1.2-37 町での出来事28
機動装甲に搭載された超望遠レンズ越しに、そこで起こっていた出来事を観察していたワルツ。
その視界の中で、灰色のネズミが放った風の刃と、とある女性が流した真っ赤な液体を見た瞬間、彼女は自分の隣で地面で伏せっていた2人を抱き抱えると——
ドゴォォォォォ!!
——と勢いよく空へと浮かび上がってから、事後承諾的に宣言した。
「……行くわよ!」
「えっ……あ、はい……」
「う、うん……」
筆舌に尽くしがたい表情を浮かべながら、ワルツに連れられて宙を行くルシアとカタリナ。そんな彼女たち2人共が、何か言いたげな表情を浮かべていて、しかし抗議しなかったのは、そこで繰り広げられていた惨事に気づいていたからか……。
◇
一方、彼女たちのその視線の先では、アレクサンドロス氏の戦いが続いていた。
いや、正確に言うなら、氏の敗北で終わりつつあった、と表現すべきだろう。なにしろ彼は、マギマウスの真っ赤な眼から戦意の炎が消えていないというのに、首の血管を負傷して倒れていたいた女性——狩人の側に付き添ったまま、マギマウスに背を向けて崩れ落ちてしまっていたのだから……。
「リーゼェ……リィーゼェェェ!!」
自身の胸の中でグッタリと意識なく倒れ込み、そして徐々に冷たくなりつつあった狩人の名前を叫び、ただただ彼女のことを抱きかかえるほかなかった様子のアレクサンドロス氏。
その声を聞いた騎士たちの内、回復魔法が使える後衛の魔法使いたちが、氏の元へと駆け寄ろうとするものの、しかし、そこには、マギマウスが未だ健在な状態でそこにいるために誰も近づくことができず……。騎士たちは皆、苦々しい表情を浮かべながら、ただマギマウスの風魔法に翻弄されて藻掻くしかできなかったようだ。
対して、マギマウスの方にとっては、人の事情などいざ知らず。そこにいた者たちは、皆、例外なく、自身の生命を脅かす敵でしかなかった。
その中でも、目の前にいる人物は、周囲の有象無象と比べて、段違いに脅威的とも言える存在で……。マギマウスとしては、可能な限り速やかに、排除したかったようである。
その結果、マギマウスは、一切の躊躇することなく、そこにいた氏に向かって——鋭い刃のような風魔法を行使した。
ドシュッ……
その音を聞いた少なくない者たちが、苦悶の表情を浮かべて眼を閉じてしまう。あるいは、言葉にならない叫び声を上げてしまった者もいたようだ。——本来、守るべき自分たちの主が、目の前で逝ってしまった。その場にいた誰しもが、そう思ってしまったのだ。
それは、魔法を受けたアレクサンドロス氏本人も例外ではなかった。脇腹に感じる鈍い鈍痛。それが自分の命を喰らいつつある……。彼は、そんな絶望的な感覚に捕らわれていたようだ。そしておそらく次の瞬間には、自身を激痛が襲い、目の前にいたリーゼと同じようにして、この世を去るはず……。彼はそんな覚悟をして、その目を閉じた。
それは刹那の時間の出来事のはずだった。0.01秒、0.1秒、1秒、10秒……。
「…………?」
……しかし、いつまで経っても、彼の身体を耐えがたい痛みが襲うようなことは無かったようである。
それから彼は、やってこない痛みを不審に思い、覚悟して閉じた瞳を再び開けることにしたようだ。
……その瞬間だった。
「あんた、そこ邪魔よ!」
ドスッ!
予想だにしていなかった少女の声が、自身のすぐ近くから飛んできて、その上、想像していたものとは大きく異る鈍い痛みが、彼の全身を突如として襲ったのだ。
ドシャァァァァ!!
地面の土や草を削りながら、地面を勢いよく転がっていくアレクサンドロス氏。どうやら彼は、また誰かに、突き飛ばされてしまったらしい。
それが誰によるものなのか分からないまま、吹き飛んだ先で彼が目を開けると、先ほどまで自身がいた場所には3人の少女たちの姿があって……。そして、マギマウスがいただろう地面には、黒い炭のようなものが残るだけだった。
「い、一体……何が……?」
彼が混乱してしまったのは、地面を転がったせいで三半規管を揺らされてしまったせいか、そこに見知らぬ少女たちが立っていたためか、あるいは、その両方か……。
いずれにしてもアレクサンドロス氏は、現状がつかめず、何もできずに混乱する他なかったようである。
いつもより短いでしゅけど、ご了承くだしゃい。
……え?おまえは誰だ?
そうでしゅねぇ……ただの渡り鳥でしゅ!




