3-11 ヘルズキッチン
あれ・・・タイトルナンバーが合わない・・・なにか抜けている・・・
・・・2話前でした・・・ごめんなさい
UFO(?)を撃墜した後、町まで徒歩3時間程度の場所に降り立った一行。
これ以上近づくと気づかれる恐れがあるので、相当手前で着陸した。
筏はここに乗り捨てて行く。
町へと歩みを進めながら、ワルツは、以前、門番を通さずに町の外へと出てきたことを思い出す。
「ねぇ、狩人さん。前回、町から出てくる時、門番にカードのチェックをして貰わなかったんですけど、大丈夫でしょうか?前は空から出てきたので、このまま入町《入城》手続きをすると、問題になるんじゃないかな・・・って」
「そうだな・・・私が警備の関係者と掛け合ってみるが、少々時間がかかると思う。それまでは、町の外で待っていてくれ」
「ええと、どこで待っていればいいですか?」
「では、町から西に1時間程度の場所にある大きな岩の影で落ち合おう。遅くても夜になる前には迎えに行くつもりだ」
「分かりました」
こうして、狩人とワルツ達は別れるのだった。
狩人に指定された岩までやってきた頃には、昼になっていた。
昼に何があるのか?
昼食だ。
既にワルツ達は最後の晩餐は済ませてある。
「お腹が減ってきたわね・・・」
「・・・うん」
「・・・そうですね」
遠い目をする三人。
昼食を抜かす、という選択肢もあるが、それは空腹とプライドに対する敵前逃亡だ。
狩人との別れ際、
『あ、昼食作るなら、これを使ってくれ』
と野営セットを渡されているので、残念ながら調理器具がない、という言い訳も立たない。
つまり、覚悟を決めなくてはならない。
「・・・やるしか無いわね」
「・・・そうだね」
「・・・えぇ」
「楽しみにしています」
テンポを除いて空気の重い三人。
こうして、昼食作りが始まった。
食後。
(誰よ、三人で作ればダメージの分散ができる、とか思ったやつ・・・あ、私か・・・)
先ほどまで大きな岩そびえ立っていたり、所々に木々が茂っていたはずの丘陵地帯が、何故か更地になっていた。
それはそうと、見事に三者三様でメシマズを実現してしまったワルツ一行。
どうしてこうなったのか。
先ほどまで、一体何が起こっていたのかを振り返ってみる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ルシアは、スープを作っていた。
スープなら簡単に作れるだろう、と思っていたのだ。
湯を沸かして、肉、山菜を入れ煮込む。
後は塩を入れれば、完成。
実にシンプル。
野営レベルの食事なら、よくある料理だ。
だが、せめて肉を塩で揉むなり、山菜のアクを取るなりすれば、変な匂いと苦味がするスープにはならなかったのではないだろうか。
後にルシアは反省した。
カタリナは、野菜炒めを作った。
野菜炒めなら、たまに作っているし、下手な味にはならないだろう、と考えていたのだ。
フライパンで肉を炒め、一通り火が通ったら一旦皿に退避し、代わりに野菜を炒める。
野菜に火が通ったら、肉を戻し、塩と香油、少しの香辛料で味付けしたら完成だ。
見た目も普通の野菜炒めだ。
だが、彼女はせめて、ルシアに山菜を分けてもらうべきだった。
彼女の知っている野菜は、市場などで出回っている有名なものだけだ。
なので、山菜を採りに行っても何が食べられるのか分からなかった。
そこで彼女は、自分の知っている植物、すなわち薬草を調理に使うことに決める。
その結果、とんでもなく苦い野菜炒めができたのだ。
後にカタリナは、深く後悔した。
ワルツの場合は、主食のパンを作ろうとした。
一応、このパーティーのリーダーという体を為すために、全身全霊をもって料理に励もうと覚悟を決めたのだ。
ワルツは、自らの中にあったあらゆる知識を動員し、今、作る事のできる最善のパンのレシピを構築する。
小麦、塩、砂糖はある。
無いのはイースト菌だけだが、地球では大昔にぶどうの皮に付着した酵母を利用したことが記録として残っている。
なので、ぶどうによく似た果実を見つけ代用することにした。
枝は蔓ではなかったが、見た目はぶどうに非常に近い。
この果実は生で食べると甘酸っぱくて、ぶどうよりもさくらんぼに似た味だった。
そして、収穫してきた果実を皮ごと潰し、果汁にしてから小麦、水、砂糖、それに少量の塩と混ぜ合わせる。
あとは、重力制御でこれでもか、とこね上げ、30分放置する。
そして、うまく発酵して膨らんだ生地からガス抜きを行い、整形して、再び20分ほど寝かせる。
その後、重力制御とルシアの魔法を利用して作った即席オーブンを使って、15分ほど焼く。
すると、立派なパンの出来上がりだ。
成功を確信するワルツ。
やればできる、と。
スープと野菜炒めで撃沈した二人と、見た目ふっくらとしたパンを頂く。
「すごく、パンらしいよね」
作ったパンの見た目に期待をもつルシア。
「えぇ、私達は失敗してしまったけど、これなら美味しそうです」
多少、死亡フラグを立てて感想を述べるカタリナ。
「じゃぁ、いただきます」
ワルツ達は同時に出来たて熱々のパンに齧りついた。
・・・
『きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!』
辺りに木霊する絶叫。
一緒にパンを食べていたテンポは、
「(絶叫するほど美味しいのかしら)」
などと思っていた。
・・・どうやら彼女には耐性があるらしい。
何の耐性か?
辛さの、だ。
どうやら、ワルツがパンに入れた木の実(ヘルチェリー)が問題だったらしい。
「み、水ぅーーー!!」
「からぁぁぁぁあああ!!」
「・・・ひっくっ」
近くに水がなかったので最大出力で水魔法を繰り出すルシア。
天変地異が起こった・・・。
膨大な量の水が丘を、森を、岩を削り、更地にしていく。
幸いなことは、近くにあったサウスフォートレスの町が高台にあり、水の影響を受けなかったことだろうか。
そして、近くに人も居なかったので、死人が出ることも無かった。
だが、このヘルズキッチンに参加していた4人は、水魔法の直撃による衝撃を受け、辛さに悶える中、溺れるという三重苦を味わう羽目になったのだった。
テンポ以外だが。
しばらくして水が引いた頃には、辺りには何も残っていなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辛うじて生き残った3人は、先程までの阿鼻叫喚を思い出す。
そして、これからも地獄のような料理を続けていかなくてはならないのだろうか、と思い悩むのだった。
ワルツが気づいた時、近くにテンポが居なかった。
「あれ?テンポは?」
「流されたんじゃ・・・」
今更になって、自分の魔法に後悔するルシア。
「あっ、あそこに居ますよ?」
と、丘の上を指さすカタリナ。
どうやら、3人よりも先に丘の上に避難していたらしい。
ワルツ達は、水で柔らかくなった丘と丘の谷間から、テンポのいる丘の上に移動する。
近づいていくと、テンポが焚き火を使って何かを作っていた。
何かいい匂いが漂ってくる。
空腹と香りに思わずお腹が鳴ってしまう3人。
彼女が作っていたのは、肉を木に刺しただけのシンプルな焼き肉だった。
「丁度焼けたのでどうぞ」
そう言って、肉を差し出してくるテンポ。
ホムンクルスなのに、どこかワイルドだ。
「あ、串に近い部分は残したほうがいいかもしれません。たぶん、辛いので」
ふとテンポの横を見ると、ワルツがパンに混ぜた木の実がついた樹の枝が転がっていた。
先ほどの惨事を思い出して青くなるワルツ。
だが、木の実が原因だと知らないルシアとカタリナは空腹に我慢できなかったのか、肉に齧りついた。
ガブッ!
「ちょっ・・・!!」
ワルツが止めるも、既に手遅れだった。
だが、予想に反して、
「・・・うん、おいしい!」
「香りと辛さが絶妙で美味しいです」
という感想を口にする2人。
ワルツも串焼きにかじりつく。
(・・・なるほど。枝の香りで肉の臭みが程よく消えていて・・・なかなか美味しいわね)
一口食べると癖になる、そんな味だった。
ちなみにこのヘルチェリーの木は、テンポが使ったような串としての用途の他に、燻製にも用いられることが多い。
こうして、初めての合同料理は、生後2日のテンポが一番美味しいという不甲斐ない結果に終わるのだった。




