1.2-35 町での出来事26
「(……何十人がかりでネズミと戦うつもりよ……)」
たった1匹の小さなネズミと退治して戦おうとしていた騎士たち。その様子を見て、ワルツは、彼らの正気を疑ってしまったようだが——
ズドォォォォォン!!
「「「?!」」」
——何の前触れも無く、突如として爆ぜた戦場を前に、ワルツだけでなく、他の2人までもが、思わず目を大きく見開いて、驚いてしまったようだ。
「んなっ……」
「なに……あれ……」
何が起こったのか分からない、といった様子で首を傾げるワルツとルシア。
一方、それなりに長い間、冒険者をやってきたカタリナには、何やら心当たりがあったようである。
「……魔力特異体……」
「「えっ?」」
「異常な魔力を持った魔物のことです。”魔物”というのは、普通の動物とは違って、魔法を使うことのできる動物たちの総称ですが、その中でも、特に大きな魔力を持って生まれてきた魔物のことを、”魔力特異体”と言います」
「あんな小さなネズミなのに……って、特殊な魔物だからあり得るのか……」
「……相手はネズミなんですか?」
「えぇ、ここから見る限りだとね。全身灰色をした、こんくらいのネズミよ?」
そう言って、ネズミの大きさを両手で表現するワルツ。そんな彼女が手で形作ったのは、ハツカネズミよりも一回り大きく、そしてドブネズミよりも二回りほど小さなネズミだった。
そのサイズを見て、カタリナは相手を特定できたようである。
「……おそらく、マギマウスですね」
「マギマウス?」
「はい。この大陸の中なら、どこの森でも見かけることのできる、ごく一般的な魔物です。主に風魔法を使って攻撃することが多くて、ごく希に雷魔法を使うこともあるようです。……って言っても、私は彼らが雷魔法を使っているところを、見たことは無いですけどね」
「ふーん。あんなちっちゃいのに……正直、信じられないわ……(家の中に出てきたら……もう大惨事じゃん……)」
「ちっちゃくても、魔力特異体になると話は別です。元のマギマウスは、温厚な種類の魔物ですが、魔力特異体になると凶暴性が段違いに高くなり、冒険者を見たら、離れていても、すぐに襲いかかってきます。なので、魔力特異体の魔物が発見されると、直ちに緊急の討伐隊が組織されて……」
「……場合によっては今回みたいに、騎士たちが出向いてくる、って訳ね?」
「はい。特に今回の場合は、サウスフォートレスに近いので、放置しておくと、町の人たちに被害が出ると判断されたのでしょう」
ドゴォォォォォン!!
ワルツたちがカタリナから魔力特異体についての説明を受けている間も、騎士たちの戦闘は続いており、風魔法と思しき凶風によって、その場には土煙が舞い上がっていた。ただ、幸いと言うべきか……。騎士たちには、今のところ、被害は生じていなかったようである。
その中に、ワルツは、とある者の姿を見つける。
「……あ。狩人さん、いたわ……」
「「えっ……」」
「いや、最前線で戦ってるわけじゃ無いけど、あの馬に乗った偉そうな人の側について、いつも通り、ダガーを構えてるみたいよ?」
「狩人さん……やっぱり、騎士さんなのかなぁ?」
「さぁね?騎士なのにダガーを持ってるっていうのは……何となくチグハグよね。まぁ、何か複雑な事情でもあるんでしょ。きっと」
と、ダガーを持って戦場を駆けるだろう騎士”狩人”の姿を想像しながら、騎士たちの戦闘を観察し続けるワルツ。
そこでは、20名ほどの軽甲冑姿の騎士たちが、馬に乗った男性の指示の元、小さな”マギマウス”と戦っている様子だった。それ以外にも、最前列には、甲冑を着ていない、冒険者たちと思しき者たちの姿もあって、合計30名ほどで、1匹のマギマウスを相手に、戦闘を繰り広げていたようである。2列目には接近戦闘に特化した装備の騎士たち、そして、3列目を魔法使いと思しき騎士たちが横一列に並んでいて……。まるで、巨大な敵や、軍隊を相手に戦うような布陣を敷いていたと言えるだろう。
それほどまでに、魔力特異体のマギマウスという生き物は、凶暴で危険な存在だったようだ。
といったように、彼らは一見して万全とも言える人員と陣形で戦闘を繰り広げていたわけだが、なかなか戦闘が終わらないところからも推測できる通り、あまり雲行きは良くなかったようである。防御力を高めるために装備した甲冑が仇となって、上手く立ち回れなかったらしく、彼らは素早く移動するマギマウスに追従できなかったのだ。
その結果——
ドゴォォォォォン!!
——と、騎士たちは、マギマウスの魔法攻撃を避けきれず、魔法の直撃を受けていたようである。ただまぁ、”軽”とはいえ重い鎧が彼らを守っていたおかげか、彼らが致命傷を負うことは無かったようだが。
「……痛くないのかしら?」
「いえ……おそらくは、すごく痛いと思いますよ?風魔法は剣の斬撃に近い効果を持っていますが、それを鎧で受け止めると、身体が切れない代わりに、空気の塊に殴られるような大きな衝撃を受けますからね……」
「……詳しいわね?」
「まぁ……色々と吹き飛ばされた経験がありますので……」
そう言って苦笑を浮かべるカタリナ。これまで勇者と共に行動してきた冒険者生活は、彼女に豊富な知識を授けていたようである。……主に物理的な意味で。
それからも騎士たちの戦闘は続いていく。
また駄文が終わらぬ……。
まぁ、説明せねばならぬことが多いゆえ、仕方ない……そう思うことにした今日この頃なのじゃ。
正直に言うと……次のイベントまで、まだ少し文を書かねばならぬゆえ、いっぺんに書かず、途中で区切っただけなのじゃがの?




