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3-16 デート

町に来て3日目。


昨日は、狩人の両親誤解が酷かった。

結局、最後までワルツと狩人が結婚するという話から離れなかったことに、実はイジられてるのではないかと、ワルツは疑ったくらいだ。

狩人自身が満更(まんざら)でもなさそうだったのは・・・恐らく気のせいだろう。


それはさておき、今日は午前中に錬金術ギルドにオリハルコンを売却に行き、午後から装備のテスト(総合火力演習?)に行く予定だ。


というわけで、錬金術ギルド来たワルツ。

単にオリハルコンを売るだけなので、皆でゾロゾロと行く必要はない、ということで一人だけでやってきた。

コミュ障なのに、一人で買い物(売却)に来れるようになるとは、ワルツも成長したのだろうか。


ここで売却するのは、オリハルコン30kgだ。

前回と同じようにカウンターに向かう。


「いらっしゃいませ!」


前回同様、眩しい営業スマイルが特徴の受付嬢に対応される。


「ええと、ジーンさんはいらっしゃいますか?」


放っておくと、ポテトの載ったフードメニューを出されそうだったので、さっさと要件を告げた。


「ジーンですね。少しお待ちください」


そう言って、事務所の隣にある小部屋に入っていく受付嬢。

ジーン専用の居室だろうか。

すると、直ぐにジーンが出てくる。


「あぁ、ワルツさん。おはようございます。先日はどうも」


「おはようございます、ジーンさん。今日はこれを売りに来ました」


ドン!

ミシッ・・・


ワルツはオリハルコン塊30kgをカウンターの上に無造作に置いた。

いつものように小分け(5kg)したインゴットではない。

しかも、普通の人間にとっては相当重いだろうというのに掴む所がどこにもない。

その理由は、ワルツの()()()の結果だ。


(どや?)


「・・・計量させていただきます」


どうやら、ワルツの意図を掴んだらしい。

苦笑いを浮かべて、作業に移るジーンだったが・・・。


カウンターから下ろすまでに10分。

下ろした瞬間に、手を滑らせ、足の上に落下。

苦悶の表情を浮かべた辺りで、他のスタッフに助けを求め、ようやく計量器のところまで運べだようだ。


ワルツの「想定通り」といったところだ。


オリハルコン塊を計量器の上に放置したまま、戻ってくるジーン。


「確かに30kgありました。それで金額なのですが・・・」


まるで何事もなかったかのように振る舞う売買責任者ジーン。

商人根性もここまでくれば、上出来だろう。


だが、直ぐには金額を口にしなかった。


「ん?何か有りました?」


「いえ・・・金額ですが、こちらになります」


そう言って、紙に書いて差し出してくる。


(一十百千万十万百万千万一億・・・2億?って、これまでどんだけボッてたのよ・・・)


「・・・これは本当ですか?」


流石に聞き返した。

もちろん、驚いた顔は見せていない。

恐らく、相手は反撃の機会を待っているはずだ・・・というのは、ワルツの勝手な妄想かもしれない。

だが、驚きの表情を()()()、というのはワルツの専売特許なのだ。

故に、ワルツは驚きの表情を()()()わけには行かなかった。


「はい。ですが・・・誠に申し訳ないことに、当ギルドには今すぐ渡すことができる現金が無いので・・・」


普段から数億のお金を所持している組合など、銀行くらいしか無いだろう。

なので、物々交換で何か欲しい物がないかを考える。


(ええと、お金意外には・・・食べ物?トカゲのしっぽ、なんて貰っても意味ないし・・・何も欲しいものが思いつかない)


元の世界では、山奥に住んでいたため、買い物をする環境に無かった。

その上、欲しいものは何でもホログラムで再現出来るので、わざわざお金を出して買うことも無い。

そんなワルツにとって、欲しいものを考えるというのは、非常に難しいことなのだ。


ふと、計量器に載ったままのオリハルコンを見て、思いつく。


(そういえば、前に来た時、貴方が面白いものを使っていたわね)


ジーンが使っていた面白いもの。

それは・・・


「・・・ここって、アイテムボックスって扱ってます?」




こうしてワルツ達は、旅のお供、アイテムボックス(1億8000万ゴールド)を獲得した。

ダメ元で聞いたワルツはあまりの嬉しさに、本来、錬金術ギルドでは魔道具であるアイテムボックスは扱われていないことに気づかなかった。

そして、ジーンの指から指輪が無くなったことにも・・・。


残りの2000万ゴールドについては、後日受け取る事にした。




思わぬ買い物をしたワルツ。

あまりの嬉しさに、最初はスキップをしながら歩いていたのだが、このままだと機動装甲で周りの色々なものを壊してしまうような気がして、逆にテンションを下げて歩く。

テンションが上がり過ぎると、一巡してテンションが下がってくる、というやつだろうか。

テンションを下げて歩いている内に、あろうことか、アイテムボックスの存在をすっかり忘れてしまうワルツだった。


こうして、意味もなくテンションが低いまま、集合場所の噴水に到着した。

この噴水は、近くに屋台群があるということもあって、以前から昼食を取るためのスポットとして利用していた場所だ。

噴水の縁が座るのにちょうどいい高さ、そして大好きな稲荷寿司の屋台が近くにあるということもあって、ルシアのお気に入りの場所でもある。


ワルツが到着した時には、既に先客がいた。


「早いわねルシア」


「おねえちゃんも」


ルシアは魔法使い装備の状態で噴水の脇に腰掛け、足をぶらぶらさせていた。

見た目は、ボーイフレンドか誰かを待っている少女といった感じだ。

何か買い物をした様子や食べ物を持っていないところを見ると、ずっとこの場所で皆を待っていたのかもしれない。


ワルツも隣に腰掛けて、時間を潰すことにした。


「ルシアは午前中、何をしてたの?」


「ええとねー。・・・秘密!」


どうやら、ワルツには言えないことをしていたらしい。


(ええと、私に言えないっていう時点で、大方の予想はつくけど・・・。まったく、いけない娘ね)


苦笑いを浮かべて、頬を掻く。


それからしばらく、噴水を眺めたり、人々の流れを見ていたり、景色や町並みを眺めたり・・・と、していたのだが、段々と暇になってきた。

あまりに暇だったので、ワルツは自分の姿を変えてみることにする。


まず、テンポのようにやたらと大きな帽子を被って顔を隠す。

次に身体全体を隠すようなローブを纏い、腰を曲げる。

あとは、妙に曲がった太い杖を持って、魔法使いの老女の完成である。

もちろんホログラムで、だ。

そして、老女が出すような声で喋ってみる。


「これでどうじゃ?魔法使いっぽくなったかのう?」


「えっ・・・誰?」


「・・・ワシじゃよ?」


帽子を上げると、いつも通りのワルツの顔がそこにあった。


「どうじゃ?魔法の師匠っぽくないかえ?」


するとルシアは笑い始める。


「・・・似合わないよ、おねえちゃん」


(やっぱり、姿を変えられないと似合わないわよね・・・)


ちなみに、ガーディアン達はホログラムで自分の顔を変える事はできず、その上、声を変えることも出来ない。

出来ても、服装やアクセサリーを変えるか、あるいは、姿を消すくらいなものである。


それが何故なのかはガーディアンの誰も知らないが、もし姿を変えられたら、誰が誰だか分からなくなるというのは間違いないだろう。

そして、自分自身のこともいつかは忘れてしまうのかもしれない。

尤も、姿を変えられない以上、そのようなことにはならないのだが。


「似合わなくてもいいのじゃ」


そういって、今度は全身甲冑の騎士のような姿に変わる。

そして、中にいるはずのワルツ自身の姿を消す。


「どうだ?このリビングアーマーについてどう思う?」


といって、フェイスガードを外すと、中に誰もいないのが見えた。


「・・・普通に・・・怖いです」


お気に召さないらしい。

それじゃぁ、と、以前やったことのある狐耳タキシード(+尻尾)に変えてみる。


「どうしたら、笑ってくれるんだい?」


すると、ぽけーっとワルツを見上げるルシア。


「・・・前から聞きたかったんだけど、この姿に何かあるの?」


「い、いいえ、何もっ!」


そういって赤くなって俯くルシア。


(初心ねぇ・・・でもあまりイジると良心が痛むわ・・・)


というわけで、ワルツは再び別の姿に変わる。

今度は金髪ではなく白髪にして・・・。


頭には黒いリボン。

服装は、白を基調とした半袖のショートコートで、裾と腕の縁が黒くなっている。

黒いスパッツに革のブーツ、そして短めの黒いオペラグローブを着けており、隙間から覗く白い肌をより印象付けていた。


そして、ルシアの手を握って一言、


「じゃぁ、デートしよっか?」


と口にするのだった。




ルシアは急に握られた手に顔を上げた。


(だれ、この人・・・)


先ほどまで、ワルツの変身に翻弄されていたというのに、目の前に居る女性が誰なのか気づけなかった。

いや、頭の中では、目の前の人がワルツだと認識している。

だけれど、あまりに現実味がなくて、それをワルツであると認められない。

ルシアには、目の前の女性が、フワフワとした白昼夢のような存在に見えていた。


踊るようにして自分の手を取って人混みの中を進んでいく。

たまに振り返っては笑みを浮かべ、自分をリードしていくその様子は、正に『ワルツ』だった。

周りの人間は気づいていないのか、誰も見向きもしない。

まるで、自分たちが世界から切り離されたかのように。


彼女はこれを、デート、と言っていた。

確かに、仲間との集合までにはまだ時間がある。

だからこんな風に、日常の中で、非日常の世界を楽しむというのも悪くない。


故に、ルシアは彼女とともに『ワルツ』を踊ることにした。


だが、何故、デートに誘われたのか。

その本当の理由を、まだ幼いルシアは理解できなかった。




しばらくして、集合時間になる。

ワルツは『デート』を終えて、元の姿に戻った後、ルシアと共に元の場所に戻ってきた。

手をつないでいるルシアは、どうやら、放心しているようだ。


「ルシア?大丈夫?」


「・・・おねえちゃん・・・さっきのって、どうなってるの?」


「うん?ただ、ルシアの手を引っ張って歩いていただけよ?」


実際、ワルツにとっては手を繋いで歩いていただけなのだろう。


「そう・・・、でも、楽しかった」


「それは、何より」


そういって二人共も笑みを浮かべるのであった。




更に待っていると、他のメンバーもやってきた。

最初にやってきたのはテンポで、武具屋の店主に見繕ってもらった黒魔法使いの格好をしていた。


(あれだけ大きな帽子をかぶっているのに、他人にぶつからないとは・・・自分のコピーではないみたいね・・・)


と、ワルツは自分の失態を思い出す。

だが、器用に人混みを避けている・・・と言うよりは、テンポの気配に気圧された人々が勝手に避けていくようにも見えなくなかった。


次にやってきたのは狩人だった。

いつも通りの狩人装備だが、少し色合いが違うようだ。

伯爵からのプレゼントなのか、あるいは旅に向けて新調したのだろうか。

そして、どこか上機嫌なのは・・・元々の性格か。


最後にやってきたのはカタリナだったが、その格好に皆が驚く。

どう見ても、僧侶ではなく、白衣姿の女医だったからだ。


「・・・僧侶をやめたのね?」


「はい。以前ワルツさんから聞いた『医療の道を歩む者』としてやっていけたらと思いまして」


「でも、よりにもよって女医とは・・・」


(戦場で「メディーーック!!」って叫べないのは痛いわね・・・。いえ、まだ遅くはないかしら?)


カタリナの女医装備に何処か悲しいものを感じるワルツは、昔、姉に見せられた戦争映画を思い出すのだった。


ところで・・・


「白衣とか、よく武具屋に置いてあったわね?」


「なんか、錬金術士用らしいですよ」


(なるほど)


「あと、武具屋の店主さんの趣味らしいです」


「・・・」


(どんな趣味なのか、すごく聞きたくない・・・)


ワルツの中で、武具屋の店主に様々な疑惑が浮かび上がってきた。


(今度、武具屋に行くときは、ルシアを連れて行かないようにしよう)


何はともあれ、全員揃ったワルツパーティーは、屋台で昼食を摂ったあと、予定通りに装備品のテストに向かうことにした。




なお、狩人とカタリナとテンポがそれぞれ何をしていたのかは、特に大したことではないので割愛する。

強いて言うなら、(無駄に)テンションの低いワルツを見かけた()()()()のメンバーが、錬金術ギルドのジーンに()()()()押しかけたようだが果たして・・・。


この日から1週間、ジーンは有給休暇を取ったとか、取らなかったとか・・・。

なお、オリハルコン市場価格は5000Gold/g。

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