情報は無いらしい。

つまりは、アルクの村にある工房に関しては、まだ情報が回っていないということだ。


「・・・被告人、以上のことに相違はないか?」


「はい、全て・・・身に覚えはありません」


相違ありません、と答えるところだったワルツ。

むしろ、身に覚えのある事しか言われなかったのだが、ここで罪状を認めると問答無用で死刑が確定するので、否定する。


「ならば、無罪を証明せよ」





そして、ワルツ達は教会の裏にある火刑場に送られた。


火刑、即ち、火あぶりの刑だ。

5つの丸太が立ち並び、その周りには大量の薪が並んでいる。


「被告人を前へ」


すると、衛兵が嫌々ながらもワルツ達を後ろから丸太の方へと誘導し始めた。

どうやらこの衛兵たちは、ワルツのプレッシャーを喰らった者達らしい。


(じゃぁ始めるわよ?)


仲間たちに視線で合図を送った。


といっても、皆で大それたことをするわけではない。

非常にシンプルなことだ。

もちろん、ワルツにとっては、だが。


ボン!


そんな音が周りから響いた。

何の音か?

ワルツ達を貼り付けにしようとしていた丸太と薪に火が着いた音だ。


これは、重力操作によって生じた、断熱圧縮によるものだ。

空気を急激に圧縮すると、圧縮された空気の気温が上昇する。


これを丸太の周りの空気でやったので、勝手に火が着いた、というわけだ。

その上、空気に含まれる酸素も圧縮されているので、燃焼の速度も早い。

あとは、空気を送り込むような仕組みを作って、常時新鮮な空気を供給してやれば、簡易ジェットエンジンの完成だ。


そして一瞬で燃料(丸太と薪)を使い果たし、灰だけが残ったのだった。


辺りからはざわめきすら起こらない。

というより、何が起こったのか理解できず、唖然としているようだ。


「ええと、これで何をすればいいのかしら、審問官殿?」


笑みを浮かべたワルツの声が、静かな場に響き渡る。

ついでに、ロックオン1つ分のプレッシャーをその場に居た全員に掛けておく。


「くっ、つ、次だ!」


恐慌状態に落ちいった異端審問官は苦しそうに、そう言った。


これだけ大きな魔法(科学)を使っているのだから、チョーカーのチェックがあってもいいはずだが、周りの人間は何もしてこなかった。

実際、カタリナは昨日、チョーカを破壊している。

だが、誰も新しいチョーカを持ってこなかったため、着け直していない。


(ずさんね・・・)


余程、ワルツ達に近づくのが嫌なのだろう。




次は水刑だった。


ここは教会建物内部にある窓の無い部屋なのだが、この教会には、牢屋と拷問部屋以外の設備は無いのだろうか。


部屋の中心に、2人くらいなら余裕で入れそうな大きな樽が3つ用意されていた。

どうやら、全員分の樽は用意できなかったらしい。

それとも、他の人間(魔女)に使う予定だったのだろうか。


「・・・被告人を前へ」


どうやら、恐慌状態から回復したらしい異端審問官が告げた。


すると、直ぐに行動に移るワルツ。


(これもっ!)


ドゴォォォォォ!!


ワルツ達が樽に入る前に、樽の底から水が勢い良く吹き出す。

ペットボトルロケットを樽で再現してみた、といったところだ


そのまま、離陸して、天井を破壊し、天高く登っていく3つの樽。

またには、「○○危機一髪」の逆があってもいいんじゃない?、というワルツの思いつきによるものだが、誰もそのネタを理解できなかったのは仕方のないことだろう。


今回もまた笑顔を浮かべて、流し目気味に催促する。


「どうします?」


翻訳すると、「次はまだ?」だ。

ワルツは質問を投げかけるついでに、今度はロックオン3つ分のプレッシャーをその場に居る全員に掛けた。


『〜〜〜』


バタバタと人が倒れる音がする。

どうやら、プレッシャーに耐え切れなくなって、嘔吐する者が出始めたらしい。


「はぁはぁ・・・つ、次、だ・・・」


異端審問官も限界が近そうだ。


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