1.2-36 町での出来事27
ワルツたちがカタリナからレクチャーを受けている間も、たった1匹のマギマウスと、30人にも上る人間たちの戦いは、途絶えることなく続いていた。
ドゴォォォォン!!
離れた場所にいたワルツたちの耳に届くほどに、大きな轟音を上げる凄まじい威力の風魔法。それによって、マギマウスは、人間たちを吹き飛ばそうとしていた。
対して人間側は——
シュボッ……
——マギマウスに比べて遙かに小さな魔法と剣で対抗しようとしていたようである。相手が小さなマギマウスである以上、当たれば致命傷を与えられるので、小さな魔法でも十分だと考えたのだろう。まぁ、間欠的に飛び交う魔法同士をぶつけ合って力比べをするような戦闘ではないので、当然と言えば当然だが。
そんな中。人側に、初めての損害が生じる。
おそらくは経験が浅いだろう冒険者がいて、彼は立ち回り方を間違えて、一人孤立してしまったのだ。
「……やべっ?!」
「ちゅう……」
ドゴォォォォン!!
彼は手に持った盾を使い、マギマウスの攻撃を防ごうとしていたようだ。だが、その内側に入られ、その身に風魔法の直撃を受けてしまったのである。結果、吹き飛んでいく冒険者。
その様子を離れた場所から眺めていたワルツは——
「あー、あれ、死んだわねー」
——まるで見世物を見るかのような感想を口にしていたようである。
一方、その様子は、かろうじて、ルシアにもカタリナにも見えていたようだ。
「かわいそう……」
「ご冥福をお祈りします……」
「いや、死んだって言うのは冗談だけどさ?吹き飛んだ先で、まだ動いてるし……。でも、すっごく痛そうね……」
と、戦列の後方に運ばれていって、治療されている冒険者の姿を眺めながら、そんな会話を交わす3人。
それからも彼女たちは戦闘の観察を続けるのだが、そこから見る限りでは、双方とも攻防のバランスがとれていて、いましばらく膠着状態が続くかのように見えていた。
だが、その変化は、突如として生じることになる。
スパァンッ!!
今までは、広範囲に渡って拡散するような風魔法を使っていたマギマウスが、不意にその魔法の効果範囲を収束させて、一点集中型の風魔法を繰り出し始めたのだ。
結果、その魔法を受けた最前列の冒険者たちが、次々に盾を破壊されてしまい、戦線が崩れ初めてしまった。
すると、それを見た最後列の司令官——アレクサンドロス氏が、大声を上げて、指示を出す。
「冒険者たちは後退しろ!第二列はそれを援護!」
その途端、その声に従って、前後を入れ替える騎士と冒険者たち。
しかしそれは、焼け石に水。一度、勢いづいてしまったマギマウスの攻撃は、そう簡単には止められず……。後退を始めた冒険者たちだけで無く、彼らを守ろうとして前に出た騎士たちの中にも、負傷者が出始めた。
「くっ!」
その様子に絶えきれなかったのか、あるいは、彼以外に、その場でたち振る舞うことのできる人間がいなかったのか……。乗っていた馬(のような動物)から降りて、そして腰から細身の剣を抜くアレクサンドロス氏。
彼は、その見た目には似つかわしくない軽やかな動きを見せ、一瞬でマギマウスとの距離を詰めたかと思うと——
ザンッ!
——躊躇すること無く、マギマウスに向かって切り込んでいった。
だが、相手は、手の平よりも小さく、そしてすばしっこいネズミの魔物。既の所で剣の接近を感じたマギマウスは、敏捷な動きでそれを避け……。そして氏に向かって、収束した風魔法を行使する。
それを、自身の剣が届くほどの至近距離で受けた氏は、しかし、軽やかな動きで、魔法を回避することに成功する。その動きは、洗練されていて、まさに非凡というべき体捌きだった。
そんな氏の頭にあるのは、撓垂れた黒い獣耳。そして、その腰には、細く長い尻尾。その様子は、まるで、猫のようだったと言えるだろう。
……そう。そこで彼の様子を後ろから心配そうに眺めていた狩人のように。
それから氏は、その手を休めること無く、自身の後ろで唖然として固まっていた者たちに対して声を向けた。
「俺が足止めをする!お前たちは早く体勢を立て直せ!」
それを聞いて、我を取り戻したのか、一斉に動き始める騎士と冒険者たち。
しかし、その呼びかけが原因で集中が途切れてしまったのか……。氏の行動に、一瞬だけスキが生じてしまった。
それをマギマウスが見過ごすわけもなく——
「ちゅう……!」
——一瞬の隙を付いて、氏の至近距離へと近づき……。
そして——
ドゴォォォォ!!
——容赦のない風魔法を行使した。
しかしそれでも、氏は——
「うぉぉぉぉぉっ!!」
——どうにか気合いで、その攻撃を避けることに成功する。
ただ、その回避は、少々無理が過ぎる動きだったためか、彼の体勢は大きく崩れることになってしまう。猫の獣人とは言え、動きには限界があったようだ。
その直後——
ドゴォォォォ!!
——彼のことを、再び風の狂刃が容赦なく襲う。
今度こそ、確実に当たる……。誰の眼から見ても、それは明らかで、皆が思わず目を瞑りそうになった。
しかし、幸か不幸か、その攻撃は、やはり彼に当たることは無かった。それは何も、彼が物理的な現象を無視したような動きを見せて回避行動を取ったから、というわけではない。
ドン!
彼は何者かの手によって思い切り突き飛ばされたのだ。
「…………?!」
自身の身に何が起ったのか分からず、困惑した表情を見せる甲冑姿の男性。
そして彼は知ることになる。
ドシャァァァァッ!!
自分の身をマギマウスの攻撃から救ってくれた者が誰なのかを。
そして——自身とよく似た獣耳と尻尾を持った女性が、自分を救ったことで、どうなってしまったのかを……。
まだ少し文が長いかもしれぬ。
まぁ、戦闘のシーンをひたすら書いておったのでは、長く感じて当然かのう……。




