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3-13 レクチャー

会食が終わった後、リビングのような場所に通された。

どうやら伯爵夫妻は、ワルツパーティーと軽く談話の時間を持ちたいようだ。


ようやく会食(自滅)のダメージから復活したワルツは、低いテーブルを挟んで一家と向かい合っていた。

両端にはルシアとカタリナ。

お誕生日席には、テンポといった形だ。


(そういえば、こうして伯爵夫妻とゆっくり話の場を持つ、というのは初めてね・・・やっぱり、色々質問が飛んで来るんでしょうね・・・)


と思うワルツだったが、その前に言うべきことがあることを思い出す。


「先日は、突然飛び出してしまい、申し訳ありませんでした」


相手が話し始める前に、頭を下げる。


「いや、気にしないでください。事の顛末は、娘から聞いております」


伯爵が口を開く。


「立場を考えますと、厄介事には巻き込まれるわけにはいかないというのは承知しております。私の領地に居る内は、そのようなご心配はなさらなくても大丈夫ですのでご安心を」


「ありがとうございます」


「ただ・・・私の力が及ぶ範囲で協力することは可能なのですが・・・」


どうやら、きな臭い感じである。


「近々、王国からの使者がこの町に来るようなのです。どうやら、領内で高品質な鉄やオリハルコンが取れるとの噂が立っているみたいで、その調査のようですね・・・」


ん?、と思うワルツ。


「どうやら、その噂によると、金属が取れるというのはアルクの村だとか・・・」


「・・・」


(後で、ジーンを問い詰めるべきね・・・。いえ、商隊の誰かが情報を漏らした可能性もあるわね・・・。まぁ、調べたところで言質以外の証拠は得られないはずだから、(ほとぼ)りが冷めるまでの間は旅に出て姿をくらましたらいっか)


ラルクの村にある工房は隠蔽が完璧なので、心配はいらないだろう。


(でも、伯爵の耳にまで精錬の話が入ってきてるなんてねぇ・・・)


一応、伯爵の領地ということもあるので、事後承諾だが一言断っておく。


「・・・すみません。それ、私達が原因です」


「・・・そうだと思いました。まぁ、鉱山指定していない場所での鉱石の採掘には、特に規制や税金はかかっていないので問題はありません。ただ、出来れば今度から一言相談してからやっていただけると、こちらとしても色々協力できるとは思うので・・・」


「えぇ、次からはそうさせていただきます」


「ですが、問題は王国からの使者ですね。彼らは王から勅命を受けて行動しているので、私がどうこうすることは出来ません。十分に注意をなさって下さい」


どうやら、相当に面倒そうだ。

この問題を解決する方法の一つとして、精錬技術の供与をしてしまうという方法もある。

この町が中心になって製鉄業を進めれば、アルクの村への関心が薄れる、というわけだ。

ただそうすると、この国の国力増強に繋がってしまい、結果として世界のバランスを破綻させかねない。

できるだけ関わり合いにならないようにするのがベストであるが・・・。


(アルクの村に工房を構えてしまったのが問題だったかしら・・・いえ、どこに住んでいたとしても、いつかは同じ問題にぶつかっていたわね・・・)


ならば、仕方ない、と口を開くワルツ。


「技術供与するので、アルクの村以外のどこかに製鉄所を作って頂けないでしょうか?」


「え?いいのですか!」


まさか、技術供与してくれるとは思っていなかったのか、驚く伯爵。


「いや、これ以上、アルクの村に関心が集まることを避けるためです。ただ、条件があります」


「はい、何でしょう?」


といって、ワルツは条件を提示する。

1、可能な限り、製鉄技術は隠蔽すること

2、製鉄に必要な木材を切ったら、同じ量の植林をすること

3、木材の切り出しに使う森の大きさを制限すること


この3点である。

1は言わずもがなだ。

だが、技術が漏れることに、ワルツはそれほど目くじらを立てるつもりはなかった。

既に、できるところではやっているはずなので、情報が漏れるというのは今更だ。


2は、この領地を守るためである。

技術供与したら領地が滅びました、では済まされない。


そして2と3を組み合わせることで、生産量の制限を行うことを目論む。

木材を切り出す森の大きさが制限されている状態でそこから一気に伐採してしまうと、それ以上は植林によって木が育たない限り、精錬ができなくなる。

そうすれば、この国が製鉄により急速に発展する、なんてことも無いだろう。

最も、ルールを守る気がなければ、何の枷にもならないのだが、いずれ早い内に領地から木が無くなるだろうというのは想像がつく。


つまりは、2と3を守らないと滅びるぞ、ということだ。

ワルツは、このルールを守らないとどういうことが起こるかについても、念のため教えるのだった。


「・・・以上のようにルールを守らないとこの領地は滅びてしまうでしょう。それでもよろしいですか?」


「はい。肝に銘じておきます。・・・では、専門の者を付けますので都合のいい日程を教えていただけると・・・」


こうして、この領地は将来、製鉄業で繁栄することになる。

ワルツが提示したルールは後世に渡って受け継がれ、安定した産業として発展していくのだ。

中には、()()()()を盗んだ他の領地があったようだが、一時的には繁栄するものの、数年で干ばつや水害、更には砂漠化に襲われ滅びるという結末を辿ったのは言うまでもない。


なお、技術供与に対して莫大な謝礼金を支払うと言い出した領主だったが、「お、お金なんて欲しくないんだからっ!」などとツンデレ風に言うワルツの言葉を聞いて、何か失礼があったか、と思い、褒章の授与を断念するのだった。

一方、謝礼を受け取れなかったワルツは、なんで、こんな時にふざけたんだろう・・・、と泣きそうだった。




それはさておき、「専門の者」にレクチャーすることになったワルツ。

面倒事はさっさと済ませるに限る、というわけで、次の日の朝から教える事になったのだが・・・。


「ご無沙汰しております」


領主の館に姿を見せたのは、錬金術ギルドのジーンであった。


「あれ?売買責任者じゃなかったでしたっけ?」


「はい。ですが、知識が無いことにはできない仕事ですので」


「では、今日はジーンさんに製鉄技術についてお教えすればいいのですか?」


「はい。これまでずっと楽しみにしていました。明日は我がギルドで場所を提供しますので、どうぞよろしくお願い致します」


随分と嬉しそうであった。




基礎知識を持たない異世界人に対して、()()で専門的な事を短時間の内に教えるというのは中々に難しいことである。

そういう意味ではルシアやカタリナは知識の飲み込みが早いと言えるだろう。


だが、全ての者がそうであるとは限らない。

なので、実際の精錬の様子を観察しながら、レクチャーを行うことにした。

百聞は一見にしかず、というやつだろうか。


さて、今、ワルツ達は錬金術ギルドが所有する広めの広場に来ている。

ここには、ワルツ一行とジーン、錬金術ギルドから男性が二人、鍛冶の専門家として武具店の店主、そして何故か騎士の格好をした狩人が居る。

ワルツは武具店の店主が来るとは思っていなかったが、向こうはこちら(主にルシア)のことを覚えており、挨拶をしてきた。

その際、相手が誰だったか思い出せないワルツが挙動不審になったことは言うまでもない。


というわけで、この面々が鉄の精錬を学ぶ。


目の前には赤い鉄鉱石、黒い鉄鉱石、そして木材がある。

赤い鉄鉱石は、アルクの村を始めとした、この領地で採ることのできる鉱石で、黒い鉄鉱石の方はクロムを多く含んだ火山から採取した鉱石である。

両方共、錬金術ギルドの在庫にあったものだ。


「では、最初に木炭を作ります」


「木炭?銑鉄(せんてつ)に使うのか?」


武具屋の店主が口を開く。


「そうです。この木炭を作る工程は省略してもいいのですが、この手法における基本的な技術の説明にもなりますので見ていて下さい。じゃぁ、はじめましょう、ルシア」


「うん!」


ワルツとルシアがいつもの通り作業を始める。


まず、重力制御によって木材が空中に浮くところから、ジーン達は驚いた。


「ごめん・・・ええと、最初から分からないんですが・・・どうして木が浮いてるんですか?」


ジーンが問う。


「これは、私の魔法(オーバーテクノロジー)です。ただ浮かべているだけなので気にしないでださい」


次にルシアが木を魔法で過熱する。


「何をしてるんだ?木を木炭に変える魔法か?」


「そうですね・・・私の魔法で木炭の周囲から空気を無くし、ルシアの火魔法で加熱しているだけです」


「・・・って、どうやって空気を無くすんだよ・・・」


と武具屋の店主。


ワルツの重力制御によって、材料の木材の周囲から空気を排除している。

故に、重力魔法に類する魔法がない限り、同じことは出来ないのだが・・・。

すると、カタリナが口を開く。


「ええと、結界魔法を使っても出来ますね」


どうやら、カタリナが近いことをできるらしい。


「ワルツさん、木を浮かべて下さい」


「おっけー」


といって、ワルツは木を浮かべる。

すると、カタリナが木材に結界魔法を掛けた。


この結界魔法の利点は、何を通して、何を通さないかを決めることができるところだ。

これまでの結界魔法は、魔法を弾くように特化する、あるいは物理攻撃を弾くように特化する、といった使い方しかされてこなかった。

だが、結界の特性を弄れば、熱を通さない、空気を通さない、光を通さない、といった使い方ができるのだ。

カタリナがこのことに気づいたのは、テンポを作っている最中のことだった。


「ルシアちゃんは、火魔法をお願い」


「うん、いいよ」


と、素直にカタリナに応じるルシア。

すると、ワルツの重力制御を使った木炭生成よりも遥かに多い量の白煙が、木から噴出し始める。

つまり、木の内側からは機体を通すが、外側からは通さない結界ということだ。


そして、徐々に黒くなっていく木材。

10秒ほどで木炭が完成した。


「このように、ワルツさんの魔法を使わなくても、結界魔法と火魔法だけで木炭を作ることが出来ます」


と、説明するカタリナ。


「ここまではいいかしら?」


再び、ワルツが口を開く。


「はい。それにしても、すごい方法ですね」


「まぁ、応用の方法についてはお任せします。じゃぁ次は、赤い鉄鉱石のほうね」


すると、浮かべた鉄鉱石を以前みたいに粉々にするワルツ。

ついでに、木炭も粉々にする。


「・・・どうやって粉にしたんだ・・・いや、いい。これは俺達でもできる」


どうやら自己解決したらしい武具屋の店主。

なら、補足説明はいらないわね、と、次の工程を進めるワルツ。


「じゃぁ、ルシアお願い」


「はいっ」


鉄鉱石の粉と木炭の粉を混ぜて一つにしたものに、火魔法をかけるルシア。

すると、鉄鉱石が木炭の粉を含んだまま溶ける。


十分に加熱できたことを確かめて、最後に。


「よいしょっ!」


という掛け声とともに、縞模様の棒状になる鉄鉱石。


「これで完成」


「いやいや・・・途中までは理解できたが、最後のは何だ?どうやったら掛け声だけで、こんな風に成分が別れるんだ?」


「そうね・・・これを教えるためには・・・カタリナ?また同じようにやってもらえる?」


「えぇ・・・。ですが、最後の工程は私にも出来ませんが・・・」


「いえ、大丈夫よ。任せて」


こうして、同じ工程を結界操作で再現する。

同じように鉄鉱石が高温になったら、


「じゃぁ、カタリナ。これを掴めるように、物理結界を張ってもらえる?」


「はい」


「じゃぁ、危ないから、みんな離れてて」


皆が離れ、安全が確保できてから、不可視の機動装甲で物理結界ごと振り回すワルツ。

しばらく、10分くらい振り回した後で、ゆっくりと回す速度を下げていく。

すると、溶けた鉄鉱石に先ほどと同じような縞模様ができていた。


「はい、出来たわよ」


「・・・つまりは、振り回した力で成分を分けた、ってことか」


遠心力での分離を理解したらしい。

途中、大きな手のようなものが見えたが、誰も気にしてはいないようだ。


「あと、もう一つの方法があるんだけど・・・聞く?」


「一応、念のため」


すると、再び、鉄鉱石と木炭を混ぜて、空中に浮かべ溶かすワルツ達。


「じゃぁ、ルシア。一度、氷魔法をお願い」


「いいよ」


ルシアの氷魔法で、赤熱していた液体が、固体の鉄塊になる。


「じゃぁ、次は、溶けるか溶けないかのレベルでいいから、上から下に一方方向でゆっくりと移動しながら加熱をしてみて。少し大変だと思うけどこれを何回も繰り返してもらえる?」


「うん、頑張るよ!」


そういって、言われたとおり加熱を開始するルシアだった。


30分程加熱してから、止める。


「こんなもんかなー?」


確認すると、重力制御を用いた際に比べて薄い縞模様が見て取れた。

どうやら、それほどの純度は期待できそうにないが、鎧などにはこれで十分使えるのではないだろうか。


「つまりは、中に溶けてる金属の溶ける温度の違いを利用して分離したのか・・・」


「まぁ、そういうこと。他にも、薬品を使うとか、ガスを吹き込むとかあるんだけど、危なくてこんなところじゃ出来ないし・・・これで十分よね?」


「・・・はい、参考になりました」


まだ方法があるのか、と関心・・・というより唖然とするジーン。


「あぁ、これまで炉を使ってやってきたが、魔法を使えばこんな風にできるんだな。勉強になったぜ」


武具屋の店主にとっては、今回のレクチャーだけで十分だったようだ。




というわけで、精錬のレクチャー()終わった。

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