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3-15 プレゼント

さて、4人分のエンチャントされたバングルが完成した。

そう4人分である。

だが、ワルツの腕はホログラムなのなので、着けることが出来ない。

では、誰の分か?




ワルツは、表情の暗い狩人の手を静かに取った。


「狩人さん。これをあげます」


そういって、物理攻撃力増加をエンチャントしたバングルを渡すワルツ。


「・・・えっ」


どうやら、プレゼントされるとは思っていなかったようで、驚く狩人。


「どうして・・・」


(なぜかって?)


「狩人さんが今思っていること口にすれば、自ずと見えてくるのではないでしょうか?」


「・・・・・・・」


すると、俯いて長く沈黙する狩人。

しばらくして、口を開く。


「・・・友達。そう、ワルツ達は私の初めての友達なんだ・・・」


そして、顔を上げ、ワルツの事を見つめて思いの丈をぶつけてきた。


「だから出会ってすぐに旅で離ればなれになるなんて悲しすぎる!だから、私も一緒に連れて行ってくれ!」


どこか、悲痛とも取れる狩人の言葉は、紛うこと無く狩人の素直な本心であった。


実のところ、ワルツは狩人を旅に連れて行くつもりは無かった。

それは、彼女のことが嫌いだったから蔑ろにしていた・・・というわけではない。


親であるベルツ伯爵からアルクの村で常駐騎士を任命されたということは、


(立場だけ与えて戦争に関係のない田舎に疎開させたのよね・・・)


ということである。

つまり、旅などで危険な目に遭うということは、彼女の親の考えと真っ向から対立することになるので、旅には連れていけなかったのだ。


しかし、ルシアとカタリナの意見は違っていた。

狩人の生い立ちをベルツ伯爵から聞いていた彼女らは、狩人に()()と呼べるものが居ないのではないかと事前に予想していた。

そして、もし自分たちが初めての友達なら、多少危険であっても、一緒に居たいと思うのではないかと訴えたのだ。


その上、狩人の性格である。

単に面白そうだから首を突っ込むというような性格ではなく、何事にも責任感をもって接するような人物だ。

もしも「共に旅をしたい」と言うなら、それは相当の覚悟を持って口にした言葉であるはず。

そんな覚悟が込められた言葉を無下にしていいものなのか、というわけだ。


ルシアとカタリナに説得されたワルツは折れるしか無かった。


そして、最後のひと押しはバングルだ。

これで、最低限だが狩人の身を守ることができるだろう、ということでワルツは狩人の同行を許可したのだった。


そもそも、パーティーメンバーにはルシアもカタリナも(テンポも)居るので、多少の大怪我でも問題は無いのだが。


そんなわけで、心の叫びをぶつけてきた狩人に微笑むルシアとカタリナ。

テンポも、眠そうな顔をしながら笑みを浮かべていた。


そして、ワルツも仲間を迎え入れようと口を開く・・・のだが、


「はい。そのためのバングルなんですからっ?!」


言葉を言い切る前に、狩人が抱きつき、


「うわぁぁぁ・・・」


と泣き始めた。

狩人にとって一人ぼっちは、ワルツが想像しているよりもずっと寂しかったらしい。

泣きついてきた狩人にどう対応したらいいのか分からないワルツは、とりあえず彼女の背中を擦るのだった。



泣き止んだ後の狩人は、随分スッキリとした表情をしていた。

腕には貰ったばかりのバングルをはめて、満面の笑みを浮かべている。

放っておいたらスキップでもするんじゃないだろうか。


さて、まだエンチャントの件は終わっていない。

実のところ、バングルはもうひとつある。


「最後のエンチャントね。ルシア、大丈夫?」


「うん、鉄を溶かすときよりも全然楽だよ?」


鉄の精錬の方が大変らしい。


「さて、店主さん。この後、テンポの武具を見繕ってもらうという約束ですよね?」


「あぁ、確かに約束した」


「では、追加で申し訳ないのですが、ルシアとカタリナの分も追加でお願いできませんか?以前、ルシアの装備を購入した時は、お金が足りなくて完全な装備を整えられなかったので・・・。もちろん、タダでとは言いません」


といって、最後のオリハルコンのバングルを提示する。


「これを差し上げます。もちろん、エンチャント込で」


「・・・本当か?嘘じゃないよな?マジか?!」


まるでエンジンの回転数を上げるように、テンションが上がっていく店主。


「ついでに、今後とも贔屓にしていただけると助かるのですが?」


「あぁ、もちろんだとも!」


こうして、武具屋との長い付き合いが始まった。

大体、一方的なものであるが。


なお、武具屋の店主がバングルにどんなエンチャントを付けたのかは、店主が持ってきたいくつかのエンチャントベースを指示通りに掛けただけなので、内容は店主しか知らない。


(多分、人には言えないようなエンチャントを付けたんでしょうね・・・)


と、ワルツは予想するのだが、果たして・・・。




この後、テンポの武具を見繕ってもらったのだが、その姿はどう見ても魔法使いだった。

黒いローブに黒いオペラグローブ、そして黒いブーツ。

さらに、帽子は真っ黒なとんがり帽子で、不自然なくらいに大きい。

どう見ても悪役の黒魔法使いだ。


防具のエンチャントは、バングルのものが上位互換なのであまり意味は無いが、強いて言うなら、物理防御特化だ。

主に、巨大な帽子が物理的に、だ。


ところで、杖を選ぶ時、テンポは頑なに杖の購入を拒否していた。


(杖の動作を確認するために、魔力を注入しなければならないのだけど、それが嫌なのかしら・・・。それとも、自分が魔法を使えないと分かるのが怖い・・・とか?それにしては、カタリナもテンポに同調して杖の購入に反対していたけど・・・)


ワルツの疑問は深まる一方だった。




次にルシアの装備だ。

武具屋の店主に任せたところ、マントと杖は変わらずに、革のブーツと白い手袋を新しく見繕ってくれた。

テンポのように帽子は被っていないが、代わりに水色の小さなイヤリングをしている。

一見すると、白魔法使い、と言ったところだ。


ルシアとテンポのセットで、ちょうどいいバランスを取っているのではないだろうか。

見た目だけ、だが。




最後にカタリナの装備だ。


「カタリナ。この際だから防具を交換できるけど、どうする?」


言い換えるなら、まだ僧侶を続けるつもり?、という意味だ。

彼女がこのまま僧侶の姿で旅をするとなると、たどり着いた町や村によっては、肩身の狭い思いをする可能性もある。


「・・・そうですね。僧侶、とは言っても、どこかの教会に所属しているわけではないので、この際、変えてしまったほうがいいですかね。もう勇者パーティーでは無いのですから。それに・・・もう僧侶とは名乗れそうには無いので・・・」


最後の一言は、テンポを創りだしてしまったことに対する罪悪からの発言だろうか。


「店主さん、自分で防具を選んでもいいですか?」


カタリナは自分で防具を選びたいらしい。

確かに、このまま放っておくと、武具屋の店主に魔法使い装備にされてしまいそうだ。


「あぁいいぜ。でも、あんまり高いものは・・・いや何でもない」


といって、バングルを大事そうに撫でる武具屋の店主。


(なんか、昔、指輪を大事そうに撫でるクリーチャーが出てくる映画があったような気がするのだけど、それにどこか被るものがあるのよね・・・)


「そうですね、じゃぁ上はこれと、下はこれかしら・・・」


そういって、既に目をつけていたのか、手際よく品定めをしていく。


「これで全部です!」


大した時間も掛けずに決まった。


「うーん、まぁ、いいだろう。持っていけ」


何を選んだのかは分からないが、武具屋の店主の反応を見る限り、どうやら高い買い物だったらしい。




この後、テンポの普段着を購入するために、地獄の5時間が待っていたが、割愛しよう。

さっさと決めたいテンポと、慎重に決めたいルシアとの間で、見えない駆け引きが繰り広げられていた、とだけ明記しておく。


というわけで、狩人を除いた全員の装備と服の調達が完了した。

狩人の場合は、下手に武具屋で購入するよりも、伯爵家で用意したほうがいいだろう。

そのことを話すと寂しそうな顔をしていたが、仕方ない、と言って納得していた。




一日を精錬の講義とエンチャントと服の購入で費やしたワルツ達は、再び、領主の館に戻ってきた。


(まさか、友人の家だからと言って領主の館に泊まる日が来るとは・・・世の中、儘ならないものね・・・)


と、昨日までの自分を思い出すワルツだった。


ところで、今日の夕食はワルツにとって気楽なものであった。

昨日の件で、食事の作法が普通でいいということが分かったので、普通に食べることにしたのだ。

逆に、周りの人間は、何故、普通に食べるようになったのか、疑問を持ったようだが。


なお、昨日の今日なので、フォークとナイフが無かったらどうしよう、と人知れず悩んでいたのはワルツだけの秘密だ。




そして、伯爵夫妻との談話2日目である。

今日は、狩人が旅に同行することについて許可を貰わなくてはならないのだが、果たしてうまくいくのだろうか。


「父様、母様。私はワルツさんのところへ行こうと思います」


(・・・結婚の報告?)


すると、じーんとして伯爵が目頭を抑える。


「いえ、その反応はおかしいと思います」


(どうやら、婦人はまともみたいね)


「女性同士での結婚など、認められません!」


(そうじゃない・・・)


「いえ、私は結婚するわけではなく、ワルツさん達と旅に出かけたい、ということを伝えたかったのですが・・・」


言葉足らずもいいところである。

それを聞いて今度は納得する婦人。


「そう、ですか。もうそんな歳になったのですね・・・」


ワルツはその言葉に何か不安を感じていたが、どうやら結婚の話からは遠ざかったようだ。


「・・・分かった。だが、くれぐれも身体には気をつけるんだぞ?ちゃんとご飯は食べること。それと半年・・・いや1年に1回でもいいから連絡を寄越すように」


(・・・色々突っ込みどころはあるけど、親の心境ってこんな感じなのかもね・・・)


そして、


「ワルツさん、どうか娘をよろしくお願いします」


といって頭を下げてきた。


「・・・はい、不束者ですが・・・・・・いや、責任をもって守りますので、ご心配なく」


危うく、変な方向に流されるところだったワルツ。




こうして狩人は両親の許可を得て、ワルツパーティーの正式な一員に加わったのであった。

どうみても、嫁ぎに行く花嫁、という構図なのだが致し方あるまい。


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