3-10 再び町へ
うわ、前話抜けてるし・・・ごめんなさい・・・
行き先未定の旅に出ることが決まった次の日。
朝食を酒場の店主にご馳走になり、従兄弟の結婚式に出かける彼を見送った後、ワルツ達もサウスフォートレスへ向かう準備をしていた。
旅程は、往復の時間と町での滞在を含め、3泊4日だ。
前回は、徒歩での移動だけで数日かかっていたが、今回はワルツが空を飛んで皆を運ぶため、移動にほとんど時間は掛からない。
なので、このように短期間の旅程でも、その殆どを町への滞在に使える、というわけだ。
ところで、現在、ワルツパーティーは5人いる。
ワルツ、ルシア、カタリナ、テンポ。
そして、何故か狩人がいる。
「私を置いて町に行くだなんて、まさかそんな冷たいことを考えてはいないよな?」
ワルツが、町に用事があるので数日家を開ける、という旨の話を狩人にしたところ、無理やりついてきたのだ。
(何となく予想は付いていたのだけど・・・。この分だと、「長い方」の旅にも付いてくるんじゃないかしら・・・)
「ところで、貴女は?」
狩人とテンポの初めての対面だ。
狩人もテンポも黒髪なので、遠目に見れば兄弟に見えるかもしれない。
「ワルツお姉さまの妹に当たります、テンポと申します。以降、よろしくお願い致します」
お辞儀をして、丁寧に挨拶をするテンポ。
対して、
「これは、ご丁寧に。私はこの地の領主をしてますベルツ=アレクサンドロス伯爵が娘、リーゼ=アレクサンドロスです。村で常駐騎士を任されております故、何かお困りのことがございましたら、気軽に声をおかけ下さい」
と、いつもの狩人とは思えない丁寧な挨拶を返す。
まるで、貴族の令嬢のようだ。
「まぁ、狩人さんではなかったんですね?」
何故か猫をかぶり続けるテンポ。
「えぇ、常駐騎士は村人を守ることが使命です。それ故、増えすぎた魔物を間引きし、村を守ることも仕事の一つですので、初対面の方に狩人と間違えられることも仕方はありませんね」
「まぁ、村人を守るためなんて、ステキなお仕事ですね」
ハッハッハッハ、ウフフフフ、などと笑い合う二人。
「・・・二人共、猫を被るのやめたら?っていうか、やめて(なんか気持ち悪いから)」
すると狩人は
「何を言っているんだ、ワルツ?初対面の人に丁寧に接することは、騎士として、いや人として常識ではないか」
(何を言っているの、と問い詰めたいわね。私達が初めてあった時なんか『ん?私が狩人だ』って、名前すら言わずに一言で済ませていたじゃない?・・・何かしら、この扱いの差は)
一方、
「そうですよ、お姉さま。淑女は淑女らしく、挨拶すべきです」
と返すテンポ。
(いったい、どの口が淑女という言葉をしゃべっているわけ?料理を作ってと頼んだ時に、0.1秒掛からず「無理」と発したその口?)
どうやら、この世界は自分に対して厳しいみたいね、と自分の行いを棚に上げて、今更なことを思うワルツだった。
それはさておき、狩人と町へ行くことになった。
ワルツ達一行は、村を出て、しばらく行ったところで、街道から外れ森の中へ入っていった。
彼女らの行動に、何も聞かされていない狩人は困惑する。
「ええと、街道から外れてしまったのだが、町へ行くのではないのか?」
何も知らなければそう思うのは道理だろう。
なので、ワルツが手短に答える。
「町へは行くけど、そのために準備が必要なのよ」
そう言って森のなかを歩いていると、不自然に開けた場所にたどり着く。
切り株ばかりの開けたスペース。
ここは、ワルツ達が鉄の精錬に使う木材を伐採する場所だ。
「ここは・・・?」
「ここは、私達の・・・まぁ、実験場みたいなところですね」
すると、ワルツは近くにあった大きめの木を素手で倒し、幹を適度な長さにカットして、くり抜き、木材から削りだした椅子を4つ作る。
一方、ルシアも同じような木を魔法で切り倒し、幹を立てにカットして、板材を作る。
同時に、カタリナが持っている鉄の塊を粘土状になるまで加熱する。
するとカタリナは、手に持った鉄を5cm程度の細い棒状に加工し、それを何十本か作り出す。
最後に、ワルツがその棒状の鉄、所謂釘を使って木材と椅子を固定すれば、即席筏の完成だ。
作っている者同士の相談もなく、みるみるうちに出来上がっていく筏の様子を見て、驚く狩人。
テンポは、主にルシアの作業を観察しつつ、自分の手を握ったり開いたりしていただけで、特に反応は無かった。
「さて、それじゃぁ、みんな座って」
と、狩人以外の全員が、思い思いに席につく。
「すまん、よく分からないんだが。こんなところで筏に乗ってどうするんだ?川もないのに」
「まぁ、とりあえず座って下さい」
「う、うわっ!」
狩人を掴んで、無理矢理に座らせる。
「じゃぁ行くわよ?絶対に席から立っちゃダメよ?」
不可視状態の機動装甲で筏を持ち上げ、離陸する。
この間ワルツは、筏の中心部で立っていた。
ワルツは、その姿自体がホログラムなので、揺れの影響は無い。
「と、飛んでる・・・」
最近、メンバーの反応が薄い。
なので、ワルツにとって狩人の驚く姿は、少し嬉しいものがあった。
グングンと高度と速度を上げていく筏。
空に浮かぶ雲を通り過ぎた当たりで、高度も速度も落ち着く。
ここから見える光景はルシアやカタリナにとって見慣れた景色ではあるが、流れる雲や森、村といった景色は何度見ても飽きないのか、眼を輝かせながら見ていた。
狩人は、
「さすが、ワルツ。この前、城を抜けだした時もこうやって移動していたんだな」
と、周りの景色に感心しながらも、以前領主の館を抜けだした時のことを思い出していた。
「えぇ、そうですね。・・・あと、20分くらいで到着するので、それまで遊覧飛行でも楽しんでください」
「早っ!」
歩いたら4日。
飛んだら、離陸してからおよそ30分。
驚くのも無理は無い。
ちなみに、飛行が初めてのテンポも、景色に見とれていた。
手の開け閉めは繰り返していたが。
しばらく飛んでいると、進路上の雲の隙間に、何らかの物体が飛んでいるのが見ててきた。
距離は10km程度、雲が邪魔をしていて目視での確認は取れそうにない。
どうやら空中で停止しているようだが、このままだと衝突する恐れがあるようだ。
「・・・真っ直ぐ前に、何か飛んでいるものがあるみたいなんだけど、どうしよう?」
とワルツが口を開く。
するとテンポが、
「そうですね、この世界の文明レベルと、魔物の存在などを加味すると、撃墜するのが妥当かと。人間の乗り物の可能性は極めて低いのではないでしょうか」
と言う。
(この世界では、これまで飛行機のようなものは見なかったわね・・・。となると、人ではなくて、空飛ぶ魔物?なら、この場で墜すべきかしら・・・)
狩人も、
「なるほど、近隣住民に危害が加わるかもしれない事案を放おってはおけんな」
と同意する。
その他には特に意見も無いようなので、
「じゃぁ、墜しましょ。ルシア、真っ直ぐ前にいるからお願い」
というわけで、攻撃することにした。
「うん、任せて」
ルシアはワルツから杖を受け取ると、杖を前に向け、意識を集中させる。
すると、杖の周囲に光の粒のようなものが集まってきて、次の瞬間には、
ドゴーーーーォォォォ・・・
直径5mはあるんじゃないかと思うような図太い光線が、前方の雲に向かって飛んで行く。
どうやら、テンポを作る過程で、ルシアの魔力も随分と強くなったようだ。
しかし、大味な魔法なのか、それども距離のせいなのか、あるいは相手が当たらないように逃げているのか、中々当たらないようなのでワルツが誤差を調整する。
「あー、ルシア。もう少し上・・・あ、あともう少し左・・・そう、よしっ、当たった」
すると、魔法を止めるルシア。
どうやら、対象は被弾(?)した後に、地面に落ちていったようだ。
残念ながら、雲が厚くて確認はできなかったが。
(・・・ルシアの魔法が当たった時に、チラッと船みたいなものが見えた気がするけど・・・気のせいね!)
「撃墜したわよ。じゃぁ、町へ行きましょうか」
一行は、こうして、残りの道のりを進んでいくのだった。
この日、ルシアの魔法の射線上にあった山が地図から消えて、山脈を貫く立派な街道になったのはまた別の話だ。




