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1.1-26 村20

「んー、文字通り、すっからかんね」


「うん?すっから?」


「そっ。すっからかん。何にもない、ってこと。ベッドもなけりゃ、机も椅子もない……。あるのは……家の形をした壁だけってところかしら?」


と、ランタンによって照らし出された部屋の中の雑巾がけをしながら、そんなやり取りを交わすワルツとルシア。

ワルツのその言葉通り、家の中には家具らしき家具は何もなく……。

唯一、家具と呼べるのは、キッチンと思しき部屋に備え付けられた戸棚くらいだった。


そんな部屋の中の、床や天井、壁は、ワルツが思っていたほど悪く無い状態だったようで……。

ホコリを払って拭けば、そのまま使えそうだったようである。


ただ、問題は、前述の通り、家具が無いことだった。

もしも今日からここに住むというのなら、最低でもベッドが必要になるだろう。


「んー、せっかく家を持ったんだし、今晩も酒場にお邪魔するっていうのも気が引けるから……作ろっか?」


「うん?何を?」


「家具よ、家具。布団とかは、酒場にあるやつを使っていいって話だから、それはそのまま拝借するとして……問題はベッドよね。あと、私はいらないけど、ルシアにはお風呂も必要だと思うし……」


「えっ……」


ワルツのその言葉を聞いて、どういうわけか固まってしまうルシア。

どうやらワルツの言葉の中に、彼女にとって意外に感じてしまう単語が含まれていたようである。


それに気づいて、ワルツが質問した。


「もしかして……ルシアって、あまりお風呂に入らなかったりする?」


と、一歩間違えれば、とんでもない意味になってしまう質問を口にするワルツ。

なお、その正しい良い意味は――この世界には、風呂に浸かるという文化は無いのか、である。


とはいえ、ルシアは勘違いしなかったようで……。

ワルツの質問に対して、正確に返答した。


「えっと…………うん。すっごくお金持ちな家なら、お風呂もあるかもしれないけど、私の家は普通の家(?)だったから、井戸の水を浴びるか、身体を拭くだけで終わりかなぁ?」


「なんか寒そうね?」


「うん。冬とか、すっごく寒いよ?でも、流石に冬は、お湯を沸かして、水と混ぜて、ちょうどいい温度にしてから浴びるけどね?でも、浴びた後は寒いけど」


「でしょうね……」


そう言って、苦笑するワルツ。


それから彼女は、んー、と何かを悩むように唸ってから……。

ルシアに対して、その悩みの結論を口にした。


「それじゃぁ、とりあえず、ベッドと机、それに椅子と……お風呂を作っちゃいましょうか?」


「えっ……お風呂も作るの?」


「えぇ。だって、入りたくない?お風呂(まぁ、私が入る場合は、自分専用の巨大なお風呂を作らなきゃならないけど……)」


「う、うん……(お風呂……いるのかなぁ?)」


と、ワルツの提案を聞いても、すんなりと頷けなかった様子のルシア。

そんな彼女は、生まれてこの方、浴槽というものに浸かったことが無かったので……。

風呂を作る、と言われても、必要なものだとは思えなかったようである。

まぁ、ワルツとしては、ルシアがどんな反応をしたとしても、浴槽を作る気でいたようだが。


「それじゃぁ、もう今日は日が落ちちゃって暗いし、外で作業すると怪しまれるから……どこかの部屋を作業部屋にして、屋内で作業しましょっか?でも、その前に、まずは掃除を終わらせてから、だけどね?」


「えっと、うん。お風呂かぁ…………頑張ろっと!」


ルシアはそう呟くと、元気よく雑巾がけを再開したようである。

浴槽というものにあまり興味の無さそうだった彼女だが……。

どうやらその内心では、期待に胸を膨らませていたようだ。



チュウィィィィン!!

チュウィィィィン!!

チュウィィィィン!!


トトトンッ!

トトトンッ!

トトトンッ!


「ふぅ。完成!」


「……ねぇ、お姉ちゃん?今、何やったの?」


「えっ?家を直すために乾燥させた木を、寸法通りに切って、釘を差して、ベッドと机と椅子を作っただけだけど?」しれっ


「……なんか、やっぱり理不尽……」


乾燥した木と、ランタンを持って、ワルツと共に”仮の作業部屋”へと入ったものの……。

一息吐くまえに、目の前で家具が組み上がった様子を見て……。

思わず怪訝そうな表情を浮かべるルシア。


そんな彼女に向かって、ワルツは小さく笑みを浮かべると……。

床を指差しながらこんな言葉を口にした。


「さーて、ここからが問題よ?次は、この床を剥がして、排水口とか作らなきゃならないからね」


「えっ?せっかくお家が綺麗になったのに、床を剥がしちゃうの?」


「うん。だって、水の通り道を作らないと、お風呂としてどうかと思うし……」


「もしかして……この部屋にお風呂を作るの!?」キラキラ


「え、えぇ……そのつもりよ?(やっぱり、お風呂が楽しみなのね……)」


と、眼を輝かせながら、尻尾をブンブンと振っているルシアに対し、少々引き気味に返答するワルツ。


それから彼女は浴槽を作るための役割分担について話し始めた。


「じゃぁ、私が床板を剥がすから、ルシアは剥がした床板を外に運んでもらえる?」


「うん。分かった!」


そんなルシアの明瞭な返答を聞いてから、ワルツは早速、床板を剥がし始めるのだが――


メキメキメキッ……


「じゃぁ、これ。とりあえず外に置いてきてくれるかしら?」


「うん」ブゥン「終わったよ?」


「……転移魔法」


「えっ?」


「ううん。何でもない……(そうだったわね……ルシアには、その手があったわね……)」


ワルツは、ルシアの転移魔法のことをすっかりと忘れていたらしく、次々と虚空へ消えていく床材を前に、微妙そうな表情を浮かべる他なかったようである。


それからも淡々と作業は続く。


「まずは外につながる排水溝を設置して……」


チュウィィィィン!!

スパパンッ!

トトトンッ!


「排水溝に水が流れるように、床のレベルに傾斜を付けて……」


チュウィィィィン!!

スパパンッ!

トトトンッ!


「まぁ、水道はどうしようもないから、とりあえず浴槽だけ置いて……」


(中略)


「はい、出来上がり!」


「……ねぇ、お姉ちゃん。一つ聞いてもいい?」


「ん?何?」


「お姉ちゃんがお城を建てようと思ったら……何日くらい掛かりそう?」


「んー、まぁ、サイズにもよるけど、1日一杯あれば十分じゃない?」


「…………そっかぁ」


ワルツの非常識とも呼べる超高速建築を目の当たりにして、むしろそれが普通なのではないかと思い始めた様子のルシア。

そんな彼女の思考は、日を追うごとに、ワルツのスペックを基準としたものへと書き換えられていくことになるとか、ならないとか……。


こうして。

ワルツとルシアの2人は、生活に必要な家具と、そのついで(?)に風呂の作成を終えたのであった。


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