1.3-02 アルクの村の工房2
それからルシアの一人ファッションショーを中断させてから……。
ワルツたち3人は、自分たちの家の向かいにあった酒場兼村長宅へとやってきた。そんな彼女たちには、どうやら、朝食を自分で作る、という選択肢は無かったようである。尤も、家にキッチンを作っていないので、調理しようにもできないのだが。
「あの……ここは?」
「カタリナは初めてだったわね、ここの酒場。実はここね……村長さんの家でもあるのよ」
「そういうことですか……。つまり、新しく私もこの村に住むようになるから、その挨拶に行くというわけですね?」
「まぁ、半分の半分くらいは、それが目的ね……」
「では、残りの7割5分は……?」
「そりゃもちろん……朝食を貰いに行くだけだけど?」
「そうですか…………はい?」
ワルツが突然何を言い出したのか分からず、耳を疑ってしまった様子のカタリナ。
そんな彼女に対し、事情をよく知っていたルシアが、何故ここに来たのか端的に説明した。
「えっとねぇ、お姉ちゃんも、私も、酒場の店主さんに、毎日ご馳走になってるの。それもタダでね?」
「そ、そうなんですか……(村長さんが親代わり……?でも、お二人の話を聞く限り、そういうわけでもなさそうですが……どういうことなんでしょう?)」
何をどうしたら、村長の家で、朝食を貰う展開になるのか……。想像できなかった様子のカタリナは、首を傾げてしまったようだ。
そんなカタリナが浮かべていた難しそうな表情からおおよそ事情を察したワルツは、彼女に対して未だ説明していなかったこと思い出したのか、酒場の扉に手を掛けながら、その内容について話し始めた。
「あ、そうそう。カタリナには言ってなかったけど、私たちがこの村にいる間は、定期的に狩りに出かけて魔物を狩ることになってるから。もちろんカタリナにも、それには参加してもらうわよ?……って言っても、狩人さん、帰ってきてないし、倉庫もまだいっぱいだと思うから、しばらくは無いと思うけどね?……酒場で毎日毎食、タダのご飯が食べられるのは、それが理由よ?」
「そうでしたか……。すごく良い待遇ですね?」
「でしょ?私もそう思うわ」
そう言って、笑みを浮かべて、扉に掛けた手を手前に引くワルツ。
そして彼女たちは、いつも通りに、酒場の中へと入っていったのである。
◇
「「ごめんください!」」
「あの……ごめんください」
酒場に入ってすぐ、カウンターの奥へと、反射的に挨拶を投げたワルツたち3人。
するとそこには、偶然、酒場の店主の姿があったようだ。
「ん?おぉ。おはよう、嬢ちゃんたち。サウスフォートレスから、もう帰ってきたのか?」
「「はい」」
「でも……ん?行きで3日だろ?帰りで3日だろ?ここを経ってから今日で……7日目だろ?帰ってきたのが昨日だとするなら……殆ど町には居られなかったんじゃねぇか?……何か問題でもあったのか?」
「まぁ、問題っちゃぁ、問題みたいなことは起こりましたけど、別に何てことは無かったですよ?あと、行きは確かに3日掛かりましたけど、帰りは急いで移動したら……3時間でつきました」
「そうかい…………は?」
ワルツの言葉に何か意味不明な発言が含まれていたのか、耳を疑った様子で固まる酒場の店主。
ただ、彼女たちが普段から原理不明な方法で、自身の想像を超えた行動ばかりをしていたためか……。店主はすぐに気を取り直すと、そこにいた背の高い狐娘について、質問した。
「まぁ、いいか。それで……この方はどちら様だ?」
それに対し、カタリナ自身が返答する。
「初めまして店主さん。私、名をカタリナと申します。これからワルツさんのところでお世話になる事になりましたので、これからはどうぞ、よろしくお願いいたします」
「あぁ、これはご丁寧にどうも……。俺は、この酒場の店主の”ニコラ”だ。一応、この村の村長もやってるから……もしもこの嬢ちゃんたちに無理難題をふっかけられたら、いつでも俺の所に逃げてこいよ?」
「えっと……多分、無理難題を言ってるのは私の方なので、大丈夫だと思います」
そう言って、ワルツに対し、弟子入りを志願したことを思い出すカタリナ。なお、今のところ、それについて、ワルツからの返答はなかったりする。とはいえ、拒否はされていないようだが。
「もう、店主さんったら。そんな、無理難題なんてふっかけるわけがないじゃないですか。一度でもふっかけたことありますか?もう……。まぁ、それは置いておいて、朝食ください。それも、3人分!」
「……嬢ちゃん。それはわざと言ってるのか?」
「えっ?何がです?」
「いや……なんでもない……。今から作るから、少し待っててくれ……」
と、どこか呆れたような表情を浮かべながらそう口にして……。そして、ワルツたちの朝食の準備を始める酒場の店主。
なお、その会話を聞いていたカタリナとルシアが、何か言いたげな表情を浮かべていた理由については——まぁ、不明とだけ言っておこう。




