表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/3387

3-14 腕輪

精錬のレクチャーが終わった後、用意していた材料を大体使い果たした。

だが、一つだけ黒い鉄鉱石が残っている。

これは、合金についての知識を提供する代わりに、いくつか交渉を行おうと考えたワルツが用意したものだ。


「錆びない鉄に興味ある?」


「えっ?」


「錆びない、だと?」


ワルツは残っていた黒い鉄鉱石を手に取った


「この鉄鉱石を使うんだけど・・・追加料金取っていい?」


「錆びない鉄、の対価ですか?」


「料金によるな」


「いや、別にお金を取るというわけじゃないのよ」


「では、何を望みでしょう?」


「まず、ジーンさんになんだけど・・・近々私達、旅にでたいと思っているの」


「!?」


「・・・旅ですか?」


ジーンだけでなく、初耳の狩人も驚いているようだ。

尤も、ジーンの場合は、精錬技術が他国へ漏れることへの危機感からであったが。


「まぁ、旅と言っても、いつでも村には帰ってこれるレベルの旅なんだけど」


もちろん、ワルツあってのことだが。


「・・・そうですか」


ジーンは一応、安心したようだ。


「それでジーンさんには、しばらくインゴットの買い取りを待って欲しいの」


「えっ・・・そんなことでいいんですか?」


「えぇ、それと、もう一つ」


と、機動装甲のカーゴコンテナからオリハルコン塊の()()、そして未知の金属塊を取り出す。


「この二つを買い取って欲しいの」


虚空から金属塊が出てきたことに驚く一同だったが、いい加減慣れてきたのか、反応は薄かった。


「この金属は・・・オリハルコンですね。これまた随分な量を・・・」


「はあっ?!オリハルコン塊だとぉ?!嘘だろ?」


随分な反応をするのは武具点の店主だ。


「おまっ、これだけのオリハルコンがあったら、どれだけ遊んで暮らせると思ってるんだ?」


「ちょっ・・・!」


これまで相当な金額で買い取ってもらっていたのだが、ジーンの反応を見る限り、どうやらボッていたらしい。

ワルツはジーンを半目で睨む。


「・・・で、買い取っていただけるんですよね?ジーンさん?」


「・・・はい」


ワルツの態度に最早言い訳は通用しないと諦めるジーン。

一方で、


「それで、こちらの金属も買い取って欲しいのですけど?」


と以前、火山で採掘した未知の金属塊を見せる。


「・・・えーと、なんですかこれ?」


「えっ?」


どうやら、錬金術師であるジーンも知らないらしい。

武具屋の店主に声を掛ける。


「店主さん、これ、何だか分かります?」


「・・・んー、なんだろうな。ずいぶんと重い金属だが・・・」


どうやら、完全に未知の金属のようだ。

ワルツは前に立てた予想を聞いてみた。


「ミスリルでは無いんですよね?」


「あぁ、ミスリルはずっと軽い金属だよ。こんなに重くはない」


どうやら、ワルツが予想したミスリルではないようだ。

では、一体何なのか。


「では、調べて頂けないでしょうか?」


「えぇ、構いませんよ。私も見たことがないので興味がありますし」


「俺にも少し分けてくれないか?」


というわけで、インゴットから2つほど、素手で千切って丸めてから渡すワルツ。

受け取ったジーンと武具屋の店主は「なんだ、柔らかい金属なのか」などと思ったようで、頑張って手で潰そうとしていた。

もちろん、普通の人間には無理である。


「じゃぁ、ジーンさんは、旅行の件とオリハルコンの買い取りの件、()()()()()お忘れなきようお願いします」


「は、はい」


ワルツの雰囲気に気圧されるジーン。


「それで、店主さんになんですが・・・」


武具屋の店主に視線を向ける。


「この子の武具を()()で見繕ってもらえますか?」


と、テンポを紹介する。


「出来れば、魔法使い系で」


「・・・おう、構わないぜ?」


ただ、実際に魔法を使えるかどうかは別問題だが。


「あと、皆で共通のアクセサリーを持ちたいのですが・・・新しくアクセサリーを作ってもらって、その上でエンチャントって掛けてもらえたりします?」


「あぁ、それは構わないが、エンチャントのためにはオリハルコンが必要になるから、高く付くぜ?」


「え?そうなんですか?」


ワルツがこの話を聞くのは初めてである。

故に、これまで、エンチャントについてあまり興味は無かったのだ。


「じゃぁ、ちょうどいいですね」


といって、総オリハルコン製バングルを機動装甲から取り出すワルツ。

このバングルは、以前、カタリナがお遊びで作った一品である。

作りが良かったから材料に還元するというのも勿体無い気がして・・・、とずっと持ち歩いていたのだ。


「・・・マジか」


小刻みに震えだす店主。


(この世界の店主は、小刻みに震える属性か何かを持っているみたいね)


「えぇ、マジです」


「・・・これだけの量のオリハルコン何だぞ?正気で言ってるのか?というか、幾らするんだこれ・・・」


「ええと、何か拙いんですか?」


「・・・多分、10回や20回じゃ足りない程のエンチャントが掛けられるぜ?」


「ほう?それはいいですね」


「だが、エンチャントの回数に応じて術者の魔力も要求されるから、俺じゃいいとこ3回が限度だがな・・・」


「ふーん」


(ということは、ルシアに任せられたら最強ってこと?)


「じゃぁ、ルシアにエンチャントの方法を教えるというのは?」


「えっ?」


突然振られて驚くルシア。


「あぁ、構わないが・・・」


店主は、以前ルシアが杖を破裂させていた事を思い出し、ニヤリと笑みを浮かべる。


「なるほどそうか。面白そうだ。・・・だが、お嬢ちゃんの方はいいのかい?」


ルシアが自分のことを怖がっていかとことも思い出したようだ。


「・・・うん、頑張ります」


「まぁ、うちの作業場を使ったらすぐに終わると思うから、その間、ワルツの嬢ちゃんも見ていけばいいさ」


「はい。じゃぁ、喜んで」


というわけで、錬金術ギルドからは大金を、武具店からはエンチャントの技術供与を受けられることになった。


なお、錆びない(鉄とクロムの合金)については、分離してから一定量を混ぜる、という単純なものだったので説明は直ぐに終わった。


(まぁ、この世界の技術ではクロムと不純物を完全に分離できないから完璧なものは難しいけど、問題はないわよね。・・・たぶん)


アフターケアは面倒なのでしない!、というスタンスのワルツだった。




ジーン達と別れた一行は、武具店にテンポの装備を見繕いにやってきた。

狩人もいる。

だが、狩人はどこか悩んでいる感じで、いつもの彼女らしさが無かった。


武具屋に入ると、一行はカウンターの奥にある作業場へ案内される。

壁の棚には、まだ店頭には並んでいない武器や防具が収納されており、店主が腰掛けた椅子の裏側にもいくつかの品が見て取れた。


「さて、お嬢ちゃんには、ここでエンチャントをしてもらう。そうだな、まず実際に見てもらうのがいいだろうな」


といって、後ろの棚から一本の剣を取り出す。


「そうだな、この剣にはオリハルコンがそれほど含まれていないから、2回分が限度だろう」


そういって、作業台の上に剣を載せ手をかざし、何かを唱える。


「・・・・・・・・・・・・」


ルシアとカタリナが耳をしきりに動かしているところを見ると何らかの魔力が発生しているようだ。


「と、こんな感じに魔力を注入するんだが、このままだと、ランダムでエンチャントが掛かるから、どんな効果のものが付くか分からない。だから、付けたいエンチャントが付いている道具から、の《・》をコピーするんだ」


武具屋の店主はそう言うと、左手を剣にかざしながら、机の横に大量に置いてあるサイコロのような黒い物体を右手で掴み、そのまま剣の上にかざした。


「この四角いのは、エンチャントベースといって、予め特定のエンチャントを掛けてあるただの鉄のサイコロだ。ただのサイコロなのに『切れ味』とか付いてるんだぜ?どうやって斬れって言うんだってな」


その矛盾に豪快に笑う店主。


(高速でぶつけて、切る、とか?)


どうやらワルツは、サイコロで魔物を切断する方法を模索しているようだ。


「あとは、このサイコロに少しだけ魔力を流すと・・・これで完成だ。あとは、ちゃんとエンチャントされているか鑑定する必要があるんだが・・・」


水のような液体が張ってある台(鑑定台?)に、完成した剣を置く。

そして、その台に手をかざし、先ほどのように詠唱を始める店主。

すると、液体に波紋が浮かび、コイン大の青い影が浮かんできた。


「この台を使うと、こんな風にエンチャントの種類を調べることができるんだ。例えば、今回は青だったが、これは『切れ味』の意味だ。これが『切れ味+』になると、青い色のまま、より大きな円になる。円の大きさの目安はこれだな」


といって、鑑定台の上に書かれたサイズ表のようなものを指した。

どうやら、「+」の数が増えれば増えるほど大きくなるらしい。


「その他にも、赤い色なら『耐久』、緑色なら『魔法防御』と言った感じでたくさんある。詳しくは、この本でも見てくれ。まぁ、何だか分からないエンチャントを掛けたり、エンチャントベースを間違えて使ったりしなければ、この台を使う必要は無いんだがな」


と言いながら、ルシアのマントを見て苦笑する店主。

昔のことを思い出しているようだ。


「さて、じゃぁ早速やってみるか?」


「はいっ!」


びしっ、と気合の入ったルシア。

どうやらやる気満々らしい。


「じゃぁ、ここにバングルを置いてくれ」


そう言われて、ルシアは手に持っていたオリハルコンバングルを台に置く。


「じゃぁ、ルシアの嬢ちゃんは、これに魔力を注いでくれ」


「・・・これでいいの?」


一瞬で注ぎ終えたルシア。


「・・・あ、あぁ、予想はしていたが凄まじいな。よし、これでいい。じゃぁ次はエンチャントベースだが・・・何を付けたい?」


「そうね・・・最初は、店主さんにお任せします」


「賢明だな。じゃぁ、まずはこれだ」


こうして、トンデモバングルが作られていくのだった・・・。




「・・・まだ大丈夫なのか?」


「え?まだ全然ですよ?」


ルシア的には、問題はないらしい。

しかし、武具屋の店主にとっては、精神的限界に近かった。


何故なら、エンチャントの数が80を超えたからだ。

エンチャントの内容は以下の通り。

魔法攻撃+10

物理防御+10

魔法防御+10

自己回復+10

火耐性+10

冷耐性+10

雷耐性+10

風耐性+10

エレメント無効

メシウマ


ちなみに、エンチャントが+10というのは++++++++++ということなのだが、どうやら、同じ種類のエンチャントは最大10回までしか重ね掛け出来ないらしい。

店主もこんな無茶苦茶なエンチャントは初めて見たと言っていたので、恐らく相当なのだろう。

ルシアの魔法に更に魔法攻撃+10とか、どんなチートだろう、とワルツは頭が痛くなるのだった。


ちなみにエレメント無効は、属性をもった魔法を無効するというものだ。

つまり、無属性の魔法と間接物理攻撃である土魔法以外では、傷つけることすら出来ない。

なお、メシウマについては、どうしてもルシアとカタリナが付けたいと言い張った結果だ。


「そろそろ、実用的なエンチャントが無いんだが・・・」


最初のうちは、次々とエンチャントが施されていくバングルに興奮気味の武具屋の店主だったが、エンチャントの数が20を超えた辺りで、引き気味になっていった。


「(何だこのバングル・・・これを付けたら、そこらの一般市民でも魔王と戦えるレベルじゃねぇか?)」


そもそも、ワルツにとってはバングルなど無くても魔王の存在など些細なことでしか無いので論外だが。


「ちなみに、『高速化』とか無いんですか?」


「いや、あるにはあるが、おそらく嬢ちゃん達じゃ耐え切れないんじゃないか?」


(筋肉を無理やり動かすって感じかしら?)


「・・・わかりました。じゃぁ、同じものをあと3つ作りたいのですけど、いいですか?」


「私は大丈夫だよ?」


「・・・」


すると武具屋の店主が沈黙する。

どうやら、バングルへ施したエンチャントの数よりも、ルシアの無尽蔵の魔力に驚愕しているらしい。

しばらくの後、


「・・・好きにしてくれ・・・」


武具屋の店主の目から光が失われていた。

どうやら、心が折れたらしい。




こうして、同じものを合計4つ作ることになった。

残りのバングルは持っていなかったので、カタリナに頼んで新しく作ってもらったのだが、その加工の際、武具屋の店主は再び言葉を失っていた。

そろそろ一生分の驚きを体験できたのではないだろうか。




ただ、4つのバングルの内、一つだけは、こっそりと物理攻撃+10を付加したのだった・・・。


土耐性は存在しません。

土砂を使った物理攻撃です。

人体に土魔法を掛けると、一体何が起こるんです?第三次世界たいせ・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ