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1.3-03 アルクの村の工房3

2019/10/1 微修正

「気さくな方でしたね。あのニコラという名の店主さん」


「まぁ、店主さんだしね。でも……酒場の店主って、普通、あんな感じなんじゃないの?」


「どうでしょう。一言も喋らずに、注文したものをそっと机に置いていくだけの方もよく見かけますよ?」


「それ酒場っていうか……バーテン?同じか……」


 と、酒場から自宅に戻ってきて、店主と朝食についての感想を口にしあっていたワルツとカタリナ。


 もちろんそこにはルシアの姿もあって……。彼女はすぐに一人ファッションショーへと戻りたそうな様子だった。

 そんな彼女の事を——、


「えっと、じゃぁ、お姉ちゃんたち?私、お部屋でお着替えしてるから、何かあったら呼んでね?」


「あ、それじゃぁ、その前に、一つだけ話しがあるから、ちょっと待ってもらえるかしら?」


——ワルツは呼び止める。


 その理由に覚えがあったのか、ルシアは問いかけた。


「もしかして……ううん。もしかしなくても、カタリナお姉ちゃんのベッドを作るの?」


「あー、それもあったわね……。まぁ、後で作るとして、今したい話は別よ?」


「ベッド……作ってくださるのですね……」


「まぁ、作らないと……ねぇ?」


「うん!絶対!」こくこく


「……というわけだから、後でベッド作るの、2人とも手伝ってね?」


「うん。いいよ?」

「……分かりました」


 そう言って、同時に頷くカタリナとルシア。そのうち、ルシアの方は積極的にベッドを分けたいと考えていたようだが、カタリナの方が少し残念そうな表情を浮かべていた理由については不明である。


「それで、お姉ちゃん。お話って……何?」


「実はさ?昨日、カタリナに言われたのよ。”弟子にして欲しい”って」


「……はい」


「うん?弟子?お姉ちゃんから何か学ぶの?カタリナお姉ちゃん?」


 ワルツから一体何を学ぶというのか……。それが特定できないほど、様々な知識を持っていた姉のことを考えて、首を傾げるルシア。

 

 すると、その質問に対して返答したのはワルツ——ではなく、弟子入りを志願した本人であるカタリナだった。


「医術です」


「いじゅつ?」


「昨日、ワルツさん狩人さんを治療した際に見せた技術や知識。それを是非、学ばせていただきたいと思いまして……」


「ふーん……」


「まぁ、教えられる事なんて、そんなに無いけどね?むしろ、そこまでたどり着くための予備知識の方が、膨大なんじゃないかしら?」


 医学を学ぶために必要となる予備知識は、あえて言うまでも無いほどに莫大なものだった。生物学、化学、数学……。()()()()その3つの分野に精通していることが必要で、より高度な知識を身につけるためには、さらに多くの分野の知識を学ばなくてはならなかった。

 もちろん、この科学が進んでいない世界の住人であるカタリナには、昨日までまったく無縁な世界の話で……。彼女の弟子入り志願は、まさに、前途多難な懇願だったようだ。


 ただ……。

 その入り口に立つために必要となる条件だけは、既に手にしていたようだが。


「……私、絶対に諦めません。もう、ワルツさんが嫌って言うくらい、沢山のことを教えて貰います!」


「……って訳なのよ、ルシア。カタリナったら超やる気満々で、もう私にもどうにもならないのよね……。まぁ、教えないとは言わないけど……」


「じゃぁ、カタリナお姉ちゃんのこと、弟子にするの?」


「まぁ、それしかないでしょうね……。なんか、逃げても追ってきそうだし……ただの雑用としてカタリナをここに留め置くっていうのも、ありえないしね?奴隷じゃないんだからさ?それに……最初から医術を教わりたい、とは思っていなかったと思うけど、私たちから何かを学びたい、って思ったから同行を申し出たんだろうし……」


「はい!」


「そっかぁ……そうだよね……」


 と、ワルツへと向かってまっすぐな返答と視線を返すカタリナを目の当たりにして、なぜか戸惑うような表情を見せるルシア。


 そんな妹のことを見て、ワルツは何となく嫌な予感がしなくも無かったようだが……。しかし、その予感は見事に当たることになったようだ。


「じゃぁ、お姉ちゃん。私もお姉ちゃんの弟子になる!」


「うん、多分言うと思ってた……(だから呼び止めたんだけどね?)。でも、ルシアは何を学びたいの?」


「んー…………ん゛ー……」


「まずは、それを考えてから……って、ルシアの場合は、もう決まってるようなものね」


「……うん?」


「魔法を使いこなすための方法を学びたいんじゃないの?(まぁ、小さな魔法は難しいかもしれないけど……)」


「…………!」


 姉のその言葉を聞いた瞬間、ルシアは尻尾をパンパンに膨らませて目を見開いた。その表情は、まさにそれを言いたかった、と物語っていたようである。

 そして、実際の言葉でも……。


「じゃぁ、それで!」


「じゃぁそれで、って……適当ね?まぁ、いいけど……」


 そう言って、苦笑を浮かべるワルツ。どうやら彼女は、ルシアを弟子に取るかどうかは、取りあえず置いておくとして、妹に何らかの教育を施すことだけは決めたようである。


 こうして彼女は、2人の弟子(?)を一度に抱えることになったのだが……。そこで一つ懸念が生じたようだ。


「さて……。知識を教えるのは良いんだけど、ただ淡々と教わるのって、苦痛だと思うのよ。それに私自身、そんなの億劫だし。それで、目標を作ろうと思うんだけど、良いかしら?」


「「目標?」」


「そっ、目標。短期的に達成できる目標を作って、それを何度も積み重ねていった方が、楽だし、たのしいし、身になるし……まぁ、色々と利点が多いのよ」


「ふーん」


「飴と鞭みたいなものですね」


「そうかもしれないわね。それで……最初の目標なんだけど……」


 そう言ってワルツが口にしたのは——どう考えても、短期に達成できるとは思えない目標だったようである。


「じゃぁ、アンドロイド作りましょっか?むしろ、この世界だったら……ホムンクルスって言った方が良いかしら?」


「「…………えっ?」」


 ワルツが何を言い出したのか分からず、固まる2人。


 この後、我に返った彼女たちは、ワルツの下に弟子入りしたことを、少しだけ後悔したとか後悔しなかったとか……。



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