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1.2-18 町での出来事9

念のため言っておくのじゃが、興味本位で検索する前に、覚悟するのじゃぞ?

……何のことを言っておるか?

読めば分かるのじゃ。

「…………」ぽかーん


「……ん?ルシア?大丈夫?」


 ふとした思いつきで燕尾服の姿に変わって、ルシアの前で(ひざまず)きながら手を差し出したワルツ。それを見たルシアは――


「…………」ぽっ


――と、何故か、顔を赤らめて、そしてそのまま固まってしまったようだ。それほどまでに、ワルツの燕尾服姿は、ルシアの心の中にあった何かを大きく揺さぶってしまったらしい。尤も、ワルツが燕尾服の他にも、自身の髪色と同じ尖った獣耳と尻尾を、ホログラムで作り出して装着していたことも、その原因の一つだったようだが。


「ルーシーアー?」


「……はっ?!お、王子様?!」


「違っ……」


「やっぱり、お姉ちゃん……”お姉ちゃん”じゃなくて、”お兄ちゃん”だったんじゃ……!」かぁっ


「……うん。やっぱり、この格好、止めよう……」


 ワルツは結局、元の姿に戻ることにしたようだ。燕尾服姿だと、ルシアにとっても、自分にとっても、いい影響が無いことに気づいたらしい。

 一方で、ルシアの方はというと――


「あっ……」がくぜん


――元の姿に戻ってしまった姉の姿を目の当たりにして、この世の終わりが訪れたかのような、絶望的な表情(?)を浮かべていたようである。彼女は、それほどまでに、ワルツの燕尾服姿が気に入っていたようだ。


「男装すると、なんか勘違いされてるような気しかしないから……今後は封印ね?」


「えっ……」ぼうぜん


「……そんなに似合ってたの?」


「う、うん……。本物の王子様みたいだった……」


「あら、そう。本当は執事のつもりだったんだけど……それは悪いことをしたわね。じゃぁ、そのかわりに、今日一日、コレだけは付けといてあげる」


 そう言うと、尖った黄色い狐耳と、立派な尻尾を、ホログラムで作り出して、装着するワルツ。そして彼女は、その場で、くるりと回ると、その感想を妹に問いかけた。


「どう?ルシア。お姉ちゃんっぽい?」


「…………」ぽっ


「えっ……」


「う、うん!すっごくお姉ちゃんぽい!」こくこく


「……今の間が、気になるけど……まぁ、良いわ。じゃぁ、今日一日は、この格好でいるわね?」


「うん!」ふりふり


 ルシアはそう言うと、再び嬉しそうに尻尾を振り始めた。色こそワルツのほうが幾分白かったものの、同じように尻尾を振りながら道を歩く2人の姿は、まさしく本物の姉妹のように見えていたようである。



「お姉ちゃんって、お洋服を自由に変えたり、変身できたりするんだね?いいなぁ……」


「ルシアも頑張って魔法を練習すれば、同じようなことができるようになるかもしれないわよ?」


「そうかなぁ……うん!頑張ってみる!」


「……まぁ、頑張りすぎないようにね?」


 そんな他愛のないやり取りを交わしながら、2人が向かっていた先は、レストランか、あるいは、軽食が摂れるカフェテリアだった。昼食の時間としては、少々遅れ気味だったので、席が残っているかは微妙なところだったようだが、とりあえず空いていないかどうか、見て回ることにしたようである。

 

 それからすぐ、運がいいことに、2人はカフェテリアの席に腰を下ろすことに成功する。そこは、昨日、目星を付けていた場所で、店内とテラスに、それぞれテーブルがある店だった。

 そのうちのテラスの方に席を取ることに成功したワルツたちは、早速、そこにあった品書きに眼を通しながら、メニューを選び始めたようだ。


「うわっ……いっぱいある……」


「どれどれ?料金の方は……思ったより高くないみたいね。なら、好きなだけ好きなものを頼んでもいいわよ?」


 ワルツたちが眼を通した品書きに書かれていた金額は、アルクの村の酒場で出される食事よりも多少は高かったものの、現代世界の観光地価格のように、べらぼうに高い、というわけでは無かったようである。普段、ここにやってくる客は、元々街に住んでいる者たちなので、良心的な価格設定になっているようだ。


 そんな品書きを眺めながら、ワルツは驚いたような表情を見せて、こう口にした。


「へぇ、オムライスあるじゃん……」


「うん?オムライスがどうかしたの?お姉ちゃん?」


「いやさ?私のいた国にもあったのよ、オ()ムライス。まさに、オームって感じのオームライスがね?」


「ふーん……ちなみにだけど、どんな料理だったの?」


「そうね……ほうれん草をミキサーに掛けて、それを溶いた卵と混ぜて、薄い卵焼きにしてから……皿の上に載せた焼きそばとご飯をその卵焼きで幾重にも包み込んだ料理?あと、忘れちゃいけないのは、最後に半分に切ったミニトマトで飾り付けすることよ?」


「なんか私の知ってるオムライスと違う気がする……っていうか、ほうれんそうって何?」


「……冗談のつもりで言ったんだけど、そもそも最初から意味が分からなかったみたいね……。まぁ、気にしないで?」


 そう言って、顔を赤くしながら、それを誤魔化すように、品書きへと視線を下ろすワルツ。

 そんな彼女の視線の先には、メインディッシュの一覧ではなく、どういうわけかスイーツの項目があったようである。それを見た彼女は、こんなことを(くわだ)てていたようだ。


「(やっぱり、異世界だけあって、デザートの(たぐい)はあまり無いのね。……やろうと思えば行けるかしら?)」


 現代世界にある数々のデザート。ワルツは、それらを使って、一攫千金できないか、と考えていたらしい。彼女の頭の中にあるデータベースを駆使すれば、スイーツを作ることなど、造作もなかったようである。


「……ねぇ、お姉ちゃん。そこ、デザートの項目だけど……もしかして、食事を食べずにデザートだけ食べるの?」


「えっ……」


「お姉ちゃんがそうなら……私もそうするけど……」


「い、いや、違……」


「……お客様?お料理はお決まりになりましたでしょうか?」


「えっ?ちょっ……ちょっと待って……」


「なに食べよっかなぁ……」


 店員に()かされるように、今度こそメインディッシュの項目へと視線を向ける姉妹2人。その結果、彼女たちが選んだ料理が2人揃ってオムライスだったのは、ワルツが余計なことを思い出した結果か。


 なお、ワルツがデザートを使って一攫千金を図ることは、結局、一度も無かったりする。それは、あるどうにもならない理由があったためなのだが……。それに彼女が気づくのは、もうしばらく先の話である。



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