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1.2-08 町への旅8

 それから、狩人の身体に目立ったケガが無いかを確認して、再び街道を歩き出したワルツたち。ちなみに、狩人の話によると、森をショートカットするつもりはなかったらしく、ワルツたちが歩いてきた道は、間違っていなかったようである。

 そんな彼女たちは、再び雑談をしながら、陽気な様子で道を歩いて行くのだが……。歩き出して、数歩進んだところで、どういうわけか狩人が足を止めてしまった。とはいえ、彼女の身体に何か問題があった、というわけではなく、他に理由があったようだ。


「そういえば、そろそろだな……。もう、今日は歩くのを止めて、ここで野営をしよう」


「「えっ……」」


「まだ時間的に早いんじゃないか、って思ってるんだろ?だけど、これから夕食用の魔物を狩ったり、テントを張ったり、火を起こしたりするのを考えると、思っているよりも時間が掛かるんだ。このくらいの時間から準備するくらいでちょうどいいのさ」


「「たしかに……」」


 狩人の言葉を聞いて、納得げな表情を浮かべるワルツとルシア。どうやら彼女たちは、つい数日前の出来事を思い出していたようである。すなわち、夜になってから火を起すことになった、どこか遠い場所にある村での出来事を。

 それからワルツは、周囲を見渡して、自分たち以外に誰もいないことを確認してから、狩人の荷物を機動装甲のカーゴコンテナから取り出すと、それを持ち主へと返しながら問いかけた。


「じゃぁ、野営の役割分担どうします?」


「そうだな……()()の使い方、分かるか?」からんころん


「……ダガーの山ですか?」


「いや、その奥にある野営道具の方だ」


「分からない……というか、底が見えないので、私が狩りに行ってきますね?」


 どうやらワルツが、今夜の食事の主食を確保することになったらしい。


「あぁ。よろしく頼む、なら私がテントやその他のy――」


ドゴォォォォォン!!


「獲れましたよ?狩人さん」


「……すまない。ちょっと、意味が分からないんだが……」


200m先(すぐそこ)を魔物が歩いていたので、引き寄せちゃいました。他にもいるみたいでしたが、まぁ、1匹で十分ですよね?」


「……あぁ、1匹で十分だ。ほんと、ワルツのことが羨ましいよ……。私もちゃんと勉強をして、自由に魔法が使えるようになりたいな……」


「頑張ってください。応援だけしてます(そう、応援だけ……ね)」


 狩人に向けていた眼を細めつつ、内心でそんなことを考えながら、全身に触手の生えた巨大なイノシシのような魔物を彼女へと差し出すワルツ。ちなみに、彼女が魔物を引き寄せた方法については、重力の力場を操った、と言えば、おおよその状況を想像してもらえるのではないだろうか。


プギィィィィィ!!

にゅるにゅる!!


「はい、どうぞ?」


「えっ…………ど、どうぞって……」


「いや、実は私、屠殺(とさつ)するのが苦手なんですよ……。なんか、こう……魔物のつぶらな瞳を見てると、可哀想な気がしてきて……。後のことは狩人さんにおまかせします!あ、そうそう。この子、適当に、ジョセフィーヌって名付けておいたので、何かあったら名前を呼んであげてください」


「えっ、いや……」


「あ、すみません。動いていたら、受け取りにくいですよね?今、縛りますんで……ごめんね?ジョセフィーヌ……」ギュッ


プギィィィィィ!!

にゅるにゅる!!


「……これでよしっ、と。それじゃぁ、ルシアと一緒に、森で山菜を探してきますんで、あとのことはよろしくお願いします。楽しみにしてますね?夕食」


「お願いします。狩人さん!」


 そう言って、生きたままロープでぐるぐる巻きにされていた魔物ジョセフィーヌを放置してから、再び暗い森の方へと足を向けるワルツとルシア。そんな彼女たちの足が、いつもよりも速かったのは、魔物を屠殺する光景を見たくなかったためか。

 一方で、魔物と共に、その場に残された狩人は、というと――


「……狩りの場でヤるなら、良いんだけどな…………ジョセフィーヌ、か……」


プギィィィィィ!!

にゅるにゅる!!


――と、ロープの中で必死になって藻掻いているイノシシのような魔物に対して、酷く難しそうな表情を向けていたようだ。その際、ダガーを握る彼女の手が小さく震えていたのは、武者震いか、さきほど意識を失った影響か、あるいはそれ以外の理由があったためか……。

 なお、その日の夕飯は、イノシシ料理ではなかった、とだけ言っておこうと思う。



 そんなこんなで、旅を続けること3日目。街道を歩いて、幾つもの森を抜け、そして開けた平原へと出た所で――


「……あ!あれってもしかして……」


「あぁ。あれが今回の目的地の、サウスフォートレスだ」


「要塞都市……ですか」


――ワルツたちの目に、周囲を高い壁に囲まれた、大きな町の姿が目に入ってきた。どうやらそれが、今回の旅の目的地である”町”、サウスフォートレスらしい。

 そんな町の様子は、”町”と表現するよりも、ワルツの言葉通り”要塞”か、あるいは武装した城、と言うべきものだった。

 ……大きな石を切り出して作ったと(おぼ)しき、町を取り囲む高さ6mほどの外壁。

 ……その内側に、まるで山を形作るように建設された町並み。

 ……そして、そのてっぺんに作られた、中世の城のような大きな館。

 そのすべての光景が、ワルツには、こう感じられたようだ。


「まさにファンタジーね……」


「うん?お姉ちゃん、なんか言った?」


「ううん?すごい見た目だなー、って思っただけよ?」


「お姉ちゃんもそう思う?私もあんな大きな町、見るのも入るのも初めてだから、少し緊張しちゃうかなぁ……」


 ワルツとルシアが、町についての感想を口にすると。どういうわけか狩人が、鼻高々に、サウスフォートレスについての簡単な説明を始めた。


「実はな?この地は幾度となく戦禍に巻き込まれてきたんだ。豊かな緑が広がってるから、東西を挟んでる他所(よそ)の国からみたら、すごく魅力的な土地に見えるらしいぞ?そんなこの地を守るために、小さな要塞ができて、それが長い年月をかけて……あそこまで大きくなった、ってわけだ」


「なるほど……。で、戦争が無いときは、外国からの交易品が、ここに一旦集まって、中央の方へと送られていく、って感じですね?そうでもなければ、要塞の中が、あんな風に、大きな街に発展するなんて考えられませんし……」


「お、おう……」


「…………?どうしたんですか?狩人さん。そんなびっくりしたような顔をして……」


「いや……なんでもない……」


 そう言って、ワルツから眼を逸らす狩人。その様子から推測するに、どうやら彼女は、交易によってサウスフォートレスが発展したことまでは、考えが及んでいなかったようである。


「……変な狩人さん」


「おっきな町かぁ……。どんなお洋服があるんだろ……」


「(私はもう、ダメかもしれない……)」


 それぞれに、異なる表情を浮かべながら、まだ遠かった町へと歩いていく3人。そんな彼女たちが町へとたどり着くまでに、それからさらに3時間ほど要したようだ。



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