1.2-28 町での出来事19
「……それ、そんなに好きなの?」
「うん?おふひ?うん、あいふき!」もぐもぐ
アクセサリーショップでバングルの購入を終えた後、ワルツたちは、町の入り口近くの噴水がある場所までやってきていた。そこで、2人は、この町に来た初日のように立ち並んでいた屋台で軽食を購入してから、噴水の縁に腰を下ろし、そこで食事をしていたようである。
「ねぇ、お姉ちゃん。午後はどこに行くの?」
「そうねぇ。今のところ、特に予定は無いから……外かしら?」
「お外って……町の外?」
「そ。だって……昨日、杖買ったでしょ?」
「……試し撃ち!」きゅぴーん
「えっと……小さな魔法が使えるようになりたいんじゃなかったっけ?」
「うん。もちろん、そうだけど……でもやっぱり、おっきな魔法も使いこなせるようになりたいなぁ、って」
「もう十分に使いこなしてると思うけどね……」
と、普段から、超強力な魔法を連発しているルシアの行動を思い出すワルツ。現時点でも、十分すぎるほどの火力(?)を誇るルシアの魔法だったが、これから先のことを考えると、より強い魔法があって困るわけでは無かったので、ワルツとしても、妹の魔法の進歩については、歓迎していたようである。
「じゃぁ、午後は、昨日買った装備を身につけて、町の外の草原で、魔法の練習をしましょ?」
「うん!」
「それに……」
「……うん?」
「ううん。なんでもないわ?」
「…………?(どうしたんだろう……お姉ちゃん……。さっきから何かを隠してる?……ううん。何か気にしてる気がする……)」
アクセサリーショップを出てからというもの、ルシアは姉の様子がどこかおかしかったことに、薄々気づいていたようである。ただ、ワルツの不可解な行動は、今に始まったことではなかったので、ルシアは、それ以上、深く考えないことにしたようだ。
◇
そして昼食の後、宿屋で着替えてからワルツたちがやってきたのは、サウスフォートレスの町の外。そこには、穏やかな丘陵地帯と、大きな畑、そして、点在する森の姿が広がっていた。
少し高いところに立てば、遠くの地平線付近まで望むことができ、その光景の中には、魔物たちが行き交う姿を観察できたようである。そのほか、逃げ惑う魔物たちを追いかける冒険者たちの姿や、逆に魔物に追われて逃げ惑う冒険者たちの姿も垣間見ることができ……。美しくも残酷なこの世界の光景が、ありのままの姿で見えていたようだ。
そんな丘陵地帯のうち、森や丘の陰になって、町からも街道からも見えない場所まで歩いてきたワルツたちは、不意にそこで足を止めた。とはいえ、ルシアの魔法のテストをするわけでも、休憩をしていたわけでもなく……。それ以外に何か特別な理由があって、立ち止まったらしい。
ただ、詳しい事情を知らなかったルシアは、その場所が目的地だと思っていたらしく、彼女はそこで魔法を使おうと、ウォーミングアップを始めたようだ。
「ここで魔法を使えば良いんだね?」ゴゴゴゴゴ
「ううん、違うわよ?」
「……えっ?」
予想外な姉の言葉を聞いて、まるで狐につままれたような表情を見せるルシア。そして彼女は、ここまで姉の様子がおかしかったことを思い出しながら、こんなことを口にした。
「もしかして……何かあったの?」
その質問に対し、ワルツは怪訝そうな表情を浮かべて後ろを振り向くと、その方向を眺めながら妹に対し返答する。
「何かあった、ってほどのことじゃないけど……付けられてるわね。私たち……」
「付けられて……えっ?!」
「多分、大丈夫だと思うけどね。雰囲気からすると、ちょっと面倒なだけで、こっちを害するつもりとか、そんなのは無いと思うから」
「それって……どういう……」
……どういう意味なのか。
ルシアがそう問いかける前に、ワルツが行動に出た。
『——そこにいるのは分かってるわ。隠れてないで出てきなさい?』
ワルツは、今し方、通過してきたばかりの森の方へと声を投げて、そこにいるだろう人物へと話しかけたのだ。ただし、普段通りの声の大きさで。
「この距離で……聞こえるの?」
「えぇ。声に超音波変調をかけて話しかけた……って、ルシアには超音波って言っても分かんないか……」
「うん?」
「まぁ、要するに、小さな声を遠くまで届かせるための魔法を使ったのよ。ホントは科学だけどね?」
「ふーん……」
姉の説明がよく理解できなかった様子ながらも、ルシアはその説明を自分なりに解釈して、飲み込むことにしたようである。
それから彼女が、風魔法を使って、似たようなことができないか、と考え始めた——そんなときだった。
「……出て来たわね」
そんなワルツの言葉通り、森の中から、1人の人物が姿を見せたようである。
それは、一人の女性だった。ワルツよりも背が高く、青一色に統一された服装を身につけていて、手にステッキのようなものを持った人物。それは——
「……誰だったっけ?」
「最近、どっかで見たのは確かなんだけど……」
「「……あ!勇者パーティーの人!」」
——数日前に、ワルツが蹂躙した勇者パーティーのメンバーの1人だったようである。




